22節 フラムvsプリディスア
エッグプラントの機体の中、プリディスアは紫色に光っているメモリを見つめる。
先ほどとは違い、その表示は『残量60%』となっている。
(最初の爆発で5%、先のパンチで3%と言ったところか……)
思考する外側、突如、機内の無線機が鳴り響く。 不審に思いながらも、プリディスアはそれに応答した。
「誰だ」
『第8師団を率いている分隊長、キリア・ティゴスです! ただいまプリディスア特別大佐と同じ炭鉱内、まさしく真下に位置しており、人質の奴隷たちを確保しております!!』
「そうか」
答えながら、プリディスアは自身のいる真下、点々とまばらに散っている人影を確認する。
そしてその中でも特に端の方、出入り口の場所に多くの人影が溜まっているのを視認した。
『人質を使ってその女と交渉すれば、被害を最小限に抑えながらこの場を占拠できると考えます!!』
「いや、人質は使わない。そのままそこで待機していろ」
『え……し、しかし……』
「上官の言うことが聞けないのか?」
『……いいえ。了解しました』
そう言い残し、無線が切れる。
プリディスアの視線は、再びフラムの方へと向いた。
(人質か……奴には有効だとは思えんな。何せ周りの被害を何も考えていない)
先ほどの攻撃然り、フラムの視線は、以前としてプリディスアだけを見据えている。
(……どちらかと言えば、視界に入っていないと言うべき……か……)
思考の終わり際、天井を蹴り飛ばしてフラムが肉薄。
「──ッ!」
すぐさま小型ミサイルを放つも、しかしフラムはそれら全てを空中で身を捻りながら回避し、エッグプラントの機体へとしがみつく。
「クソ……!」
引き剥がそうと動き回るが、しかし接着剤で繋がっているのかと疑うほどに、フラムの体はびくともしない。
「!」
そして、再びフラムの拳に熱が集まる。
プリディスアの脳裏に過ったのは、先ほど殴り飛ばされた光景。
すぐさま踏ん張りを効かせるため、壁に足をつけ、固定する。
(この攻撃で減る残量は僅か3%……! 踏ん張れば問題ない……!)
受けの姿勢を構えたプリディスアに対し、フラムはただニヒルに笑い、一言口にした。
「……『灼羅拳』」
発火、炸裂。
「──ッ!?!?!?」
放たれたパンチは、先ほどなど比べ物にならないほどの威力を見せ、エッグプラントの背後、踏ん張りを効かせるために足を付かせた岩壁に巨大なクレーターを作ってみせる。
何よりプリディスアが目を見張ったのは、先ほどは僅か「3%」しか減らなかったエネルギー残量が、今回は「6%」も減ったこと。
揺れる機体、肌を焦がす熱の中、ふと思い出したのは、決戦前、エクリエイから聞いた魔法の知識。
『魔導士は普段無詠唱で魔法を使う。詠唱する手間が無駄だと感じてね。……けれど実際、詠唱した時の魔法の威力は、無詠唱で唱えた時とは比べ物にならないほどの威力になる』
『何故だ?』
『詠唱はね、導線の役割を担ってるんだ。無詠唱ではバラバラに拡散されたエネルギーが、詠唱込みだと一つの指向性を持って攻撃される。完全詠唱なんてした時には、使用者の実力にもけれど、小さい村ぐらいなら簡単に吹き飛ばせる……』
『……』
『だから気をつけなね。詠唱された魔法には』
フラムの口にした言葉。威力の上がった魔法。
(こ……これが……詠唱か……!)
パンチの衝撃で、両者にわずかな間隙ができる。
その隙を、プリディスアは見逃さない。
「おっ」
すぐさま離れ距離をとったプリディスアに、フラムは頭をかきながらエッグプラントの装甲を確認。
「ダメージ入ってねーよなー多分」
されど、再び痛みが走る自身の拳を軽く動かしながら、彼女の笑みは深まる。
「まあ、壊れるまでやればいい話か」
―――――――――――――――
「クソ!」
なんとか距離をとったプリディスア。いくら攻撃が無効かされてようと、その衝撃までは消すことができない。
落ち着きを取り戻そうと地面に着地したその瞬間、感じたのは、背筋を凍らす、冷たい殺気。
「──ッ!」
後ろを振り向いて見れば、フラムが壁を走りながらこちらへと向かっている。
『クソがっ!!!』
再び射出する幾つかの小型ミサイルを、しかしフラムは綺麗に交わし、さらには殴り飛ばしてミサイル同士をぶつけることで無効化。
「化け物がっ」
距離を取るため、エッグプラントの足に付いている走行用タイヤを回し地面を走る。
その様子を見たフラムは、まるで狩りを楽しむハンターのように、目を細めて加速。
「そんなんじゃすぐ追いつくぞ〜〜……と!?」
だが、か加速しようと地面を踏み込んだその瞬間、不意にフラムの足元が爆発した。
それは、プリディスアの逃げ際、エッグプラントの足元に格納されていた地雷。
通常であれば人の体など粉々にするであろうその威力。
起動した爆発を、プリディスアは固唾を飲んで見守るのみ。
「……ッ」
そして間も無く、爆煙が晴れ、揺らめく人影が現れた。
「あー痛かった」
喰らった本人であるフラムは、多少汚れた程度であり、傷の一つも確認できない。
『……ッ……ならば……これでどうだ!!!」
次にフラムへ向けたミサイル。それは、教会でヤコブに向けて放って見せた、エッグプラントの持つ最高火力の武器。
『吹き飛べーーーッッ!?』
スイッチを押し、射出するその瞬間、しかしプリディスアは確かに見た。
「『魂眠りし煉獄よ 地獄の輪廻 その刃を持って屠たまえ』……」
完全詠唱。
フラムの隣、そこに現れた、炎を纏いし地獄の番犬。
「『"獄灼獣" 【勾虎】』……!」
エッグプラントよりも、更にひとまわりは大きいであろう白く輝くその獣は、プリディスアが放ったミサイルをそのまま喰らい、無力化。
遅れて聞こえてきた極小の破裂音は、フラムの生み出した獣の腹から聞こえた音。
絶望が、プリディスアの牙を折る。
「爆ぜろ」
だが、放心状態のプリディスアに、フラムは容赦をしない。
主の命令に従うように、白き獣はそのままエッグプラントへとしがみつき、自身の体を爆散。
「──ッ!!!!!」
強烈に輝く閃光。
炭鉱内の温度は急上昇し、銃を持っていた兵士たちは、熱せられたその武器の温度に耐えきれず、次々と地面に落としてしまう。
その光景を、その場にいた誰かが、後に語った。
「その時見た閃光は、私たちが昼間、地上で見る太陽に、とても似ていた」
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