19節 違和感
爆発した教会。そこから約2km離れた地点。
そこに、ある男を乗せた車が、道路脇の木に衝突し、止まっていた。
「これか……」
そしてその場に、先ほどまで教会で死闘を繰り広げていたセクアが到着する。
「……」
その車を注意深く確認したセクアは、確かに運転席と後部座席に、2人の人間が座っているのを確認。
念のため、何体か水流生物作り出し、それに車のドアを開けさせる。鍵のしまったドアは、水流生物によって力づくでこじ開けれられ、容易に中への侵入を許した。
そして間も無く、中に乗っていた人間が引き摺り下ろされ、セクアの前へと運ばれた。
「具合はどうですか? オブロス元司祭」
「う……うぅ……」
車に乗っていたのは、アルカディアを裏切り帝国と共謀した男──オブロス。
ヤコブとの舌戦を繰り広げたオブロスは、後の場をプリディスアとエクリエイに任せ、一足先に車で逃亡していたのだ。
「どうですか? 我らが教皇様のお力は」
「う……はぁ……」
オブロスは現在、数分前にヤコブが使った『眼下不全』の影響下にいたために、運転手ごとその魔法を喰らい、正常に動けなくなっていた。
「並の魔導士のものであれば、オブロス元司祭はとっくにその範囲内から逃げれていたのですが……相手が悪かった」
「ハァ……ハァ……グフッ」
嗚咽、吐き気、あらゆる語感機能を混乱させられているオブロスには、筆舌し難い苦しみが押し寄せている。
セクアの声すらも、今のオブロスにはまともに頭に入っていないだろう。
「気分がすぐれないところ申し訳ありませんが、拘束させていただきます」
だがそんなことはお構いなしに、セクアはオブロスと運転手の体を拘束する。
以上によって、セクアのこの戦いでやるべきことは、完全に終わった。
(あとは教皇様とバカを待つのみ……まあこれも時間の問題──)
瞬間、セクア違和感が襲いかかった。
(──プリディスアは……?)
ヤコブが放った『眼下不全』。
半径3kmにも及ぶその範囲に、プリディスアは間違いなくいた。逃げ仰るその後ろ姿を、確かにセクアは肉眼で捉えていたのだ。
(何故……プリディスアには効いていない……?)
『眼下不全』は魔導士以外には等しく効果がある。
そしてプリディスアは非魔導士。効かないなんてことは無いのだ。
だが、彼は問題なく〝エッグプラント〟を操縦し、逃げ切った。
「……」
確かに感じる不安の中、しかしセクアは、帝国の協力者が現れる可能性を考えてオブロスの元から離れるわけにはいかない。
ただ、2人の無事を祈るしかないのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
鉱山の中、その炭鉱を制圧したフラムは、泣き疲れ眠りについた白髪の少女を肩にかけながら、退屈そうに上を見上げていた。
(は〜〜〜。……何でもいいから、おもろいこと起きねーかな〜)
全く身にならないことを考えていると、突然、白髪の少女が目を覚ます。
「起きたか?」
「……」
フラムの質問に、少女はまたしても口を開かない。
「……なんで無視すんだよ」
「……」
「?」
ふと、少女がフラムの裾を引っ張る。
それにフラムが少女の方を見ると、少女はフラムでなく、何故か上を見つめていた。
「上?」
少女に釣られ、フラムも上を見る。しかし眼前に広がるのは、無機質な炭鉱の景色のみだ。
「……なんもねーじゃ──!」
瞬間、フラムは確かに気づいた。
極上のメインディッシュ、その匂いを。
「……クククッ」
自然と、フラムの口角が上がる。
その表情に、フラムの横にいた少女が、恐怖で顔を引き攣らせた。
「……ん? ああ……悪いな。でもちょっと下がってろ。危ないしな」
フラムの指示に従って、少女は不安にしながらもその場から距離をとる。
そして少女に続くよう、他の奴隷や投降した軍人たちも距離を取り始めた。
全員が、何か起こると察知したのだ。
「さぁて……どこから来るかな……」
歪ませた表情は獣の顔。襲いくるご馳走をその直感に乗せて索敵する。
そしてその上空。鉱山の外側で、その料理は確かに届いていた。
『……』
眼前に広がる鉱山のその中、待ち受ける猛獣を肌に感じながら、対魔導士決戦用兵器── 〝エッグプラント〟は、静かに降下を開始した。
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