18節 セクアvsエクリエイ
「!」
セクアの言葉で、エクリエイは気づいた。
自身の足元、その場所が水浸しになっていることを。
「何だ……これは……? いつの間に……」
「貴様が長話をしている間にだ。よほど熱心にしていたようだな」
セクアが得意とする魔法は、水を操る魔法。
エクリエイが話をしている間に、セクアは教会に張り巡らされた水道管内の水を操り、それらを背後から忍び寄せた。
今のエクリエイは、言うなれば四方八方から武器を突きつけられているのと同義だ。
「銃は、持ち主の理解度によって威力が変わるのか?」
「なに?」
「爆弾は、使い手の理解度によって、爆発力が変わるのか?」
「何が言いたい!」
「戦場において、武器への理解度など意味はない。重要なのは使い方……そして最も強いのは、分かっていても対処できない、理不尽さだ」
言い終えると同時に、エクリエイの足下の水が、槍へと形を変えて襲いかかる。
「くっ……!」
気づき、防御をしようと魔法を使おうとするが、間に合わず腿裏を貫通。
「グ……くぅ……!」
ズボンから血が滲み出し、思わずエクリエイは膝をついてしまう。
その様子にセクアは、見下すように冷たい視線を向けるのみ。
「この程度で足をつくとは……鍛え方がなってないんじゃないのか?」
「貴様……さっきから……私は年上だぞ……! 貴様より……人生を生きているんだ……!」
「ならば引きこもり期間が長すぎたのか?」
「なに……!?」
一歩、また一歩と、セクアはエクリエイの元へと進む。
「帝国が魔法技術の研究をすることは今まで無かった。にも関わらず貴様のような魔導士がいると言うことは、我々に対抗するために、つい最近研究を始めたと言うこと。世界一魔法の知識が集まっている我が国から魔導士の裏切りが出るとは考えにくい……と考えれば、大方、どこにも属さない野良の魔導士を雇うと考えるのが打倒か」
「……ッ!」
「バレバレだぞ」
せめてもの抵抗か。情報を渡すまいと口を紡ぐエクリエイに、セクアはもう一発、脇腹を水で作った槍で貫く。
「その様子から見るに、どうやら俺の仮説は当たっているらしいな」
「ハァ……ハァ……」
歩みを進めたセクアが、ついにエクリエイの目の前へとたどり着く。
「それでどうする? 降参するなら、命だけは助けてやる」
「ハァ……ハァ……!」
だがその瞬間を、エクリエイは待っていた。
「──ッ! 死ねぇぇぇぇえええ!!!!」
「!」
エクリエイの言葉と呼応して現れたのは、先ほども使って見せた爆発する球体、エクリエイの〝専攻魔法〟。
その球体が、今度は3つとなってセクアに襲いかかる。
冷静に、先ほどと同じ水の壁と水鳥を瞬時に飛ばすセクアに、しかしエクリエイは狂気に迫る声で叫んだ。
「無駄だ!!! この距離じゃ細かい対応は不可能!!!」
エクリエイの言う通り、再び3つの球体は軌道を変え、発射された水鳥を交わしセクア目掛けて突き進む。
「殺れぇぇぇええ!!! 『爆裂気球』!!!!」
〝専攻魔法〟。その名前を口にしたことにより、先ほどの放った無詠唱のものよりも、さらに威力と速度が増し始める。
防ごうとセクアは水の壁を動かそうと魔法を重ねがけするも、しかし間に合わず、3つの気球は爆発──
「──!」
瞬間、セクアを包み込んだのは強烈な閃光。
詠唱によって威力を上げた3つの球体は、先ほどの爆発など比べ物にならない威力で、壁を、窓を、天井を、地面を、果ては周りの植物園も、教会の4分の1──およそ半径70mの範囲を瞬時にして吹き飛ばす。
爆発による余波被害を考えれば、その範囲は更に何倍にも膨れあがるだろう。
爆発の光は、教会から離れた都市部からも確認することができ、まずその爆心地にいた生物は生き残らない。
まさしく、エクリエイが最後に見せた渾身の特攻だった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……」
エクリエイによる爆発。教会はなんとか原型を留めることはできたが、それでも復興するには相応の時間を要するだろう。
その中を、1人の男が歩き進み、そして爆心地で足を止める。
そこに横たわるのは、2人の焼死体。
どちらも原型が分からないほどにズタズタとなっているが、そのうちの一つ、セクアの死体が、突如水となって地面に溶けた。
その様子を、爆心地に歩いた男──セクア本人が見届ける。
「……保険を張っといて良かったな」
そうセクアは、エクリエイが長話をしている最中、水道管内の水を操る他に、もう一つ罠を張っていた。
それは、自身の作り出す水性生物で、もう1人の自分を作り出すこと。
当然、水性生物を作り出すだけではすぐに招待がバレるため、セクアはエクリエイが話をする間に幾つかの魔法を重ねがけ、加えてエクリエイを挑発、攻撃することによって注意を散漫にし、容易にバレないように細工した。
自ら近づいたのは、その分身に気を取られている間に、本人は裏から回ってトドメを刺すため。
その直前にエクリエイが自爆攻撃を仕掛けるのに気づいたため、セクアは爆発に巻き込まれることなく逃げることができた。
最後に、分身に魔法を使っているよう見せたのは、エクリエイに偽物だと悟られないようにするためだ。
「……」
月下、セクアは見る。焼死体となり、朽ち果てたエクリエイの体を。
そして鼻を貫く焼き焦げた匂いに不快感を表しながら、一言吐き捨てた。
「プライドの高い奴は、それによって身を滅ぼす。……いい教訓になったな」
セクアは見事、ヤコブの任務を達成した。
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