15節 現着
ヨハネスブルク支部、市街地。
プリディスアの攻撃によって壊滅的な打撃を受けたそこは、現在遅れて到着した教会のメンバーによって救命活動が行われていた。
その内、救助にあたり現場を指揮していた1人が、ヤコブの下へと報告に来る。
「ひとまず、負傷者は全て救出しました。……間に合わなかった者もいますが……」
「……」
不意打ちによる爆撃。
ヤコブがいなければ、被害はもっと大きくなっていただろうが、それでもやはり、救えなかった命があるというのは大きなもの。
少なくとも、命を落とした者の親族や親しい人からすれば、被害の大小などどうでもいいことだ。
「教皇様は、最善を尽くされました。今回の結果に至らぬ点があったとすれば、それは私たちの警戒心の薄さです。このようなことが今まで無かったために、迅速に動くことができませんでした」
「……」
部下からのフォローの言葉に、ヤコブは思う。
(……ヨハネスブルク支部の人間である以上、油断を誘っているだけも考えられる。魔力の波長から本心だろうけど、この状況ならば的見方関係なく同情する気持ちになるのも考えられる。そもそもとして、ただ僕に媚を売るためにやっている可能性だって──)
ハッと、自身の心中の醜さに、ヤコブは吐き捨てる。
「……何を考えてんだ」
「何かおっしゃられましたか?」
「いいえ。なんでもありません」
そして、プリディスアを追うために、背中を向けた。
「あとは任せます」
「はい」
飛ぶ直前、ヤコブはもう一度、その被害を目に映す。
先に起こった狂気の暴動は収まり、今は皆、泣き終わった赤子のように鎮まり、ただただ哀愁を纏っている。
しかし、ヤコブは違う。
どんなに目の前の光景を見ようとも、頭にこびりついた先ほどの光景が、必要なまでにヤコブの視界の邪魔をする。
同時に溢れる、様々な思い。
後悔、怒り、悲しみ、憎しみ、そして──諦観。
「……ッ」
自身の気持ちに目を背けるよう目を逸らし、ヤコブはその場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ヨハネスブルク支部、プレミア鉱山。
プリディスアによる、鉱山で働く奴隷の人質作戦は、ヤコブの未来視と、セクアの水流生物によって失敗に終わる。
人質の身柄を抑えるため派遣された帝国軍人たちは、その魔法に対抗するため、掘り進められた炭鉱内、ドーム状に開けた場所へと、人質数人を連れて移動していた。
「クソッ!! あの化け物、まるで銃が効かねえ! どうすりゃいいんだ!!」
「プリディスア特別大尉とも連絡がつかない!」
「八方塞がりか。……ッ来るぞ!」
カサカサと、まるで虫のような足音を立てながら、その水性生物は現れる。
「打てーーーっ!!!」
1人の号令を契機に、その場にあったトロッコなどを使って作った簡易バリケードの後ろから、一斉掃射が始まる。
だが、水流生物に当たる銃弾の数々は、まるで川へと投げ入れられた小石のように、効く様子を見せはしない。
「クソが!!」
吐き捨てながら、何人かが手榴弾を投げつけ、銃を打っていた他の兵士たちがバリケード裏へと全身を隠す。
そしてまもなく、強烈な爆発音が辺りに響き、様々な破片が辺りに飛び散った。
その最中、バリケード裏から感じる衝撃音を受けながら、隙間から覗いた兵士は確かに見る。
爆発によって片方の腕が吹き飛んだ水性生物。その欠けた腕が、水流となって吹き飛んだ腕の方へ移動し、元の形へと戻っていく光景を。
「ダメだ! 効いてない!」
「なんでもありかよ……!」
「どけ!!」
確実に迫りくる『水流生物』に、一際大きな体の兵士が、ロケットランチャーを携えて身を乗り出す。
「吹き飛べ!!」
発射されたミサイルは、豪快な排気音を出しながら進み、着弾。
先ほどの手榴弾よりもさらに大きな衝撃が走り、鉱山そのものがうねりを見せる。
衝撃で崩れ落ちる岩に注意を払いながら、兵士たちは、目の前の砂煙へと目を向ける。
「……ッ……あれ」
晴れた先に映っていたのは、見事に四散し、代わりに幾つかの水たまりができていた地面。
先ほどまで迫っていた水性生物は、その形を完全に失っていた。
「よしっっ!!」
「助かった……」
「ざまぁねぇ!」
緊張が途切れ、安堵の声が溢れ出す。
ひとまず外へ出ようと、皆がバリケードから出始めたところで、しかし前方の兵士は気づいた。
「おい……なんか、動いてないか……?」
「え……」
目の前にある幾つかの水たまり。その一つ一つが、ゼラチンのようにプルプルと震えながら、形を変えていく。
伸び縮みを繰り返しながら作り上げられた、蠍にも似たその物体は、先ほど見た水性生物と瓜二つの小さな個体。
そして形が整うやいなや、その小さな水性生物たちが1箇所に集まり出す。
「まさか……合体してる……?」
「……冗談じゃない」
状況を察した前方の兵士たちが、先ほどの悪夢を思い出し、発狂しながら急いでバリケードの方へと走り出す。
だが、その後を続いていた兵士と人質たちは、突如方向を変えて必死の形相で戻ってくる者たちに驚き、体が固まった。
「なんだ! どうした!」
「化け物が来る!」
「早くどけ!」
「落ち着け!!」
逃げ出す者、なんとか統制を取ろうとする者、人波に揉まれる者。
混乱が混乱を呼び、阿鼻叫喚溢れるこの場所で、だがただ1人、白髪の少女だけは、務めて冷静に俯瞰していた。
「……」
人波の隙間から、そもバリケード裏から、ただ一人、先ほどから暴れていた水性生物、その魔法を。
「……?」
そして、白髪の少女が水流生物に何かを感じた瞬間──彼女は来た。
「──ッ! なんだ!?」
突如、元の形へと戻った水性生物が巨大な火柱に包まれた。
その光景に、逃げ出した者たちも、混乱に陥った者たちも、皆動きを止め、目を奪われる。
そんな彼らの耳に、彼女の声は届いた。
「はぁー……ほんと、気が乗らねぇ……」
ツカツカと、重い足取りで現れたのは、赤い髪の少女──フラム・バルバルス・レックス。
ヤコブに言われ、人質開放のために鉱山へと向かった彼女は、今この瞬間、現着した。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。




