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灰の預言者  作者: 吉越 晶
第3章
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13節 欠陥品

 未来視は万能で無い。

 理由は、主に2つ挙げられる。


 まず第一に、未来視によって視れる未来は、未来視発動から()()()()()()()()()


 それはつまり、1秒かけて未来を見ても、見える未来はそこからおよそ0.1秒先という欠陥品。

 そのため、普通に使っては何の役にも立ちはしない。


 そのためヤコブは、その欠点を自身の持つ魔力でカバー。

 未来視の効果を常に強化し続けることで、通常視れるコンマ数秒先の未来を、()()()という超高速で流し、実質的に数秒先の未来を見る。

 だが、超高速で映像が流れる以上、その全てを一瞬たりとも見逃さずに捉えるのは、いくらヤコブといえども難しい。

 そのためヤコブは、その高速で流れる映像全てではなく、()()()()()()を瞬間的に捉え、そこから未来への因果関係を推測して動いている。

 

 当然、並の魔導士がそんなことをしようものなら、魔力は一瞬にして枯渇し、そのうえ一瞬で流れ込む情報量に処理が追いつかず脳が焼き切れる。


 〝預言者〟として生まれたヤコブだからこそできる技。


 そして二つ目。()()()()()()()()()について。


 予知夢も含め未来視は、基本的に自身の()()()()()()()未来しか映さない。

 そのため、自身の目の前にいる者が、その場でこれからどんな行動を取るのかは分かれど、目の前にいない者のは分からない。

 

 加えて、未来視が映すのはあくまで()()()()

 声などは聞こえないため、先のオブロスとの対談の様な場面では、自身に何が起こったのかその映像から推測するしか無い。


 その他にも、例えば未来視発動中は前が見えないなど、色々と不都合な点はあるのだが、少なくとも今ヤコブは、上に挙げた2つめのデメリットに悩まされている。

 プリディスアが目の前から居なくなった以上、これからプリディスアが何をするかはヤコブに判断する術は無い。


 プリディスアが教会から離脱したのは、今までの情報からそのデメリットを推測し、ヤコブに()を見させないため。


 その考えは、みごとに的中したと言えるだろう。


「……ッ」


 プリディスアがいない以上、これ以上未来視を使う理由は無い。

 未来視を使うのに回していた魔力を、ヤコブは全て自身の空中浮遊へと当てる。

 いくら〝エッグプラント〟の移動速度が速かろうと、本気を出したヤコブの飛行速度ならば、追いつけるのも時間の問題。


「!」


 そしてまもなく、ヤコブは〝エッグプラント〟の後ろ姿を視界におさえる。

 その視線にプリディスアも気づいたのか、向きを反転させ、両者相対する構図となった。


『随分と早く追いつかれてしまいましたね』

「逃げたところで、意味なんて無いですよ」

『意味? 私が何も考えずあの場を離脱したとお考えで?』

「……」


 もちろん、ヤコブもそんなことは微塵も思っていない。

 その証拠に、追いついた時点でヤコブは、これからの展開に先手を打つため、未来視を再び発動している。


 だがそんなことはどうでもいいと言わんばかりに、プリディスアは不敵に笑った。


『……あそこではなく、()()だから良いのです』


 言ってプリディスアは、()()()()

 そこには、ここヨハネスブルク支部に住む人々の住宅街。

 

 夜深く、本来であればほとんどが寝静まっている時間だが、しかし〝預言者〟であり国の〝教皇(トップ)〟でもあるヤコブが空に現れたことで、人々は起き出し、一目見ようとまんじゅう状態になっており──


「──!」


 瞬間、ヤコブは未来を()た。

 プリディスアが小型ミサイルを撃ち、そしてことごとく破壊されていく街並みの光景。そして、その災禍に巻き込まれ、叫びを上げる国民の姿。


『見えましたか!? これから何が起こるのか!!』

「ッ!」


 言い終わると同時に、プリディスアは〝エッグプラント〟の背中に格納されていた小型ミサイルを射出。

 先ほど放ったミサイルほどの威力はないが、複数個あるがために、おそらくその破壊規模は変わらない。


 何よりも、その結果は未来視が出している。


「……おい、何だあれ?」

「なんか……降ってくる……?」


 夜空に輝く星の輝き。その一部が、自分たちの方へと向かってきていることを、国民たちも気づき始めた。

 最初の内はぼんやりと眺めていただけのその景色を、しかし近づくにつれはっきりとなる()()姿()に、どよめきは、悲鳴へと変わっていく。


「ミサイル! ミサイルだ!」

「逃げろ! 早く!」


 恐怖は伝染していく。

 先ほどまで静かな夜だったその場所は、あっという間に狂乱の地へと変貌した。


「邪魔だぁ!! どけ!!!」

「絶対手を離すな!! (はぐ)れるな!!」

「おかーさん! どこ!? おかーさん!!」


 暴徒とかした民衆が、自らその場を地獄にする。

 皆が叫び、混乱し、悲鳴をあげて戦慄する。

 突如終わりを告げる人生。ヨハネスブルク支部に住む誰もが、それがこの瞬間、自分に起こるとは思ってはいなかった。


「もう……終わりだ……」


 耳を(ふさ)ぎ、目を背けたくなるような終わりの景色。

 白い閃光が大衆を包み、誰もが終わりを悟ったその時──


「──ッ!!」


 ──しかし、『奇跡』は間に合った。


「なんだ……これ……?」


 1人の声を契機に、周りも次々と空を見上げる。

 そこに映るのは、降り注ぐ小型ミサイルを喰らっていく、()()()()()()


 先の教会に放たれたミサイル同様、予め未来視で確認していたからこそ、ヤコブは瞬時に対応できた。


 そしてその姿に、この場のアルカディア国民全員が胸を震わす。


「おおお……! 教皇様……! 教皇様だ!!」

「ありがたい……本当にありがたい……!」


 悲鳴は歓声に、涙は感動へと変わっていく。

 奇跡を讃える国民たち、その歓声を背に受けヤコブは、だがしかし、自身の心に謎の()()ができているのを感じていた。


(……なんだ? 胸が……)


 そして、一瞬でも意識を逸らしたその隙が、あまりにも致命的だった。


『──さすが救世主様。実に、見事なドラマだ』

「……え?」


 突如、ヤコブの耳に届いた()()()

 音の鳴る方へ視線を向ければ、守ったはずの街並みが、()()()()()()()()()()


「……な……なんで……」


 時間は決して待ってくれない。

 ヤコブが混乱する間に、先ほど作った歓声は、再び悲鳴へ、絶叫へと変わっていく。

 その声に恐る恐る後ろを振り向けば、現実は非情、爆破によって起こった巨大な砂煙が街を包んでいる。


「な、なんで……?」

『簡単なことだよ』


 困惑するヤコブを他所に、答え合わせと言わんばかりにプリディスアは口を開く。

 

()()()()()()()()()()()。そして、それらが今爆発した。それだけだ」

「そんな……だって、未来視じゃミサイルによって建物──ッ!」


 気づく、自身の犯した過ち。


 ヤコブが未来視で視る光景は、超高速で動く映像、その中の()()()()()()

 そしてヤコブが視たのは、プリディスアが()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()光景。


 どちらも間違ってはいない。だが、その両者に()()()()()()()()()()()()()()


(それじゃあ……僕の早とちりで……)

 

 未来視の欠点を補うために、超高速で動かした。

 その結果、流れる映像の場面場面、無意識の内に、必要な映像とそうでないものとで切り抜いてしまい、完結させていた。


 なんという、未熟な失敗。

 そしてプリディスアは、その弱点に気づいていた。


『やはり、未来視で見れるのはあくまで結果であり、その因果関係までは分からないようだな。……ここを実験場にして良かった』

「……」


 自身の過ちに、呆然と、体を小刻みに震わすヤコブ。

 その様子にプリディスアは、満足そうに笑みを深めた。


『では、私はそろそろおさらばといこうかな』

「……ッ、逃すと思うか──」

『良いのか? そんなことをすれば、後ろで助けを求めている国民が死んでしまうぞ!』

「!」


 下から聞こえる確かな悲鳴。

 それは、一様に一つの言葉を繰り返している。


「助けてぇぇえ!! 教皇様ぁぁあ!!」

「やだ! 死にたくない!!」

「お願い!! 誰か!! 誰かこの人を!!」

「娘が! 娘が生き埋めに!! 教皇様!!!」

 

 ──助けて、と。


「……ッ」


 すぐさまヤコブは旋回し、地上へと向かっていく。

 そしてその隙をつき、プリディスアはその場から離脱した。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。


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