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灰の預言者  作者: 吉越 晶
第3章
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7節 芽生える悪意 その1

「……ふふふ、これはまたご冗談を」

「冗談ではありませんよ」

「……」


 空気が張り詰める。

 お互いに顔は笑っているが、心中は穏やかでは無い。


「冗談では無いと? ……笑えませんぞ。いくら教皇様といえど」

「ええ。笑えません」


 ヤコブが言葉を否定する中、しかしオブロスは冷静だ。


 普通の人間であれば、隠し事を当てられた際、いくら平静を保とうとその内側までは誤魔化せない。焦りの感情で心を支配されるものだ。


 しかし、オブロスにはその焦りが無い。まるで、全てが想定通りだと言わんばかりに。


「証拠はあるのですか? 私が国を裏切ったという」

「セクア」

「はい」


 言われ、セクアが指を鳴らす。


「!?」


 その音を皮切りに、突如、オブロスの前に水でできた鏡が現れる。そして映し出されたのは、ヨハネスブルク支部を作った目的でもある、採掘場の映像だ。


「これは……」

「ここから車で少し、1、2時間ほど移動した場所にある鉱山。プレミア鉱山の映像です」


 そこに映るのは、苦しそうな表情で労働に励む人々と、それらを監視するよう立っている、銃を身につけた軍服姿の者たち。


 その軍服の肩には、パスリエ帝国の国旗が縫い付けられている。


「ここは、私たちアルカディアの大事な資源場であるプレミア鉱山。ここで採れた資源が、この国の、全世界にある支部の生活を支えています」

「……」

「その場所に、関係が良好ではない帝国の者たちがいる。それは何故ですか?」

「……魔法で作られた映像です。そちらでどうとでも見せられるでしょう」

「ならば結構。正直に自白する魔法をかけて、偽りかどうか確認します」

「……もし、偽りだったら?」

「教皇を辞め、この国を出ます」

「……なるほど」


 今のヤコブの姿に、普段の慈愛に溢れた様子は無い。

 あるのは、敵意だけだ。


 幼い頃を、そしてヤコブの人間性を知っているからこそ、オブロスは理解する。

 目の前の現人神もまた、覚悟をしてきたのだと。


「……ふっ」

「……」


 問い詰めるヤコブの姿勢に、オブロスは一度、鼻で笑った。


「……やはり、感情が読めるのか」

「はい」


 呟いた言葉への返答。それは、誤魔化すのは無駄だ、という意味の込められたもの。


 その返事に対し、オブロスは、愉快に手を叩きながら歩き出す。

 逃げやすいドアの(そば)ではなく、逃げにくい椅子の方へ。


「ははははは。そうか、やはり気づいていたのか。だから今回、何の連絡も無しに、突然ここに来たわけだ」

「半分正解ですね。英雄捜索の方も本当ですから」

「なるほど」


 歩き、そしてヤコブの目の前の椅子に座り込む。逃げる気など無いと言わんばかりに、腰深く。


「一応、セクア殿がおかしなことをしないよう、監視カメラを設置していたのですがね」


 言いながら、オブロスは監視カメラの設置場所に指を差す。だが、ヤコブたちはそちらを見ようともしない。目の前の敵に、注視するのみだ。


「監視カメラの映像では、セクア殿はこの部屋でずっと眠っていたはずです。一体いつ魔法を?」

「セクア」

「はい」


 再び、ヤコブの合図でセクアが魔法を発動する。

 両方の手のひらを合わせ、そして開くと、水でできた薄い膜のようなものが張ってあり、そこには、セクアが眠っている映像が映し出されている。


「ほー……なるほど。それをカメラに貼り付けていたのですか。この部屋に入った瞬間に」

「いいえ」

「?」


 オブロスの言葉を、セクアは訂正する。


()()()()()()()()()にです」

「……全く、これだから魔法と言うのは度し難い」


 自分たちが、すでに後手に回っていたことを、オブロスはこの時ようやく理解した。


「……それで」

「?」

「何故、このようなことを?」

「……」


 少しばかり、ヤコブは逸れていた話を元に戻す。

 対してオブロスは、不適な笑みを浮かべた。


「……そこに映っている、労働に勤しんでいる人たちは、帝国の方々が提供してくれた人材です。分かりやすく言うならば、〝奴隷〟と言ったところでしょうか」

「キサマ……」


 一歩、前へ出ようとしたセクアをヤコブが静止する。

 その仕草にオブロスは、足を広げ、見下すように(あご)を上げた。


「……アルカディアのスローガンは覚えていますか?」

「ええ、もちろん。〝平和〟と〝平等〟です」

「ならば、ここに映っている映像が不適切であることは、十分分かっていますね」

「もちろん」

「……」


 その一言は、オブロスもまた、覚悟を決めてこの場にいることを理解するには、充分なものだった。


「このような行為は、その〝平和〟と〝平等〟を重んじるアルカディア国民、全ての人への侮辱です」

「侮辱? またまたご冗談を。国民を侮辱しているのは、そちらの方でしょう」

「何だと──」

「セクア」

「……はい」


 セクアのイラつきが募っていく。

 人一倍愛国心の強い彼だからこそ、オブロスの言い分に納得のできない部分があるのだろう。


 それを分かった上で、オブロスに悪びれる様子は無い。


「町の人々を見たでしょう? 彼らは、生き生きと生活をしています。奴隷を使い、働く必要が無くなったからです」

「奴隷を使っていることを告発すれば、彼らは怒りに燃えますよ」

「あり得ませんな。何せ、()()()()()()()()ですから」

「……ぇ」


 オブロスの一言に、ヤコブの言葉が詰まる。

 それは、今まで信じてきた国民の姿を、揺るがすものだからだ。


読んでいただきありがとうございます。

面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。


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