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灰の預言者  作者: 吉越 晶
第3章
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6節 予測不能

 日が沈む教会の中、携帯が鳴る。

 それは、オブロスが事前にプリディスアと決めていた開戦の合図。


「失礼します」


 部屋にノックの音が響き渡り、ドアが開かれる。

 入ってきたのは、宗教服を身に纏った一人の男。オブロスの部下だ。


「教皇様が、お戻りになられました」

「……分かった」


 瞑っていた目を開け、オブロスは携帯を懐にしまう。


「では、向かおうか」


 椅子に深く沈んでいた体を起こす。

 それと同時に、同じく反対側に座っていた、インバネスコートを着ているシルクハットの男も立ち上がる。


「覚悟はできましたか?」


 シルクハットの男が問う。うっすらと見える口元の笑みを深めながら。


「……ふ、愚問だな」


 一言。そしてオブロスは、シルクハットの男と共に、ヤコブの元へと足を進めた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「お帰りなさいませ」


 開口一番飛び込んできたのは、1日振りに合うセクアの言葉。


 教会に戻ったヤコブは、まるで昼間の賑やかさが嘘のように静かな中、セクアが休息を取っていた部屋へと案内された。


「ありがとうございます。セクアも、休むことはできましたか?」

「はい。おかげさまで」


 軽く言葉を交わす二人の(かたわ)ら、退屈なのか、フラムは大きな欠伸をする。


 部屋の構造はいたってシンプルだ。

 食事を済ますためのリビングに、その奥に寝室、そして入り口近くに風呂場とトイレがある。

 リビングについているベランダへ出るための窓からは、教会の周りに並ぶ雄大な自然が目に入る。


「〝英雄〟に該当しそうな人は見つかりましたか?」

「いいえ。特にピンとくる人はいませんでしたね」

「作用ですか……」

「ま、元から眉唾みたいなものです。地道に頑張りましょう」

「はい」


 喋りながら、ヤコブは部屋の窓を一つずつ開けていく。その様子に、セクアとフラムが疑問を浮かべる様子は無い。

 何故ならば、ヤコブの持つ同心円状の2つの瞳孔、その内側中央の瞳孔が、外側の瞳孔に重なるようピッタリと重なっているから。

 それは即ち、未来視を使っている合図であり、故に今のヤコブの行動には何かしらの意図があるということ。

 だからこそ、2人はヤコブの行動に疑問は持たない。彼の行動は、これから起こりうる未来への解答だからだ。


「……?」


 ──だが、今回ばかりは少しおかしかった。


 その違和感に気づいたのは、誰よりも未来視を使っているヤコブ本人。

 違和感の正体。それは、これから会い対するであろうオブロスがこの部屋を出ていく際に、何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 敵がいる様子も、攻撃を受けた様子も無い。


 では何故、敵であるはずの彼を見逃したのか。


「……! どうぞ」


 不意に、ノックの音が響いた、

 「失礼します」の言葉と共に、ドアの扉が開かれる。


 入ってきたのは、ふくよかな体型に天然パーマに柔和な表情と、印象的な司祭服を身に纏った男──たった今未来で見た男である、オブロス本人。


「……」


 先の未来の光景があったためか、少しばかり硬直するヤコブ。しかし、そんなことなどお構いなしといった様子で、オブロスは無遠慮に口を開いた。


「お疲れのところ申し訳ありません。夕食のご用意ができたことをお伝えしたく……何故窓をお開きに?」


 固まっているヤコブよりも、オブロスの注意は大きな窓が開いてることに方に向く。

 その質問に、何か意図があるのかと考えながら、ヤコブは自然体でいることを意識する。


「……空気の入れ替えをしようと思いまして」

「作用ですか」

「……」


 淡々と告げられた言葉の、しかし内面とは違うその機微を、ヤコブは見逃さない。


(未来で何があったのかは分からない。……ですが、()()()()()()のは分かっている。ならば、それに対処するまでのこと……)


 気合いを入れ、入り口反対──つまりオブロスの対角線上に置いてある椅子へと、ヤコブは足を進める。


「では、入れ替えている間に夕食を済ませてしましましょ──」

「単刀直入に言いますね」

「……」


 言葉をぶつ切りに、ヤコブが椅子に座り込み、セクアとフラムがその後ろに並ぶ。

 半ば強引にオブロスの口を妨げたその態度は、紛れもない「拒絶」の表れ。


 例え感情を読めなくても、ここまでの空気を出されれば、どんな人間でも相手の気持ちは計りとれる。


「アルカディアを裏切りましたね。オブロス」

「……」


 夕食の時間は、すぐそこだ。


読んでいただきありがとうございます。

面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。


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