6節 予測不能
日が沈む教会の中、携帯が鳴る。
それは、オブロスが事前にプリディスアと決めていた開戦の合図。
「失礼します」
部屋にノックの音が響き渡り、ドアが開かれる。
入ってきたのは、宗教服を身に纏った一人の男。オブロスの部下だ。
「教皇様が、お戻りになられました」
「……分かった」
瞑っていた目を開け、オブロスは携帯を懐にしまう。
「では、向かおうか」
椅子に深く沈んでいた体を起こす。
それと同時に、同じく反対側に座っていた、インバネスコートを着ているシルクハットの男も立ち上がる。
「覚悟はできましたか?」
シルクハットの男が問う。うっすらと見える口元の笑みを深めながら。
「……ふ、愚問だな」
一言。そしてオブロスは、シルクハットの男と共に、ヤコブの元へと足を進めた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「お帰りなさいませ」
開口一番飛び込んできたのは、1日振りに合うセクアの言葉。
教会に戻ったヤコブは、まるで昼間の賑やかさが嘘のように静かな中、セクアが休息を取っていた部屋へと案内された。
「ありがとうございます。セクアも、休むことはできましたか?」
「はい。おかげさまで」
軽く言葉を交わす二人の傍ら、退屈なのか、フラムは大きな欠伸をする。
部屋の構造はいたってシンプルだ。
食事を済ますためのリビングに、その奥に寝室、そして入り口近くに風呂場とトイレがある。
リビングについているベランダへ出るための窓からは、教会の周りに並ぶ雄大な自然が目に入る。
「〝英雄〟に該当しそうな人は見つかりましたか?」
「いいえ。特にピンとくる人はいませんでしたね」
「作用ですか……」
「ま、元から眉唾みたいなものです。地道に頑張りましょう」
「はい」
喋りながら、ヤコブは部屋の窓を一つずつ開けていく。その様子に、セクアとフラムが疑問を浮かべる様子は無い。
何故ならば、ヤコブの持つ同心円状の2つの瞳孔、その内側中央の瞳孔が、外側の瞳孔に重なるようピッタリと重なっているから。
それは即ち、未来視を使っている合図であり、故に今のヤコブの行動には何かしらの意図があるということ。
だからこそ、2人はヤコブの行動に疑問は持たない。彼の行動は、これから起こりうる未来への解答だからだ。
「……?」
──だが、今回ばかりは少しおかしかった。
その違和感に気づいたのは、誰よりも未来視を使っているヤコブ本人。
違和感の正体。それは、これから会い対するであろうオブロスがこの部屋を出ていく際に、何故か自分を含め誰もその行動を止めようとしていないことだった。
敵がいる様子も、攻撃を受けた様子も無い。
では何故、敵であるはずの彼を見逃したのか。
「……! どうぞ」
不意に、ノックの音が響いた、
「失礼します」の言葉と共に、ドアの扉が開かれる。
入ってきたのは、ふくよかな体型に天然パーマに柔和な表情と、印象的な司祭服を身に纏った男──たった今未来で見た男である、オブロス本人。
「……」
先の未来の光景があったためか、少しばかり硬直するヤコブ。しかし、そんなことなどお構いなしといった様子で、オブロスは無遠慮に口を開いた。
「お疲れのところ申し訳ありません。夕食のご用意ができたことをお伝えしたく……何故窓をお開きに?」
固まっているヤコブよりも、オブロスの注意は大きな窓が開いてることに方に向く。
その質問に、何か意図があるのかと考えながら、ヤコブは自然体でいることを意識する。
「……空気の入れ替えをしようと思いまして」
「作用ですか」
「……」
淡々と告げられた言葉の、しかし内面とは違うその機微を、ヤコブは見逃さない。
(未来で何があったのかは分からない。……ですが、何かが起こるのは分かっている。ならば、それに対処するまでのこと……)
気合いを入れ、入り口反対──つまりオブロスの対角線上に置いてある椅子へと、ヤコブは足を進める。
「では、入れ替えている間に夕食を済ませてしましましょ──」
「単刀直入に言いますね」
「……」
言葉をぶつ切りに、ヤコブが椅子に座り込み、セクアとフラムがその後ろに並ぶ。
半ば強引にオブロスの口を妨げたその態度は、紛れもない「拒絶」の表れ。
例え感情を読めなくても、ここまでの空気を出されれば、どんな人間でも相手の気持ちは計りとれる。
「アルカディアを裏切りましたね。オブロス」
「……」
夕食の時間は、すぐそこだ。
読んでいただきありがとうございます。
面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。




