5節 神殺しを!
「感情を読む……」
時刻は遡り、ヤコブたちが訪れる数日前。
プリディスアは、教会ヨハネスブルク支部の中で、オブロスと密談を交わしていた。
「ええ。……まあ、あくまで噂程度ですけどね」
「ですが、やれないことはないということですね?」
「はい」
「……」
オブロス・オネスト・オブサティオ。
魔導士が創り、そして発展させてきたアルカディアにおいて、非魔導士でありながら持ち前の観察力と先見性で教会内外の問題を解決し、僅か6年で当時7人しかいなかった司祭の地位まで上り詰めた男。
司祭は、アルカディア内で3番目に相当する位だが、現教皇であるヤコブの経験が浅く、実質的に国の象徴となってしまっている。そのため、先代教皇であり現枢機卿のシュリアムが政治を担うトップとなっており、その繰り上がりで枢機卿に次ぐ2番目の位となっている。
その実績の持つ男が言ったことは、決して無視のできるものではない。
「私は魔導士ではありませんからね。正直魔法というのがどう言った物かは分かりません。一度体験したことはありますが、それでもかろうじて魔法の魔の字が分かるかどうかでした」
一口、オブロスはカップに入った紅茶を啜る。
「……そんな私でも、あれの凄さは肌で感じ取れました」
「………」
通常、魔力というのは全ての生命に宿っている力。
それは、言わば感情が形となった力だ。そして感情という曖昧な概念を、形として作り出し操るのが魔導士。非魔導士からすれば、それは理解の及ばない神秘。
「オーラとか、立ち振る舞いでは無い。そのような言葉で表すのが失礼だと思うほどに、強大で、そして安心できるナニカ。……私はね、あの瞬間に初めて、魔力という物を感じ取りましたよ」
その神秘を、ただ生きているだけで全ての生物に感じさせる神性。
「……あれは、まさしく〝現人神〟です」
「………」
プリディスアは、オブロスを信じている。
それは、オブロスが今まで残した成果から裏付けられた絶対的な信頼。
その男が、体を振るわせ、冷や汗を浮かべている。
「……確かに、あの方は凄まじい。私も、一度会ったことがありますから、慰めではなく、事実として分かります」
「あのような体験をしていながら冷静を保っていられるのは、流石としか言いようがありませんな」
「……」
カップを持ち、プリディスアは、その水面に映る深妙な面持ちの自分を見つめる。
(……感情を読む。もしその噂が本当なのだとしたら、今度の訪問で誤魔化すことは不可能か……いや、あるいはすでに、半年前の監査の時点で我々の気持ちが揺らいでいたのを見抜かれていたのかもしれない)
目を瞑り、結局口にしないまま、プリディスアはカップを机に戻す。
「……もし敵対したとして、パスリエ帝国からの協力も含めた我々の勝率は?」
「0.01%もあれば大したもんでしょうな」
「……ふふっ」
「?」
思わず、笑いが込み上げた。空笑いが。
「では、何故貴方は国を裏切るような真似をしたのですか?」
ニヒルな笑みで問う。
先見性を持ち味とするオブロスが、何故はなから勝率の薄い戦いを挑んだのか。
オブロスへの信頼からくるその疑念が、プリディスアの中では腑に落ちなかった。
「ああ……そんなの、簡単な理由ですよ」
その質問に、オブロスもまた、ニヒルな笑みで答える。
「その勝率よりも、将来この国が存続している確率の方が低いからです」
「……………」
あまりにも……しかし絶対の確信が込められたその言葉に──
「……ハ……ハハハハハハハ!!!」
──プリディスアは、笑った。
「そうか! なるほど! いや、考えてみればその通りだ! ならばこそ、より生き残る確率の高い方を選ぶのは当然だ!! ハハハハハハ!!」
「ええ、その通りです。我々のような弱者は、命こそが資本ですから。……フフフ」
オブロスも、プリディスアに引っ張られ口元が緩む。
笑うことしかできない状況に、しかし、その笑い声はどこか気持ちよく感じる。
「ええ! ええ!! やって見せましょうとも! 0.01%未満! 十分ではありませんか! たかが一万回程度で、神を超えられるというのなら!!!」
「ええ、そうですとも。やってやりましょう!」
握手を交わす。それは、二人の関係が、ただのビジネスパートナーで無くなったことの証明。
笑い、笑い、そしてこの瞬間から、二人は、神殺しの計画に取り掛かった。
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