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灰の預言者  作者: 吉越 晶
第2章
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20節 吉報

 アルカディアローマ支部中央都市、〝セントラル〟。

 その中央に(そび)え立つ教会総本部の一室に、前教皇にして現枢機卿──シュリアムの執務室はある。


「──入れ」

「失礼します」


 一言断りを入れ、その扉が開かれる。

 入ってきたのは、シュリアムのことを長年右腕として支えてきた男──オネスト司祭だ。


「どうした?」

「はい。実は、取り急ぎお伝えしたいことがありまして」


 そう言い、オネストは傍に抱えていた書類を机の上へと置く。


「これは?」

「先日教皇様から要請のあった、元盗賊たち保護の件のレポートなります」

「それがどうかしたのか?」

「実は、要請のあった元盗賊のメンバーが、リーダーを含め全員、何者かに殺されていたのです」

「……」


 報告を受け、シュリアムは重い息を吐く。


「それは……実に残念なことだ。ヤコブには言ったのか?」

「はい。部下からの報告ですが、心を痛めている様子だったと」

「だろうな……。あの子は昔から他者への思いやりが人一倍強い子だった。後で私の方からも連絡を入れておこう」

「きっとお喜びになりますよ」

「ああ……ん?」


 会話を進めながらレポートに目を通していたシュリアムは、一つ、ある項目で目を止める。


「何だ、これは?」

「はい。それが、お伝えしときたかったことになります」


 それは、一見するとただの現場報告だ。

 元盗賊のメンバーが魔法で殺されたことや、どのように攻撃され死に至ったのかが記述されてある普通の報告書。


 その中でシュリアムが目を引いたのは、備考欄に書かれている内容だった。


『調査員一名が負傷。原因不明。()()()()()の可能性あり』


「……新種の魔法?」


 それは、宗教国家であると同時に、魔導士の作った国であるアルカディアだからこそ、目の()まる内容だった。


 アルカディアには、魔法史開闢以来6000年にもわたる膨大な量の魔法の知識が備蓄されている。

 その数は数万種類にも及ぶとされており、アルカディアに所属する魔導士の多くは、それら既出の魔法を使用するのが全てである。


 特に現在の世界の状況からも、全く新しい魔法を生み出すのは、ヤコブのような特異体質でない限り不可能だと言うのが一般的な定説だ。


「一応、その現場で負傷した調査員に話を聞いてみたのですが、正直、荒唐無稽な話でして」

「言ってみろ」

「何でも、現場に残っていた魔力残滓に()()()()()で指を切ったと言っていまして」

「……!」


 通常、魔力とは魔法の程をなして初めて他者へと危害を加えることができる。

 そのため、魔法を使った後に残る魔力残滓に触れたところで、人体への影響は殆ど無い。


 それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「シュリアム枢機卿……?」


 そしてシュリアムは、それに該当する人物を知っている。


「……()()()()()を呼んでこい」

「……え?」


 出された指示に、思わずオネストは聞き返してしまう。


「聞こえなかったのか? バルバルスを呼んでこいと言ったんだ」

「いえ……失礼しました。……しかし、本当に呼んでも良いのですか?」


 〝バルバルス〟。

 それは、教会が抱える選ばれた者だけが入ることを許されるエリート組織、〝聖天騎団〟のメンバーにして、それらを纏める()()()()の名前。


 現在は、パスリエ帝国との境界線、その前線基地にて、〝聖天騎団〟のメンバーを連れて帝国の動きを監視している。


 オネストが心配しているのは、まさにその点だった。


「もしもバルバルスを呼び戻しては、統率が取れなくなるのでは……?」


 〝聖天騎団〟に所属しているメンバーは、全員が高い戦闘能力を保有していると同時に、なかなかの曲者が揃っている。

 フラムが良い例だろうか。言うなればバルバルスは、それら曲者を纏めることのできる唯一の存在。


 何よりも緊張の走る前線基地でそのような曲者集団を配置できているのは、その存在のおかげでもある。


「大丈夫だ。バルバルスならば、そこら辺は上手くやる」

「……分かりました。すぐに連絡します」


 不安はあれど、しかし長年支えてきた主人が言うのならばと、オネストはそれに従う。

 シュリアムの判断力が優れているのは、誰よりも彼がよく分かっている。 


「ああ……それと──」

「?」


 だがしかし、時にはその判断力を疑う時もあるものだ。


「──()()()()()も呼んでくれ」

「……………は?」


 その一言は、先ほどの様な聞き返す意味など無い、ただ純粋な疑問からきたものだった。


「オネスト。突然のことで混乱しているだろうが火急の要件だ。すぐに取り掛かってくれ」

「し……しかし……」

「オネスト」

「──ッ、はい。分かりました」


 疑いの目を隠せず、しかし指示には従って、オネストは部屋を後にする。


 そして残ったシュリアムは、1人窓の外を眺めながら、昔を回想するようにポツリと呟いた。


「……生きていたのか」


読んでいただきありがとうございます。

面白いと感じて頂けたら、ブクマ、感想、評価の方よろしくお願いします。


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