19節 訃報
カレドニア家。
100年ほど前までは、〝御三家〟と呼ばれる家柄の一角であった魔導士の家系。
今現在では、そもそもとしてその〝御三家〟自体がかつてほどの力を有していないため、その家柄はかつての輝きを失っている。
しかし、それでも影響力は以前として存在している。
それを支える功績の一つが、とある道具の発明。
〝魔法調具〟。魔法の込められた道具。
魔法を使えぬ者でも、簡単に魔法が使えてしまう代物。
そして、今まさにヤコブは、その〝魔法調具〟を使用していた。
「それでは、報告をお願いします」
『はい』
巻貝のような形の物を、電話を持つように耳に当てている。
そしてその貝殻からは、電子音の混じったような、かすれた声が聞こえてくる。
先日、シュリアムと会話をする際に使用した通信魔術を、そのまま道具として閉じ込めた〝魔法調具〟だ。
──通称、〝海説話〟。
その由来は、貝殻を耳に当てる、とある人魚の絵画がモチーフらしい。
主なメリットは、本来の通信魔術のように他者の生き血がいらないこと。
デメリットは、通話時間は持ち主の魔力量に依存し、さらには聞こえる声にノイズが混じり聞き取りにくいこと。
電話があればそっちの方がはるかに良いのだが、現在の世界において、電波はアルカディア各支部内と帝国内にしか存在せず、世界中どこでも使えるといった状況ではない。
『教皇様のご命令通り、盗賊のアジトと思しき洞穴を探索しましたが、全員の死亡を確認しました。……残念ではありますが、リーダーの男も亡くなったかと』
「……」
先日の一件から三日ほどが経過し、時刻は昼頃。
教会の人間の報告で、ヤコブは、盗賊のリーダーの結末を知る。
『魔法を使った際に残る〝魔力残滓〟が現場にあることから、おそらく魔導士の仕業であることは間違い無いのですが………いかんせん特定が難しく、ひとまずは教会内の魔導士に事情聴取をしているところです』
報告をする部下の声色から、捜査が難航していることが分かる。
実際、アルカディアに所属する魔導士の数は数百を誇り、その中から今分かってる証拠だけで犯人を見つけると言うのは、広い砂浜から別の砂つぶを見つけるほどに難しい。
そもそもとして、犯人がアルカディアの魔導士であるかどうかも分からない。どこにも属さない、野良の魔導士も存在する。
仮に国内の誰かが犯人だとしても、アルカディア内の人間のほとんどが外の人間に対し嫌悪感を抱いている時点で、まともに調査されているかも怪しいところだ。
「……分かりました。ありがとうございます」
海説話に流していた魔力を切り、ため息。
すると、フラムが眠そうにあくびをしながら口を開く。
「ま、そりゃそうだな。犯人探しなんてやったところで無駄だろ」
海説話より僅かに漏れ出た声を拾ったのか、フラムは、相変わらずの大胆不敵さで言い放つ。
その態度に、同じく音を拾い、しかしあえて黙っていたセクアが噛み付く。
「貴様! 一体何を──」
「だって事実そうじゃん」
反論しようとしたセクアに、しかしフラムは被せるて封殺する。
「何の魔法を使ったのかも分からない。野良の魔導士か教会内の魔導士かも分からない。そもそもアタシたちは今、世界の危機を救うためだか何だかで動いてるんだろ? なのに関係ないことで時間を使ってるのに対して無駄って言うことに、何の間違いがあるんだよ」
「それは……」
フラムの意見に、セクアは言葉を詰まらせる。
それは、彼女の意見が正しいと分かっている何よりの証拠だ。
それでも、セクアは言葉を探せずにはいられなかった。
その理由は単純で、これ以上、憧れの人の悲しんでいる姿を見たくないという、自分自身の気持ちの問題からだ。
「……もしかしたら、今回の犯人が〝最悪の未来〟の手がかりになるかも……」
「……はぁ!?」
それが、突拍子のない発言だとは、セクアも分かっていた。
「お前何言ってんだよ! そんなんあり得るわけ──」
「何の魔法を使ったか分からないと言うことは、それほどに珍しい魔法なのかも知れない! もしかしたら私たちが知らないような……それこそ人類にとって脅威になるような!」
「いやいやいや! 話が飛躍しすぎだろ! ていうか決めつけがすぎるだろ!」
「分かってる! でも可能性はゼロじゃないはずだ!」
「お前なぁ──」
「フラム。セクア」
「「!」」
加熱する両者に、ヤコブが重く、口を開く。
「すみません。僕のせいで、お二人に必要のない言い争いをさせてしまった」
「何をおっしゃいますか! 私はあくまで、今ある可能性の中から最悪を予想しただけで──!」
あくまで自分の勝手な行動だと、庇うよう言葉を続けるセクアの肩に、ヤコブはそっと手を置き静止する。
その際に見えたヤコブの表情は、2人を安心させようと無理やり作った、悲しげな笑顔。
「……ッ!」
その表情に、開いている口を、セクアは閉じた。
これ以上言葉を続けても、それはかえってこの人を苦しめることになるのだと理解したから。
「ありがとうセクア。私のことを傷つけまいと頑張ってくれて」
「……いいえ。勿体無い……お言葉です……」
頭を下げるセクアの肩をもう一度軽く叩き、続いてヤコブはフラムの方を向く。
「フラムに対しても、改めて謝らないといけませんね」
「だから一々謝んなくていいって」
「……ありがとうございます」
フラムの傍若無人な振る舞いが、今はヤコブの心に染みる。
先日、仲直りをしたことで2人の関係性がより深いものになったことは間違いない。
「今回の件は、確かに心苦しいものとなってしまいました。……しかし、だからと言って足を止めて良い理由にはなりません。フラムの言う通り、〝最悪の未来〟へのカウントダウンは、今こうしているうちにも刻一刻と迫っているのですから」
言い切り、ヤコブはその場で膝をつく。
そのまま胸の前で手を組み、そして──祈った。
彼らの安らかな眠りを。もう二度と、このようなことは繰り返させないと心に誓って。
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