こんにちは、王宮医師団統括秘書ハイジです
「本当にこれしかなかったのですか?」
「それはもちろん、当主就任と同時に秘書がいてもおかしくはないでしょう?数人いる秘書の一人、今日はたまたま私だった。それでいいのでは?」
ワタクシはしれっとモレル伯爵の秘書として王城に押し入ることにした。ちょっと5歳くらい年齢が上に見えるように変装して……まぁ大丈夫でしょう。
なんでか知らないけどワタクシは平時の王城の参代を断られている。
宰相が寝返った今となってもそれを解除すれば宰相の寝返りを気づかせるので完全に締め出されている形ですわね。
重大事ならそれこそ次代司法大臣を推薦する際に一緒に王城へ入ることもできるが普段ならなんのようですか?本当に直接来る必要が?とネチネチと聞かれる。
なんでこんなにうるさいのかしら?人をテロリストか暴漢か革命家みたいに……。
「おお、モレル伯爵!今日は早いですな!なにか問題でも?」
「パド家令、当主就任で秘書を少し増やしましてね。いつもいるわけではないのですが万が一問題がおきた時に王宮に連絡をして貰う必要があるので顔合わせで連れてきたのですよ、ハイジ」
「お初にお目にかかります、パド家令。王宮医師団統括秘書ハイジでございます」
「おお、よろしく、家令のパドです。妙齢の美人さんだが……伯爵の?」
「いえいえ、彼女は前の騒動で潰れた商会で働いましてね、旦那さんが私の顧客だったので働いてもらってるのですよ。当主になると秘書がいないと忙しくて……父の仕事と私の仕事は別でしたので手が足りないこと足りないこと……」
「先代はお忙しい方でしたしね、モレル伯爵は仕事が増える形にはなりますが……」
「あくまで統括がメインの仕事で医療関係は医師団に任せようと思います、マッサージの方で貢献することになるでしょう」
「ハハハ、またまた……先代が現役の頃から王家を支えていたのはあなたでしょうに」
「いえいえ、それこそ王宮の雑務事務を取り仕切るパド家令の働きには及びません」
「私こそ宰相閣下やモレル伯爵、王家執事の皆様に比べれば……大して働いておりませんとも」
この会話はお前の主はお前が思っているよりも偉いやつだぞと新しい部下の前で恩を売るあれですわね。まぁ別に恩を売ろうと思ってやってるわけでもないでしょうが、要は同じ立場になった際にはちゃんと俺を褒めてくれよっていうやつですわね。
それこそ新しい執事や、ともすれば従者に直接重要ごとを連絡して王城を回る可能性もあるわけですし、こうやってメイドに見せつけてパド家令は偉い人だと刷り込むわけですね、みんながみんな貴族が王城や王家のメイドをやってるわけではありませんし効果はあるでしょう。
「では、モレル伯爵また顔を出しますね」
「ええ、いつでもどうぞ」
去っていくパド家令を見ながらこの方はどっちの統括なのかしらと考える。
「モレル伯爵閣下」
「なんですか?ハイジ」
「パド家令は王宮家令なのですか?王家家令なのですか?」
「…………兼任です、去年までは第1王子侍従長が王宮家令を……」
「ご愁傷さまです」
ああ、2人といっしょに亡くなったのでしたわね。強権になりそうなものですけど……あの国王相手じゃそうもならないでしょう。
あの国王は王宮と王家の財布を同一してる気がする、第2王子は完全にそうだ、王家の支給費が足りないなら王宮費用を削らせて自分に回させてる。
財務で決まった王宮費用と王家のポケットマネーは別なのだが……なんというべきか愚かしい。
その上踏み倒しをしたり好き勝手やっていたのだから呆れる他ない。
王城内を進み、一室へ到着するとモレル伯爵が口を開く。
「では、王宮医師団に紹介を……筆頭医師に見せるだけで十分ですけどね、彼は王宮に部屋を持つ常駐医師ですから……」
「その方が?」
「ええ、そうですよ」
モレル前伯爵時代に毒殺相手の選定をしていたり、1年以上前までは王家の暗殺担当をやっていた方ですのね?
モレル前伯爵の毒薬が便利すぎて仕事を失い困窮している筆頭医師。
恐らくここから復権を狙っている、もしくは統括の座を横取りしようとする可能性もありますわ。
まぁそもそもヤブ医者のモレル伯爵を使って暗殺して自分は目立たないようにしようとしてめんどくさがった結果ですけど。気がつけば大体の貴族をモレル伯爵が、自分が市井の小物などの暗殺と成果でも水を開けられ、省庁掃除課が暗殺実行役になってからは毒殺相手の選定だけが仕事になり、モレル前伯爵死亡に省庁掃除課の逮捕で暗殺者として復帰して成果を上げるには格好の機会。
さて、どう出るのかしら?
「リッパー筆頭医師、おはようございます」
「ああ、おはようございますモレル王宮医師団統括、それと……」
「おはようございます、モレル王宮医師団統括秘書のハイジです」
「これはご丁寧に、ここで筆頭医師をやっているジャック・リッパーです」
なんとなく名前からして人殺してそうですわね。本当になんとなくですけど。
「基本は秘書としての仕事がメインなのですが王宮に入る際に紹介をしておく必要もありますし……私とリッパー筆頭医師が2人共いない状況もないでしょうから何かあったらお願いいたします」
「ああ、そういうことでしたか。わかりました、王宮に入れない時は私の名前も出して結構ですよ」
「いや、助かります」
とりあえずはこれでいいですわね。基本はモレル伯爵の名前で入り、それ以外ではリッパー医師の名前で入る。これで出入り自由ですわ。
モレル伯爵も緊急で何処かに行くこともありますし、ワタクシが王宮に行って不在なことくらいはいくらでもあるでしょう。調査開始ですわ。
ハイジ「ま、こんな変装で十分でしょう、20くらいに見えるように……」
モレル「おはようございます公女殿下」
ハイジ「…………なんでわかりましたの?結構マジでやりましたわよ?」
モレル「体は嘘をつきませんよ?」
ハイジ「(気持ち悪い……)」




