つまりワタクシの計画はこの変態に見抜かれたということですのね?
エリー「もしもし、私エリー!筋肉探偵に追い詰められてますわ!」
あの世のアーデルハイド「ちょっと何いってるかわからない、夫とデート中だから霊界通信切るね」
「あらあら、ワタクシが大族長?壮大ですわね」
蛮族方面の監視を封じてもこういうこともありますか、致し方ありませんわね……。
王都の蛮族にももう少し指示しておくべきだったかしら?まぁこちらの価値観に合わせて普通に過ごすように命じたので仕方ないですわね。
ま、完璧な計画なぞあり得ない、そこを突かれたのはワタクシの責任ですわね。いいではないですの、いつでも殺せると思うだけで心が落ち着きますわ。
そもそも寝返りの打診だからそうはなりませんわね。
「いや、流石に壮大すぎましたか」
「ええ、面白くはありますが……」
「と、言うことは公女殿下が大族長より上ですか、北方の女王なだけはありますね、大族長より上でしたか」
「おや、まぁ……それはさらに壮大になってるのでは?」
「公女殿下が誰かの下につくなど壮大な話でしょう、上に立っていると考える方が普通です」
ワタクシをなんだと思っていますの!
その通りですわよ!
「トップに立つと公言してはばからない人物が蛮族の下についているのならそれこそ驚きでしょう。他にもありますが」
「なんでしょう?」
「王宮の近衛騎士の中で閑職にまわされている肉体は美しいが内面が腐っている連中の異動の噂ですよ、ロバツ王国の国境沿いの山に行くとか。近衛騎士も騎士も派遣されるとの噂ですからね、蛮族を攻めるのかと思いましたが変な場所ですし……ロバツ王国を攻めるにしてはおかしな話です、軍勢が少ない。と、言う事は公爵家が主力なのかと思いましたが特にそのような動きがないのは先の通り。蛮族を攻めるとしたら王国の騎士や軍人が役に立たたない、ロバツ王国を攻めるとしたら動きがなさすぎる。公爵の帰領も、公爵令嬢の帰領もない。かと言ってキサルピナ嬢を司令官にするのは少し無理でしょう、公爵家単体ならともかく……あんな王家の騎士と兵では、同格では従えないとか適当なことを言って指揮権を奪い取ろうとしてくるでしょう、そんな事を許す公爵家ではないでしょう?先代ヘス伯爵すらああなったというのに」
立派な方でしたわ、死ぬ時の一つの案はああでありたいと思う程度には。
「彼の最後は立派だったと思いますわ、ええ」
「…………続けましょう、そもそもこの時期に異動が出るのがおかしいのですが……重大事ということもまぁまぁあるでしょう。ですが……公爵派閥にもご友人の派閥も呼ばれていませんね」
「ただの左遷ですわ、超法規的措置関連で容疑があったうえで駄目だった人間を王都から離しただけ、政争に過ぎませんわ」
「何故あのような場所にまとめて?」
「監視しやすいでしょう?」
「グリンド元子息、ああ元グリンド元子息のジョンみたいな何も出来ない小物までわざわざ?」
「さぁ?居場所がないから勝手に行ったのでしょう」
「そういえばマルスン元近衛騎士団長の御子息もいらっしゃいますね、軍人として……一等兵になったようでバルカレス男爵令嬢は婚約者の昇進にお喜びでしょう」
下士官ですらないんですの?学院に入ってないとはいえ一応貴族ですわよ?本当に貴族の三男の息子程度ですけど。
まぁ不祥事で《《自裁》》で死んだ近衛騎士団長ではありますけどね、功績があるか問題なく勤め上げれば男爵でしたのに惜しかったですわね。
でも1年で最低昇進ってことは一応貴族としてもあんまり良くないですわね……。せめて上等兵になる程度には……期待薄どころではないですわね、まさに近衛騎士の父親の威をかる口だけ男でしたね。
「たかだか一等兵のことなぞ知ったことではないでしょう、功績なくば婚約破棄だと通達されていたのに上等兵にもなれなかったのですか?」
「上官に大層反抗してたそうですよ、自分は近衛騎士になるから丁重に扱えとか、このようなこと騎士にふさわしくないとか……婚約者に今すぐ口添えをするように手紙送ったらしいですがその部隊の判断で捨てておいたと。巻き込まれて部隊ごと蛮族に突っ込まされたらたまりませんからね、その場にいた友人が彼らがロバツ国境の山に飛ばされるのと代わるように戻ってきましてね。マッサージを受けながら色々愚痴っていましたよ」
ちょっと馬鹿すぎませんこと?不祥事起こして《《自裁》》された近衛騎士団長の子息が近衛騎士団に入れるわけ無いでしょう、入れたら謀殺すること確定ですわよ?
そもそも騎士団にも入れるかどうか……。入っても死にますね。
ちょっと近衛騎士の連中は騎士団に恨まれすぎですわ、今の人間はともかく前の近衛至上思想寄りの人間は普通に処分対象ですし……。
まぁこの分なら勝手に死にますわね。
それにしてもずいぶん顧客が多いのかそれとも友人が多いのか……。
これがノーチェックだったことが一番恐ろしいですわね。慢心はいけませんわね。
「ああ、そういえば……ポート伯爵子息もロバツ国境の山に派遣されるらしいですね、王家の……第2王子の推薦で」
あら!そうなんですの!じゃあ詰めに入りましたわね。
「ここの派遣は明らかに左遷ですからね、アレクサンダー女伯爵もここに反対派や過激派の兵を送っていますし、ゲドリドル近衛騎士団長、バルカレス騎士団長も横槍を入れられないように送る中で学院生であるポート伯爵子息の左遷、いや異動を通した。まぁ表向きは近衛騎士への暴力行為ですから反対はないでしょうが。ああそうだ、あとグリンド侯爵領に公爵家の兵が派遣されるという話がグリンド侯爵家の家臣から聞きましたが……」
内情ダダ漏れですわね、あー……でもまぁいざとなったら全部蛮族で押しつぶせますからねー……。
「ここまで来たらなんとなくわかりますよ、とうとう公爵家の怒りが頂点に達したのだろうとね。蛮族問題、第2王子、超法規的措置。蛮族問題が片付いていたら……いや、そもそも王家の対応を考えれば蛮族を抑えておく理由もないでしょうしね、そして王都から公爵領に流れてる物資が少ない……良い筋肉の商人と商隊が全然公爵方面にいかない。おそらく疾うの昔に公爵領は自立、独立状態にある。そうでしょう?」
「それは認めましょう、ですが毛糸製品は仕入れてますわよ?」
「ええ、良い筋肉の商人がいませんね、昔はもっとムキムキの商人と商隊が大勢公爵領に向かうと喧伝していたのですが……10年くらい前からですかね……徐々に減り始めた。しかし公爵領からの商隊は増えている。なにか新しい産業が生まれたとは聞いてませんね」
「機密ですわ」
「そうでしょうね、だから蛮族側の物品を売ってると思ったのですよ、王都に流れてくる蛮族の羽振りがよいので」
ああ、気前よくお金を渡してますし仕事も与えてますからね。
よく働きますよ?それこそ羽振りがよくなってもいいくらいにお金を渡すほどに、これは防げませんでしたね。宰相ですら指摘しなかったし突かなかった、指摘できれば公爵家を少し貶められた可能性があるのに。結構あの子達うまくやってたんですのね、じゃあこれはやっぱりワタクシの責任ですわね。
相手が筋肉大好きすぎて一枚上手だった、ってことですわ。
エリー「彼の最後は立派だったと思いますわ」
モレル伯爵「(なんで最後を知ってるんだ……?)」




