モレル伯爵との面会
マッセマー商会の馬車でモレル伯爵邸に向かいながらエリーさんと話をする。
何でも彼女は王都出身らしい、普段は買付や直接交渉で遠出していることもあるんだとか。
大抵シャーリーさんの命令でいないので数日出勤しなくても皆が許してくれてありがたいとか。いくらなんでも数日でないとよほどの遠出でないとサボってると思われるから嫌だそうで真面目じゃないのは口調だけっぽい。
やっぱり作中にいたキャラなんだろうか?なんか独特のクセがあるキャラって多いから。
下手すれば攻略対象より婚約者のほうがキャラ立ってるじゃない!いやこっちが男性向けゲームの可能性があるからそうなのかも知れないけど……。でも攻略対象も十分クセが強いか……。
流石にもう私のは乙女ゲーじゃないよね?男主人公どうした?寮はあるけどいるの?私は寮生活じゃないからもしかして世界線ごと外れてる扱い?
じゃあヴィリーの攻略ルートに入ったっぽい私はなんなのかしら……?安泰かはだいぶ疑わしいけど。
いまからエリーゼに屈して流石ですとか言って持ち上げる役に回って取り巻き化した方がいいかしら?
……よく考えたら一切接点がないわね、話したこともないし未だに婚約者のことで注意されたこともないわ。取り巻きが文句を言いに来たこともないし……そもそも学院でそんなに見ないわね。クラスも違うし当然だけど……。
本来なら普通コーススタートで上級コースは学年が進むとなのよね。
でも私は上級コーススタートだけど攻略キャラも関係者も誰もいないという……。いやわかるわよ、本来いた皇太子夫妻がいないから遺命として配慮されたかも知れないし、前世の記憶があるから一応のテストで高得点を取ったのかも知れない。
でも普通科普通コースって上級コースも主要キャラいないじゃない、むしろ貴族もほとんどいないし……皆は官僚科上級コースじゃない!
ララって村で畑仕事とか薬草採取とかばっかしてたのにゲームで官僚科なんて選んでたの!?あんた今まで学がないのに何目指してたのよ!
そんなことをしながらバイトでお金稼いで服買ってデート全振りで官僚科上級コースまで這い上がって生きてたの?
内面の描写でそれっぽいこと何も出さずに?
そう考えるとエリーも警戒して然るべきだわ、ハーレムエンドとかされたら大人しく幽閉されるわ、第2王子正妃となった後何してくるかわかんないもんね。
多分続編で反撃してくるんだろうな。それっぽい捨て台詞言ってた気がするし……今はうっすらとしか覚えてないけど。
私って地雷原でタップダンスしてた?これ官僚科に行ってたらもしかして早期に排除された可能性あるかな?
もしかして、今後のルートってどれだけセーターで媚を売って殺すのは惜しいと思わせるかの勝負?
そしてエリーさんの会話が私のセーターを高く評価している、お金は出すから一着作ってほしいという話になったところでモレル伯爵邸に到着した。
「あら~もう少し詰めたかったんですけど~」
「最優先でなければお受けしますよ?」
「本当ですか~!ありがたいです~じゃ材料費は私が出すので好きなものを商会から私のツケで持っていってくださいね~」
「公爵家の毛糸以外でいいんですか?」
「公爵家の毛糸で構いませんよ~」
「え、あれお高いのでは?」
「それぐらいは稼いでますよ~あの毛糸を買い占めてもお釣りが来るくらいには~」
そんな稼げるんだ、マッセマー商会。さすがにゲームでもバイトで一番高給取りなだけはある。
「じゃあ手の込んだ方を仕上げてからだから遅くなりますけど作りますよ」
「あ~採寸ですけど~」
「あ、大丈夫です、見ればわかるので、えーと上から」
「あの~御者さんが聞いてるので~」
「そうでしたね……えーと上から(小声)」
私は小さな声でサイズを答えるとエリーさんは驚いたようになぜわかるんですか~と聞いてきた。
「いや、経験ですかね……何か見ればわかるんですよ」
「そ、そうですか~一流の職人ってすごいんですね~」
「いや、まだ私は一流とは……」
「一流ですよ」
雰囲気の違う言葉に少しゾワッとしたが、屋敷玄関前まで着いたので降りましょうと言われ促されるように馬車から降りた。
到着してからはさほど待たずにモレル新伯爵に会うことが出来た。
まだゴタゴタしていて王宮へはさほど行ってはいないそうで、すぐ会っていただけるそうだ。
そうよね、最近お父さまが無くなって爵位を継いだんだから忙しいわよね。
お茶を一杯飲む間もなく現れたモレル伯爵にたいして、とりあえずお悔やみの言葉を申し上げた私は、続いて挨拶するエリーさんの流暢な挨拶に驚かされていた。
やっぱり貴族相手だとちがうのねー……。
それからは迂遠な、多分貴族的な会話が続いて少しだけ退屈させたが、エリーさんが少し噛み砕いて話してくれたのでなんとなくわかった気で聞けていた。
「あの……連絡役のことは聞いておられますか?」
「ええ、ただその……しばらくは忙しく……」
「ええ、それは重々承知ですので……無理は言いません。担当が変わったかの確認だけなので。目的はお悔やみの方で、本当に教えられるまでわからなかったので申し訳なく……」
「いえ、新聞にも乗らなかったので仕方がありません、むしろマッセマー商会で知って一緒に来ていただけてありがたいくらいで……」
「そうおっしゃっていただけると……非礼な自分も救われます」
「いやいや、非礼だなんて……昔はよく気遣ってもらいましたから……感謝しているくらいです」
「感謝?」
「よく庇っていただいたので……」
「いや、あれは流石に……モレル伯爵にちょっと横暴と言うか……うまく申し上げられませんが……」
そういった瞬間2人がぎょっとした感じで私を見た。
あ、不敬だったかな?
「あ、いや……まぁその……とにかく私は個人として感謝してるといいたかったので……」
「ええ、そうですね、この手のことは受け取っておくべきですわ~」
結構失言だったかな……。
「そういえば~新しい商品が~」
「おお!そうなんですか!」
露骨に話をそらしてる当たり地雷を完璧に踏み抜いたのかも知れない。
それからはなんとか話をそらそうという2人に申し訳無さを覚え、何故かお土産ももらい帰ることになった。
「ララさん、今日はありがとうございました」
「いえ、こちこそ、お土産まで頂いてしまって……」
「いえいえ、気にかけていただいたことが嬉しいのですよ。まだ私が爵位を継いだこともそこまで広まってませんしね。それでは……ああそうだ、エリーさん。時間があったらこの後で先程の新商品に関しての商談を行いたいのですが……どうでしょうか?」
「もちろん~商談の時は時間を開けますわ~。前の商談がない場合はですけど~ないのでやりましょう~。御者さ~ん、ララさんを無事送り届けた後は戻ってきてくださいね~」
「じゃあ、私は先に失礼しますね」
馬車の中で私はあの失言どれだけしくじったんだろうなと自己嫌悪に陥りながら家に帰った。
エリーさんのセーターも商会に納める手の込んだものと同じくらいにいいもの作ってあげよう……。
原作ララ「一番人気のあるコースで」
アーデル「(官僚科か……まぁエリーに会えば面白いから拾うでしょ)」
原作ララ「うおおお!なんか勉強難しいけど上級コースに上がってバイトしまくって貯めた金で婚約者持ちの男とデートしていい服とアクセ見せつけて冬には唾つけてる男全員に手袋編むぞ!」
アーデル「(エリーはこんな面白い人材にまだ気が付かないのかしら)」




