墓参りと任命式
「ここがイルディコさんの?」
「はい、変わりなくて良かったです」
休憩時間とした後、蛮族に指示しに行くとキサルピナと抜け出してこちらにやってきました。
これがあの……。
「何年ぶりですの?」
「どうでしたでしょうか……5年か、6年だったかも知れません。だいぶ昔のことのようです」
「もっと早く行かせてあげたかったんだけど、ごめんなさいね」
「いえ、我が主のせいではありません。政治的にも経済的にも戦略的にもこの時期まで待ったのは正しいことです」
「こうも弱いのなら案外5,6歳の時に終わらせられたかもしれないわね」
でも、それをしたら……何かあったとき蛮族が餓えてしまうわね……。
難しいところ……新参を冷遇するなんてありえない話ですわ。等しく我が子なのですから古参も新人もありませんわ。ただ能力によって地位を作る。そして誰もが生活に不安を持たないよう心を配る。
これが一番難しいんですの。
「我が主なら出来たと思います」
「嬉しいですわー!」
「さて、行きましょうか」
「もういいんですの?」
「我が主の案内に来ただけです。母の遺体はここに眠っていますが、心の器も魂も……ここにあります」
そう言ってワタクシを見つめるキサルピナ。
こんな時は自分の心臓を指さしたり自分の胸に手を置くものですわ?
なんでワタクシを見つめてるんですの?
「ガリアの墓をこちらに移しますか?」
「……そうですね、それもいいかも知れません」
「では改葬の用意をさせておきますわ、山向うから帰って来る頃にはできるでしょう」
「ありがとうございます」
「それからこのバーゼル山脈、いいえ、ガリアですが……」
「山脈自体がガリアなのですか?」
「ええ、公爵領全部のバーゼル山脈をガリアとしますわ」
「この山だけだと思っていました」
そんなケチ臭いことはしませんわ?あなただって騎士長に上り詰めたんですもの。ワタクシの族長騎士でも頂点。公爵家の騎士でも頂点。
あなたのお父さまは恩師にして弟子、そしてあなたも肌に合わないであろう学院で努力を重ね毎年首席を取り続けてここにいるんですもの。
ワタクシが学院に入学すると同時にあなたは卒業。ワタクシが学院にいる間は公爵家とワタクシの領土の差配は任せるんですから頼みましたわよ?
まぁ貴族政治とか他部署に分けてる商業とか専門外のことは流石に任せませんが。
「流石に山脈全部をガリアにはしませんけど、これくらいはいいではないですの」
「まぁ命名権は我が主の職務の範疇ですから、行使する方も貴族ではいないそうですが」
「あなたがこの土地の領主だから頑張るんですわよ?」
「えっ!?」
「何を驚いてるんですの?ここは5年も前にガリアに下賜した領地。奪還したのなら娘のあなたが継いでしかるべきでしょう?」
「いえ、しかし……」
「任せるべきところは任せなさい、全て自分でやる必要はないわ、いまは広大な山脈に過ぎませんが……各トンネルを拡張する。部族をすべて平等に扱う。これが現時点での主な仕事ですわ。それでも困ることがあったら相談なさい」
本当はこの山脈をぶっ飛ばせればいいんですけどね。
まぁ無理でしょう。山頂から土を取って山を削っても土の処分に困りますし、山が崩れたらたまりませんわ。
「できるでしょうか……?」
「学院で学べるわ、騎士科、軍事科、官僚科に政務科、授業は大体受けてるんでしょう?騎士と軍事は初陣済みで腕を見せたから大半が免除。蛮族に勝ったことがあることは公爵家が保証済み。実学はほぼ免除だから余裕があると思いますわ。これが終わったら政務の基礎を含めて叩き込みますわ。これで免除試験を受けなさい」
「ありがとうございます我が主」
「こういう時はありがとうお母さんか、ありがとうママのほうがワタクシも嬉しいですわ」
「…………ありがとうございます、母上」
「それじゃイルディコさん相手みたいですわ、はい、もう一度」
「ありがとうございます、お母さん」
「よく出来ました……ママとは呼んでくれないんですのね」
「私ももう14ですし……」
「よよよ~反抗期ですわー!」
「…………ありがとうございます、ママ」
「かわいい我が子ですわー!」
こういう素直なところは変わりませんわね!
「それじゃキサルピナ公爵、よろしくお願いしますわー!」
「公爵?」
「ワタクシの帝国が出来たらあなたは公爵ですわ?決まってるじゃありませんの?公爵領ガリアといったじゃありませんか」
「ライヒベルク公爵領ガリアではないのですか!?」
「それならそういいますわ。じゃあ簡易で任命式を行いましょうか。正式なのは建国後でいいですわね」
「…………本当に公爵に?」
「あなたの活躍はその地位に相応しいですわ、政務もできれば誰も文句は言わないでしょうし、できなくてもできる人間を部下にすればいいのですわ」
人間できることには限りはありますわ。それでもやれること全部やりたいというのも楽しいんですけどね。
「我が騎士ガリアの息女、騎士キサルピナ・ガリア。卿を我が帝国のガリア公爵に任ずる」
「謹んでお受けいたします」
「キサルピナ・ガリア、国家の藩屏としてさらなる活躍を望む」
「陛下の期待に答えられるよう尽力いたします」
ワタクシが手慰みに金細工で作った指輪をそっと彼女の指にはめる。
「これは公爵の証である、以後身につけるように」
「拝領いたします」
ふと、ガリアを騎士にしたときのことを思い出した。
この父娘はすっと切り替えるのが本当にうまいな、となんだかおかしくなってしまう。
本当は父の名前を名字にするのではなく、ライヒベルクを名乗らせたげたかったんだけど……。
「さぁ、いきましょう。皆様待ちくたびれてますわ、お次は内陸部蛮族の平定ですわー!」
エリーゼ・ライヒベルクが国を興した時に出された最初の命令の中には、キサルピナをキサルピナ・ガリア・ライヒベルクとしてライヒベルクの家名を追加で与えることと、エリーゼをママと呼ばせるというものがあった。
エリー「どうしてもママと呼びませんの?」
キサルピナ「至尊の位に付く方をそのようには呼べません、血縁でもないのですし……」
エリー「皆我が子ですわ!ママと呼べばいいではありませんの!」
キサルピナ「そう言うわけには……」
エリー「どうしても呼ばないつもりですのね!覚えてなさい!」
ジーナ「勅令!キサルピナにライヒベルクの家名を追加で与え以降はエリーゼ・ライヒベルクをママと呼ぶこと!(改めてなんだこれ?)」
キサルピナ「(何だこの勅令)」
蛮族陪臣「ママをママと呼ぶだけでなぜ勅令が?」




