ワタクシがバーゼル山脈の王ですわー!そしてこの地は……!
あれももう4年前なんですのね、王都に行ってよかったことは後ろの友人たちを得たことですわね。
この2年で一番の誤算は……。
「どうかなさいましたか?我が主?」
キサルピナが学院で不良になってしまったことですわね。最初の夏季休暇でお母様と言った時は涙をのんで諦めましたが……我が主ってなんですの?
しっくり来ませんわ。
「公爵家の騎士長さんがどうかしたの?エリー?」
「いいえ、何でもありませんわ。この娘反抗期で……」
「年上に反抗期はおかしいのでは……?」
「それはそれ、これはこれですわ」
「私は反抗期ではありません。いつでも素直です」
「そうですぜ!キサルピナのボスは主に忠実でいつでも手紙の文面を考えてますぜ!」
「リスクス!ここはいいから先に行って我らが主が来たと伝えに行きなさい!」
「わかりました騎士長!」
立場は変われどもリスクスの対応は変わりませんわね、キサルピナも昔ならママー!とかそうだよーとか言ってくれたのに……。
いいえ、子どもの成長を喜んでこそですわね。
「どんな……関係……?」
「おちょくり仲間でしょ(小声)」
「キサルピナ騎士長は騎士としても軍人としても優秀だと思うが」
「あーしらのとこ来たら腕だけならパパくらい強いかも」
「昔はエリーをママって呼んでたみたいっすよ」
「え?なんで?」
ママだからですわ?今の公爵家の騎士は新参は全員蛮族で固めてますわ、強いし忠誠があるし問題ないですわ。
「ところで観光に行くバ-ゼル山脈って蛮族の支配地域じゃないんっすか?」
「いいえ?ワタクシの支配地域ですわよ?」
「公爵でしょ?エリーはいっつも自分を公爵と同一視してるし」
「今の公爵領はワタクシが差配してますし……」
「えっ?そうなのですか?」
「普段から……王都にいるから……てっきり……」
「そう言えばそんなこと言ってたような……」
「へー意外……でもないか(小声)」
「なんか、それらしーじゃん?」
「まぁやるかやらないかならやってそうやしな」
「なるほど、道理で令嬢にしては色々できると思った」
「なんでも出来すぎじゃないっすか?」
もっと褒めてほしいですわー!自尊心が満たされますわー!
「お、人形劇やってるやん」
「ワタクシの劇団ですわ!」
「後援か?」
「主催ですわー!」
「主催ですか……たまに出るんですか?」
「もちろんですわー!」
「へぇ……人形劇の脚本……あったらいる?」
「いりますわー!」
「恋愛モノは!?」
「あ、ありますわ……」
アンの押しが強いですわね……。
「今日は出演できませんけどね」
「どうでもいいけど護衛多くない?騎士ばっかりだし……わらわもこの数には驚きよ」
「気の所為ですわ」
「まぁ貴族が多いしな、しゃーないやろ」
「まぁ高位貴族令嬢も多いですしね」
「万全にしておくに越したことはない」
「まぁ蛮族の国境だしね(小声)」
「え?ちょっと……ウチ」
「ああ、シャリーわかりますわ、蛮族との取引ができるはずって話では?と言いたいのでしょう。出来ますわー!」
「ほう、私も蛮族の武具に興味があるし戦術にも興味がある」
「あーしもちょっとはあるかな」
「本は!『高貴なる女王』みたいな話はあるの!」
「それわらわも気になる」
「蛮族の法ってどうなってるの!?」
「蛮族の組織や部族はどうなってるんすか?」
「ジーナのだけはワタクシが答えられますわ、強者絶対主義!そして頂点以外平等!まぁワタクシの管轄だけですけど」
「らしいっちゃらしいな」
まぁワタクシの管轄山向うの大半なんですけどね、ウィト国境にはもう接してますし、今回の戦争でラース、ヴェトオマー国境に接すればいいですわね、内陸部大族長
を下すのが今回の目的。たかだかバーゼルの一部を収める人数が多いだけのルディンなど前座、前菜、目次!とっとと降しますわ!
「ねぇエリー?」
「どうしましたアーデルハイド」
「なんで軍がいるの?」
「これから蛮族を攻めるからですわ」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
「レッツゴー!ですわー!」
「ちょっと待って!」
「どういうことですか!」
「ウチは人身売買は専門外やで!」
「えー……」
「戦争を観光って正気?(小声)」
「まぁ軍でも遠征をピクニックというしな」
「騎士でも言うよー」
「私達騎士じゃないっす……」
8人ともなんか元気ですわね!そう来なくっちゃ!
「蛮族の皆さまー!」
「軍が蛮族なのか?」
「触れたら面倒くさいから駄目っす!」
「エリーだし気にしたら駄目よ」
「アーデルハイドも流石ですね」
「とうとうこのときが来ましたわー!苦節4年!本来の計画から1年前倒しですわ!キサルピナ!」
「はっ!」
「先鋒はあ・な・た!ですわー!」
「承りました!」
堅いですわねぇ……固いよりも堅いって感じですわ。わーい!ぶっ殺すぞー!位になれませんの?
いや、昔もこんな危ないレベルじゃなかったですわね……。
「いざ!ルディンを降しに行きますわよー!!」
「ルディン前衛!騎士長が崩しました!」
「シュライヒャー歩兵隊!ルディンの町を制圧!決闘にて守将を撃破!打ち取りました!」
「ベルソル遊撃騎士隊、ルディン背後を付きました」
弱っ!一応ガリアを降した謀将でしょう?戦は不得手なのかしら?それにしても今までも私の子どもたちにも仕掛けても来ないし……。なんでかしら?
「我が主、ルディンが族長決闘を申し込んできました」
「ま、そうでしょうね。斬り殺して差し上げますわ!」
「殺伐としてるわね……戦争とはいえ」
「相手は拳での決闘を望んでいます」
「まさに蛮族だな」
「いや、小説に使えるかも……」
「は?……いやまぁ得意の獲物で戦うのは仕方ありませんわね。まぁ対等でワタクシも拳でいいですが」
「我が主にも拳で戦うよう求めてます」
「決闘だしね、獲物は同じってのはよくあるし当然じゃね?」
「は?それ今までの蛮族決闘と違うけどアリなんですの?別にいいと言えばいいですが」
「え、蛮族的にはなしなんすか!」
「ありかなしかで言われると……私よりもリスクスや経験が長い方に聞いていただきたいのですが……」
「誰か!長期の族長経験者!」
「俺は何処から突っ込めばいいんだよ(小声)」
「ベルベルお側に」
「もうウチは突っ込まんで」
「これありですの?」
「なしです、こうも負けかけてこんな事を抜かすのは我々的にもなしです」
「蛮族的にもないのか……」
ツッコミうるさいですわよ!茶々入れない!
「上等ですわ!ワタクシを誰だと思ってますの!将来この大陸を統べるエリーゼ・ライヒベルクですわよ!あなた達の大族長にしてあなた達のママ!このワタクシこそがトップに立つのですわー!」
「ママ?」
「ほっとけ(小声)」
聞こえませんわー!無視!
小物の一人くらいのしてやりますわ!
「ふん、逃げずに来たのは褒めてやろう。南方蛮族……いや北方の女王?どっちだ?」
一応停戦という感じで傘下族長の見守る中での決闘。なんですけどこのメンツ見てわからないのかしら?キサルピナ覚えてないんですの?美人になったからかしら?
それに、よくその立場で上から言えますわね……。負ける寸前だったくせに、どれだけ強いんですの?いや、強かったら武器指定は拳なんて情けない真似はしませんね。ぶっ殺して差し上げますわ!
「どっちもですわ」
「ふん、言うではないか、どちらも我らに恐れをなし手を出せなかったくせに」
食糧増産を持っていたのですわ、まぁ結構過剰生産しすぎたかしら?まぁこの後は内陸部遠征だから別にいいですわ、不足するより100倍マシですわ。
「我らは南部蛮族に蓋をしてきた一族!数年で頭角を現した小娘に負けるわけがあるまい」
「だったら族長決闘を最初からするか武器指定をやめればよかったのでは?」
「ほう、怖いのか?」
「別にどっちでもいいですけど、負けかけて族長決闘はダサいですわ、これならとっととやってくれれば早かったんですけど……ワタクシの友人たちの旅行期間は短くて手早く終わらせたいんですの」
「ふん、よかろう、かかってこい!」
あなたが挑戦者だと思うんですけど?そもそもあなたも公爵家や近隣領主にちょっかい出しても私の部族には手を出さなかったでありませんの、よく言ったものですわね。口だけなら大族長ですわ、しかしてその実態は?
ルディンの拳を見ると拳の指の隙間に小さい針が見える、毒針かしら?ワタクシ少量の毒で耐性をつけてはいますわ。でも危険すぎるとわからないから当たらないに越したことはないですわね。拳はどうしましたの?
ああ、あと……族長決闘と私を舐めすぎですよ?
殴りかかってきたルディンの右腕の前腕部を左腕のパンチで粉砕し、隙間に挟んだ針を落とすのを見た。
私は口内の含み針と左腕の指の隙間の針がある可能性を考え、右手の拳でルディンの左手の尺骨を一撃で折った。
あら?こちらには針はないのですね。足で顎の骨を砕こうかと思ったが物言いがあると面倒なのでそろりとルディンの左側に回り思いっきり顎を殴り飛ばした。
この感じは口内にも針はなさそうですね。
「|ま、まふぇ!こーふくしゅる《待て!降伏する》!」
「は?」
何処まで愚かなんだ?この男は……。こんな男のせせこましい策でガリアは死んだっていうのですか?
コイツは大族長じゃない、ただの小悪党だ。気に掛ける価値もなかった。
「キサルピナ、リスクス、ベルソル、ベルベル。本当にこの男がガリアを謀殺した男なんですか?」
「はい……間違いないかと」
「ええ……ガルバドス側にもそう働きかけていたのは確かです」
「私は当時山向こうでしたがそのような謀略があることは知ってはいました」
「ルディン参加の蛮族の皆様?本当ですね?」
ちらほらうなづく人間がいる。
「あそこにいるのはキサルピナ、顔は隠してますけど見覚えは?」
ルディン側の族長数人が目を反らす。確定ですね。
ああ、この程度の男でも、このような矮小でなんの価値のない男でも価値ある男を貶めて殺すことが出来る。
ふんぞり返り、面倒事を他人に任せて、勝手なことをいい、ルールを押し付けることができる。恐らく実働は人任せでしょう。自らの手も汚さないのでは?まるでどこぞの王国ですね、いやどこぞの王国の国王ですね。なんの価値もない。
私なこの地位にあって自ら動ける時は決闘で部族を降し、殺し、傘下貴族の問題は時によって自ら剣を持って処断することもありましたよ?
まぁ時に委ねる必要がある時は委ねますけど、私は暗殺ですら自分でやる覚悟はありますよ?あなたは戦斧使いを唆してふんぞり返ってただけみたいですが。
あなたはいりません、敵とかそう言うことをおいておいていりません。
ガリアの仇取らせていただきますね?
拳を振り上げ、覚える価値のない名前の男を殴る。
数えるのも面倒で殴り続けると死んだことがわかった。
終わりですね。ああ、一応この針が拳に当たるかこの男の率いる蛮族に聞いておきますか。
「これ、この男の拳の指の間に挟まってましたが、あなた達ではこれが拳に当たるのですか?」
「い、いえ!そんなことは!」
「族長決闘を穢したこの男を殺したことが不満ならかかってきてもいいですよ?」
「いえ!我々は新族長に従います!」
「では、後のことは他の部下に任せます、我々は内陸部の蛮族制圧に行くので」
「ははぁ!かしこまりました大族長!」
傘下部族も唖然としてるあたり即効性の毒だったのかしら、拳で相手を打ち破るみたいな感じで異名を轟かせてたのかも。
本当にせせこましい男でしたね。
「我が主、族長決闘勝利おめでとうございます」
「ん?ああ……そうね」
「主?」
ああ、いけない……なんだか4歳の頃に戻ったみたい。
どうも悲しい出来事があると急に自分の殻を破る前に戻る気がする。
「私……ワタクシの勝ちですわー!これにて王国沿いのバーゼル山脈は全域制圧しましたわー!ワタクシこそがバーゼル山脈の王!そしてこの地は……」
”では、あの領地をおじさんにあげましょう!”
”今ならあの山にあなたの名前をつけて差し上げます!”
「公爵領ガリアですわ!」
約束は守りましたよ、おじさん。
いいえ、我が騎士ガリア。
アーデルハイド「(なんか雰囲気変わってたわね、と思ったけど相手が反則だったから頭にきてたのか)」
キャス「普段と違いましたね」
マーグ「決闘を穢したらそりゃ切れるっしょ」
アン「当たり前だな」
ベス「なんか、決闘で雰囲気変わるのかっこよかった」
ジーナ「いつもああならいいのに(小声)」
シャーリー「そら違いないわ」
クラウ「なんか子供の頃に見たときみたいな感じだったす」
アーデルハイド「昔から普段と同じ感じだった気がするけど……」
キサルピナ「(そういえば会った頃はあんな雰囲気だったな)」




