北方の女王の職務と王都からの手紙
蛮族の支配地に戻り蛮族を狩りに行く日々、楽しいですわねぇ……。
4歳だと舐めて……ああ、そういえばここで過ごすうちに5歳になってましたね。まぁ、あんまり気にしなくていいでしょう。些細なことです。
とにかく舐めてきた蛮族をはっ倒し、ぶっ倒し、傘下にしていく日々ですわ。
周辺部族を平らげるとガルバドスと関係が浅い蛮族があとを継いだ小娘と族長決闘を仕掛けてくることが増えたのでまたぶっ倒すだけ、ガルバドスとかリスクスと比べるとあんまり強くないのはなぜかしら?
と、聞けば。
「ママ、俺達は南の蛮族……ママのとこの蛮族と戦いつつガルバドスやルディンと戦ってたんですぜ?」
「大族長、こんな激戦を経験してないようなガキどもに負けるほどうちは弱くありませんぜ?まぁ……大族長が族長決闘で相手を降していくので俺等の出番がまったくないんですが……」
「姉御!隣の部族が降伏しに来たぜ!執事身分でいいんですよね!」
なんか普通に主要な話も入ってきましたけど、やっぱり戦ってる部族は強いということかしらね。
「執事でいいですわ、ルディンと戦って勝てますの?」
「確証はないですが……あるいは……」
「お嬢様!ルディンの部族を抱え込むと食糧事情が悪化しますぜ!」
蛮族がお嬢様は流石にどうなのかしら?まぁ執事をやってみたかったとか言ってたしなりきりたいんでしょうけど、功績があれば一度公爵邸で働かせてみようかしら?
褒美が罰になるかも知れないから難しいところですけど。
「今の食料事情が改善されていったらどれくらいかかるかしら?」
「5年はかかります」
「5年以内にやりますわ!必要なものは全て言いなさい!人材、肥料!なんでも言いなさい!7年後の入学前に終わらせないとちょっと面倒ですしね」
入学した後とんぼ返りして蛮族の指導はできませんわ!厄介なルディンを降して山の向こう側を一気に抑える。より過剰に食料を作っておけば増えてもなんとかなるでしょう。保存食も増やして、誰かに研究させましょう。
公爵領も蛮族が入植して開墾をしていますが、まだ足りませんわね。平地が多く部族がバラバラでしょっちゅうやり合っている山向うを大半押さえれば……勝ちですわ。
ウィト王国に面した部族を抑え工作を開始する。うまくいくなら実質的に占領してもいいですわね。穀倉地帯を押さえれば実質ゲームセットでいいでしょう。
「他に報告は!」
「ママのとこでやってる製鉄技術と俺等の技術を合わせた新製鉄所ができたぜ!ママ火入れ式を!」
「よくやりました!お任せですわー!」
山の向こう側のことなんて王国の連中は知らない、製鉄所があってもわかるものですか。
鉄鉱山に石炭もその辺の山にある、王国が嗅ぎつけたら取り上げにかかるかそれとももっとひどい罪をでっち上げるかするでしょうね。
こちらにある石を使ってレンガを作って高炉などに使えば王国の製鉄所よりも高温で精製ができる、いいですわねー……。
この石何かしら?全部同じ石じゃないみたいだけど……。まぁいいですわね、私は研究者じゃないからどうでもいいですわ。
「火入れ式ですわー!」
「「「「「「「「うおおおおーーー!」」」」」」」」
「これにより私達の武器はさらに!さらに!強くなりますわー!鎧も強くなりますわー!」
「「「「「「「「大族長!大族長!」」」」」」」
「これは新たなる一歩ですわー!大陸制覇に向けて邁進ですわー!」
「「「「「「「「大陸制覇!」」」」」」」」
「姉御、新製鉄所で作った剣です。鍛冶が得意な部族……執事たちに作らせました」
「あらあら、いいじゃありませんの!」
軽くて取り回しが利く剣って素敵ですわねぇ……。
なんか気分が乗ってきましたわね!
「適当なところに族長決闘を吹っ掛けに行きますわよ!新製鉄剣のお披露目ですわー!」
「今日は気分がいいから5つも部族を降してしまいましたわ!」
「さすがママ!」
「大族長!流石です!」
「キサルピナ!今日は何をしますの?」
「演劇!『高貴なる女王』!私が女王役!」
「いいですわよ、じゃあ適当にどこかの部族の街に降りて演劇でもしましょうか」
「族長!族長!」
演劇中の歓声はマナー違反なんですけどねぇ……。
まぁ、演劇マナーなんて蛮族は知りませんし仕方はないか……。
劇が終わり、おひねりを……普通に貢ぎ物ですわね……。
まぁ、顔も割れてるし……仕方ないですね。顔を見せずに出きる劇はないものかしら……。仮面劇?
キサルピナや役者の子供や族長と観客たちに頭を下げて立ち去る。意外と傘下の族長やその奥さんたちが多いわね……。
『高貴なる女王』蛮族地域で流行ってるみたいですし。
「さて、一旦領都にいって仕事をしますわー!」
「はい!ママ!」
今のはキサルピナではなく傘下族長ですわ。貴方は来なくていいんですわよ?
「ママ!これ買って!」
「お人形?それくらいなら貴方のお給料で買えますわよ?」
「お給料……?ってなに?」
えっ…………えっ?
「毎月屋敷から支給されない?」
「屋敷……?」
「ああ、わかったわ……」
あんまり屋敷に戻ってませんわね……。一応連絡役でちょくちょく帰らせてたんですけど。これでピンハネか未払いだったら屋敷の掃除が必要ですわね……。
「ところでそれは……人形劇用の人形だから飾るのには向いてないわよ?」
「これを両手にはめたら三役できるよ!」
すごい発想してますわね……。
でも人形劇……ありかも知れませんわね。
「私が頂点に立つのですわー!」
「そう叫ぶと女王は敵国の大使を威嚇し、決闘を申し込みました」
めちゃくちゃ評判がいいですわね、領都ですよ!ここは!娯楽がない村ではありませんわ!
でもこれ実質8役くらいやるからめちゃくちゃしんどいですわね!キサルピナ!ほら、ここもあなたのセリフですわ!
「なにを!この私に決闘だと!上等だ!私が買ったら国をもらうぞ!」
「上等ですわ!叩きのめして差し上げますわ!」
「そうして女王と大使は決闘を始めました。続きはまた明日」
「「「えー!」」」
なんでこんなに評判がいいですの?初回ですわよ?
「「「「ご観覧ありがとうございましたー」」」」
領民たちにお礼を述べて撤収。あーしんどいけど楽しいですわねこれ。
「ママ、声変えるのうまいね……役者の時もそうだったけど」
「お頭、なんで流れるように別の役ができるんですか?」
「姉御、こっちが本業ですか?もしかして貴族ってのも演技ですか?」
バリバリの貴族ですわよ!お母様が浮気をしていたとしても血統的に貴族ですわよ!
「貴族なら誰でもできますわ!」
「貴族すごい……」
「南の蛮族の隠し玉だからではなく標準装備なんですか……これは勝てない」
「でも蛮族が本業っすよね?」
本業は大陸の救世主(予定)ですわ。
族長たちを引き連れて領都の公爵邸に帰還するとお祖母様が怪訝そうな顔で待っていた。この感じお祖父様はしばかれましたかね?
「ただいまですわー!」
「まぁ、実績もあるし……猫もうまくかぶれるから私から言うことはないわ……」
「ふーん……どうでもいいですわね、さてと……」
「ゲーリング子爵、ああ、いえ……新しいほうね……息子だったかしら……弟だったかも。とにかく公爵派閥から追放したわ。利益ひっくるめて身ぐるみ剥がしたわ。ヘス新伯爵からも相当嫌われてるわね……」
「誰でしたっけそれ?ヘス伯爵は息子さんが後を継いだようで何よりですわー」
「…………まぁ覚えておく価値はないからいいわ」
「じゃ忘れますわー!」
「…………うちの旦那に似てきたわね」
「心外ですわ!」
お祖父様にだけはにてませんわ!あんなデリカシーのデの字もない方と一緒にしないでくださいまし!
「私にも似てるし義娘にも似てる、去年までは息子に似てたのにねぇ……」
「独り立ちですわ」
「領都にも来ないし」
「領都はつまらないですからね、退屈でたまりませんわー!……ああそうだ!私、劇団を作りましたの」
「蛮族の国境沿いでやってたっていう?」
「あれは別ですわ、人形劇団を作りましたの、さっきやったら評判が良かったから今作りました」
「……まぁいいんじゃないかしら」
「明日もやりますわ、切りがいいとこまでやったら公爵領を回ってみるのもいいですわね。蛮族地域も広がってきましたし、食糧事情が改善したたらルディンを降しますわ、ねぇみなさん?」
「「「ルディン殺す!」」」
「よく出来ました!」
「…………まぁいいわ」
「ああ、そうだお祖母様?キサルピナの給料はどうなってますの?」
「私の部屋に山積みになってるわ、蛮族への出兵でボーナス多めよ……家に帰るだけで出兵ボーナスが付くからややこしいんだけど……」
「キサルピナ、そのお金でものを買うのよ?」
「はい!ママ!」
「はぁ……孫が年上の子どもたちを連れてくるのは私が嫁いだときには想定外だったわね」
「じゃあ嫁いだときには大族長は下せると思いましたの?」
「それも想定外よ」
じゃあ想定外が多い人生で楽しく過ごせますわね!お祖母様もこんな素敵な孫を持って楽しくてしょうがないでしょう!
「あとゲハルトから手紙よ」
「お父さまが?」
「しばらく領都にとどまれって話よ、第1王子の婚約者筆頭候補だから、近々呼ばれるわよ」
「どれどれ……あら本当、領都はつまらな過ぎて死んでしまいますわ、そういえば婚約者候補でしたのね」
「蛮族がいるほうが面白いっていうのは領主の妻としては複雑ね……まぁ婚約者の筆頭候補よ」
「平民向けの娯楽小説買う以外はなにもないじゃないですの!第1王子のことはそんな知りませんわ!」
「庶民の店でご飯を食べればいいじゃない、意外と楽しいわよ。後、去年会ってるわよ」
「それがありましたわ!…………会ってましたっけ?」
全く覚えてませんね、5歳時にそんな記憶を求めるのはおかしいのではないですか?
つまらないですわーつまらないですわー。領都で過ごす日々は退屈で暇で何もありませんわー。
人形劇団もしばらく練習に回さないといけませんし、退屈ですわー!
王国領土再編計画も産業育成計画も書き上げた私はやることをなくし手慰みに人形劇用の人形を弄り観客からどう見えるかを研究する。
ちらりと机の上を見るとお父さまから王都に来るようにとの手紙、園遊会ですわね。そっちが来ればいいじゃありませんの!私は蛮族の指導に戻りたいんですわ!
我慢……我慢……冷静になればなんてことないですね……やっぱやってられませんわー!クソ王家と違って私は忙しんですの!クソ王家の送ってくる商人を殺して王都に刺客を送り込んで忙しいんですわよ!私が直接殺しに行きたいけど動けませんしね。
まぁ、これも婚約者筆頭候補の悩み、私が王配から王になったって問題ないでしょう?それに王都で商人を見せしめに処断も出来ますし……マッセマー商会も気になりますからね。
「王都で友達でも作ってきなさい……」
「なにそれ美味しんですの?」
「美味しい友達は友達じゃなくてカモよ」
「じゃあカモ探してきますわ」
「もう好きにしなさい……」
まぁ、貴族の令嬢なんて大体はクソみたいな貴族の両親の操り人形でしょう。
くだらない貴族ばかりですからね、今の王国は。
死んだヘス伯爵くらいどっしり構えてる人間はそうはいないでしょう。
さて、王都に行くとしますか……。
「キサルピナ、どうせすぐ帰ってくるとは思うけどあなたは残って人形劇団の維持と……騎士の教育を受けておきなさい。2年後は学院にねじ込みますわ……名字はまた後で考えましょう」
「はいママ!考えておきます!」
「よろしい、では行ってきますわ」
そして私は出会う。大勢の親友に。
見る人によって運命の出会いだと思う。
そして私にとっても、これは運命の出会いだった。
ゲーリング新子爵「身ぐるみ剥がされ、すべての権益も奪われ、その上賠償までさせられてる。親父は一体何をしたんだ?」
ヘス伯爵閥「おら!賠償金祓えや!」
ライヒベルク公爵閥「出すもん出せや!」
ゲーリング新子爵「こうなってはもう……領民に重税をかけるしか……」
6年後に蜂起するゲーリング子爵領領民「は?」




