2択ですわ!死ぬかそれとも死ぬか選びなさい!
「と、言うわけだ」
「お祖父様弱すぎませんか?」
「こら、エリーゼ!」
と、言われましてもね……。こんな暴論を支持してるなんて王都の貴族ってスカスカのヘチマみたいな脳みそしてるんですかね?
「内務大臣閣下?」
「エリー?せめて家ではパパとかお父さまと……」
言いませんよ?
「なぜこのようなゴミどもがのさばっているのです?公爵家が舐められたのに何も手を打たないないつもりですか?いえ、打っていますよね。見せしめにヘス伯爵をどうするのですか?」
「ヘス伯爵は重鎮だよエリー、御子息のアルデナーの経験も長く次期軍務大臣は確実だ。軍務省の権力は強大だしと対立することは……」
「で?恩賞は?報奨は?」
「それはねぇよ、出さねぇ」
「…………でないだろうね」
「では別に軍務省ごときに気を使う意味はあるのですか?ないでしょう、ものか金でもくれましたか?ああ、蛮族にはくれましたね?え?どういうことなのですか内務大臣?」
「いや、しかしねエリー……根回しというものはだね……次の会議まで時間もあるし……」
「まぁ向こうも時間は同じだがな、俺らには出さなくても出さなくていいやつには報奨を出して引き込めるだろうな」
「そういえばヘス伯爵は蛮族支援にどこまで関わりが?」
「主導してる一人だろう、国王筆頭で……宰相はまだそこまで関わってなさそうだから放置だ、あれに手を出すとほぼ無関係でも処罰されるとそのへんの貴族同士に手を組まれる。パスだ。あとは……もうだいたい殺したな、届かねぇのはあいつ、国王、経済大臣のシャハト」
「一番厄介なのは?」
「ヘス伯爵、シャハトはレズリー伯爵と対立してるから脅威ではない。遅かれ早かれ失脚するよ」
お父さまもただ見てるだけではありませんのね。
「では、ヘス伯爵が今日亡くなったらどうしますか?」
「……いや、それは……」
「どういうことだいエリー?」
「どうもこうも、蛮族はけじめを付けたがってますわ。じゃあつけさせてあげるべきでしょう?我が家もスッキリして問題なし、蛮族だって王都に入り込めるのは周知の事実、でしょう?」
まぁケジメつけたがってる蛮族は私ですが。
「命じるのか?」
何がとは言わない流石ですよお祖父様。
「失敗したら?」
人生と計画に失敗はつきものですよお父さま。
「明日の朝が楽しみですね」
私はニッコリと笑い、気圧されたような父は祖父を見るが、祖父は私のようにニッコリと笑顔を浮かべた。
じゃ始めましょうか、小さい汚れ仕事は任せてもバレたら死ぬような仕事は自分もやらないと……人は付いてきませんから。
「ママが出る必要ありましたかね?」
「あら?これから行くのはいわば族長決闘、私が出なくてどうするんですの?」
「相手が武器を持ってなかったらどうするんですか?」
「昼に喧嘩を売っていつでもかかってこいと言ったくせに夜は寝るから急に来るななんて通りますの?」
「通らないです」
「確かに……」
説得が楽で助かりますね。まぁあれは公爵家に喧嘩を売ったのです、やり返さないと思うほうがおかしい。よってこれは族長決闘ですわ。
「さて、集まるのは後1時間……なんで皆いますの?」
酒場、通りの軽食店、様々な場所に変装した蛮族がいた。一応三百人呼んだんですけど……。
「族長の集合は早めに来るもんですし」
「私が誰かはわかってますよね?変装してますけど、後あそこで串食べてるのキサルピナですよね?待機のはずですが」
「もちろん、ママの隣に俺がいるから絶対わかってるよ!キサルピナは……飯食いに来たんじゃ……」
「じゃあいいですわね……行きますわよ」
通りの両端に蛮族たちが集まり見えないように、誰も来ないように酒を飲み騒ぐ、注意されたら別の人間と代わりまた騒いで通せんぼをする。その間私達は集団で通りをテクテクと通っていく。
堂々とヘス伯爵邸に向かい、蛮族の集団が通行人のように通りながら門番をあっさり斬り殺す。この家に裏門はないので恐らく別に脱出路でもあるのだろう。
後ろにいる蛮族の集団が遺体を自分たちの集団に隠し、追い剥ぎをして、遺体を袋に詰めてどこぞへ運ぶ。
私は門を開けて……キサルピナなんでいますの?
まぁ、いいですわ、気を取り直して先に屋敷庭にある騎士の詰め所を襲撃しましょうか。
中にいるのは見える限りで5人、まぁ王都じゃこのくらいで大丈夫でしょうね。
小窓をそっと開けて毒の吹き矢で5人を殺す、油断してはいけないのでちゃんと剣でとどめを刺す、また蛮族たちが遺体を……遺体は運ばずに追い剥ぎだけですね……まぁ門前や門を開けた横に遺体があったらまずいからか、追い剥ぎ後に部屋に遺体を放り投げるのを見ながら屋敷自体の道を全て塞がせる。庭にも備えをおき屋敷に押し入る。申し訳ないけど老いも若きも死んでもらいますわ。
王都では珍しく三階建ての館で一階を使用人含め殺して回る。
二階では上級使用人がいたものの容赦なく殺す。そもそも攻撃する人数が道塞いで庭で待機させるほど多いから、一つ一つ回らず合図を出して階のすべての扉を開けて襲撃することで解決できる。
どうやら1階と2階の間には防音がしっかりしてるようで上の階は全く気がついていなかった。
さて問題の三階ですね。
執務室か私室か……どちらにしようかしら?
まぁどっちでもいいですわね、ヘス伯爵は捕らえて決闘させます。ヘス伯爵かどうか尋ねるだけでいいことにしましょう、否定したら殺す。考えることがなくて楽でたまりませんわー!
おっといけない、心まで蛮族に近づいていく。
私の合図ですべての部屋に切り込みに入る。
うーん、順調ですね。悲鳴の多いこと。死ぬ時は貴族も見苦しいものですね。
これじゃ蛮族のほうがよっぽど勇敢ですね。
「ママ!ヘス伯爵ってやつがいるよ!」
「でかしましたわ!」
まぁよく考えたらヘス伯爵の顔は私知らないんですけど……。
まぁ皆殺しだし、別に違ってても警告位は与えたことになりますわね!
「貴方がヘス伯爵?」
「……そうだ、お前たちは公爵家の私兵か?子供もまでいるが」
「大族長は公爵家の私兵ごときではない!」
「ママを傘下部族扱いだと!」
「私は大族長エリーゼ、この部族を束ねる長。部族のママにして……」
「私のママだよ!」
キサルピナ!変なとこで出てきたら格好がつかないじゃありませんの!
「は?」
「貴方は私達を舐めました、侮辱し、小馬鹿にし、使い潰そうとした」
「いや、ママとは?見た目の割に……もしかしてそれなりの……」
そこに食いつくんじゃありませんわよ!
「中身が安物のワインをどうもありがとうございますわ」
「いや、それは……」
「貴方達の命令だそうで……商人たちが吐きましたよ?」
「……達?今回はマッセマー単独に……」
「ええ、それ以前から安物でしたからね、覚えがないと?」
「今回はマッセマーに利益を与えるために命令したが普段は私は命じていない!蛮族、ああいや北方民族との取引は利益が見込めるからなるべく誠実にするようにと!マッセマーがどこまで安物にするかそれによってひどい場合は追加で支援を出すつもりだったのだ!」
「なるほど、あなた方の誠実はよくわかりましたわ……死に値する誠実だと」
「待ってくれ!今公爵家と戦っている!私が勝てば公爵家が弱体化して蛮族の利益になる!」
「無用ですわー!貴方が選ぶ道は2つ、私と族長決闘をしてすべてを失うか、自裁すして家だけはどこぞに継がせて守るか。ちなみ私は前族長ガルバトスを決闘で打ち破りこの座につきしたわー!つまり蛮族最強!」
「…………いや、蛮族?蛮族が蛮族を名乗るか!貴様は誰だ!」
「だ・か・ら!エリーゼ大族長ですわー!」
「私はキサルピナだよ」
なんで出てくるんですか?
「いや、騎士は!」
「もう殺しましたわよ?窓の外をご覧なさい?全員私の部族のものですわ、貴方もう終わってますの、さ、お選びになって。族長決闘か自裁か」
「そもそも継がせるというのがおかしい、お前は蛮族ではないな!」
「だから蛮族ですわよ?貴方も蛮族私も蛮族。それだけですわ」
「そもそも……息子がいるわ!」
「この家にいる人間は全員殺しましたから多分死んでますよ?」
「は?」
「貴方の奥さんも……奥さんいましたっけ?全員殺しましたよ?使用人も全員」
「き、貴様ァ!!」
「当たり前でしょう?舐められたら殺す、これあなた達蛮族だって当然やってるじゃありませんの、さ、早く族長決闘の相手は私。私に見た目で勝てると思いませんこと?」
「…………息子は?」
「殺しましたよ?家にいたなら」
「…………自裁したらヘス伯爵家には手を出さないんだな?」
「ええ、自裁したなら、また喧嘩を売ったらもう一度殺しに来ますわ」
「そんな気概は流石にあるまい、家中のものが皆殺しにあって誰がそんな事ができるんだか……」
「服毒にしますか?腹を切りますか?」
「毒で頼む……」
「ワインを」
安物のラベルの貼られたペトルーズを差し出し、毒も別で渡す。
末期の酒が聞いたこともない安物かとぼやくヘス伯爵に対して私は確認するように聞く。
「死んだふりでは困るので首は死後に切り落としますがよろしいですね?」
「こちらから頼もうと思っていたくらいだ、あの王なら乱心して私が皆殺しにしたと言って領土を取り上げるくらいはするだろう」
「でしょうね、2代続けて愚物ですから」
「国王派も忠誠より利益の一致が多いからな、三代前はそうでもなかったが……詮無きことか……せめて公爵家がやったように見せてくれるか?」
「いいですわ」
ワインを一口のみ、こちらを見る。
「これは……」
「うちに送られてきたものですわ、中身はお察しの通り」
「…………離間計をするほど余裕はないのですがね、公爵が大族長を倒したなかでそれをされたら……こちらに恨みも来るか……」
まぁ、マッセマーの手紙がなければそういう考えになりますね。あれに気がつかなかったらそのまま離間作として機能させたんじゃないかしら?
「しかしこれがなにか知っているとは……」
「貴族の教養ですわ、これほどのワインは飲まずとも色と香りでわかりますわ」
「…………」
「正式な名前では申し遅れましたわ、私はエリーゼ・ライヒベルク!公爵令嬢にして蛮族の大族長!すべての部族のママにして、北方の女王にして、大陸の頂点に立つものですわー!」
「その方は確か……3歳くらいでは?」
「ピチピチの4歳ですわー!」
「ピチピチ、ふっ……残念ながら本物のようですね」
そこで真偽がわかるのもどうなんですの!?
「4歳が大族長を破り新たな大族長に就いた。それは公爵令嬢だと聞いていれば……まっ先にこの謀略は捨てましたね、もしくは手を結んだと思いますよ、エリーゼ大族長」
「光栄ですわー!」
「3つ隣の部屋の人間は殺しましたか?」
私はちらりと後ろを見る、担当した蛮族の3人が頷く。
「殺しましたわー!」
「ああ、それは良かったですね……あの部屋にいたのは先ほど公爵派から寝返ったゲーリング子爵です、公爵のせいにしやすくなる」
「もとより公爵の仕業に見せつけるつもりですわ、だって私公爵家から実質独立してますもの、大族長ですし食糧事情も目処が立ちそうですしね」
「貴方と組めばよかった」
「でも家族の情がないわけではありませんわ?」
「4歳でこの手腕の武力なら公爵家くらい見逃しますよ、第一……王家に忠誠があるわけじゃないですからね」
「意外……ともいえませんね」
「でしょう?」
そう言うとヘス伯爵は最後の一杯に毒を入れて飲み干した。
「息子のアルデナーにヘス伯爵を継がせてください、今日は残業でね……今頃反公爵派閥の貴族たちに利益誘導をしてるか公爵派閥の引込をやっているでしょう。約束は違えませんよね?」
「ええ、約束は家は残すだけですけど、まぁその男気と覚悟に免じて息子さんと鉢合わせても見逃して差し上げますわ」
「ふふふ、次期ゲーリング子爵も大変だな……公爵から寝返って頼りにした我々は手を引くのだから、息子が優秀という話を聞かない。大変だな」
「まぁ寝返った相手なんて知ったことはないので多分処断後には忘れますね。帰ったらゲーリング子爵の公爵派のポストと利益剥奪をします、後はこんな小物は忘れますね」
「だろうな、内でも持て余したんだ。ハズレくじを引かされたとすら思ったが……息子に引かせなくていいらしい」
「ゲーリング子爵が原因でこの事件を招いた工作しておいてもいいですわよ?怪しいから付けてたらヘス伯爵邸に入って一泊するつもりだったからって噂流しておきましょう」
「そりゃあ、良い……あのデブは殴り甲斐があるでしょう……眠くなってきましたね」
「逆らわずにお眠りなさって」
「そうさせていただきます」
欠伸をした後、椅子からベッドに向かい仰向けに倒れるヘス伯爵。
数分後、生命活動を止めたヘス伯爵の首ははねられ、別で持ち込まれた安いワインを頭からかけられた。
そしてヘス伯爵家の内情を記した書類を首の横においたうえで引き上げた。
さて、蛮族の仕業に見せかけたが蛮族があの貴族家の暗号化された書類がわかるわけがない、息子のアルデナー?があの現場を見れば公爵家の手はずだとわかるでしょう。
切合もなく、ワインの空ビンに一人で晩酌したような後、原因も毒殺だとわかれば単なる暗殺ではないと確信に至るでしょう。
家中皆殺しは蛮族かと思うかも知れませんけどね、対外的には事故死か、それとも……
まぁどうでもいいですね。さ、皆さん。私達の家に帰りましょうか、蛮族領域へ戻りますわよー!
故ヘス伯爵「あっ、息子に王家がクソって教えてなかった!まぁいずれ気が付くだろ」
6年後ヘス伯爵「王家クソ!公爵派になります!」




