ケジメの時間です
蛮族に染まりつつあるエリーゼ(4歳)「……冷静に……冷静に」
エリーゼ(5歳)「身を委ねなさい!楽になりますわ!新しい私に出会えるのですよ!」
「大族長!山向うの部族が兵を率いて攻めてきました!」
「迎撃なさい!族長決闘なら私が出ますわ!」
「商人がまた訪れました!王都の商会です!打ってくれと大族長の提示するように言われた相場より遥かに安いです!」
「情報を聞き出して殺しなさい!」
また王家かしら?それとも舐められてますかね?
全く腹ただしいですわー!
いけない、だんだん蛮族とキャラに染まりつつある……いくら蛮族のほうが過ごしやすいといっても……。
「南の蛮族の族長を名乗る連中が食料を持ってきましたぜ!これは大族長の総取りですぜ!」
「うおおお!迎撃に出てママからワインを下賜してもらうぜ!」
「なら俺はウィスキーを下賜してもらおうじゃないか!」
「……どこからですの?ああ、いえ……ワインとウィスキーを見せてください……」
「大族長にはまだ早いのでは……?いえ、大族長ですしね……」
どういうことですの!
いえ、最近の戦闘続きの感じでは蛮族の大族長そのものですしね……。
ガルバドスに勝ったからという理由で族長決闘を挑んでこない相手が多いから手間が増えて……。
直接行って戦場で煽ったほうがいいかもしれないですね。
「こちらです!大族長」
安物のワイン、まぁ王都で大量に仕入れてる南部産のものですわね……余ったぶどうを集めて適当に作ったもの。そのかわりたまに高級ワインより美味しいものができるとかそんな話。
一つだけ箱に入ってるのは……ペトルーズ、王国で一番高いワインですね。
さて、860年物で私が生まれる前ですか……。6年寝かせたものですね
この手のものは教養で飲まずとも香りと色合いで当てることができるのですが……透明なビン越しから見てもあまり質が良さそうではありませんね。
そもそもペトルーズはロゼでも白ワインでもないので緑のビンのはずなのですが……6年にしては澱もない。
「これに関して何か言ってましたか?」
「ぜひ新族長にと、あんまり見ない顔でした」
「へぇ……」
私はペトルーズのコルクを抜き、入っていたものをそのへんにあったワイングラスに開ける。色合い全く違いますわね……。
そもそもアルコール臭がしませんね……。毒でも入ってるのかしら?
「毒を確かめるから銀の皿を、杯でもいいですわ」
「俺が飲みます!」
「我が子に毒見させる親がどこにいますの!」
「す、すんません大族長……」
適当に持ってきた銀の装飾品にワイングラスをひっくり返して反応を見る。
何もおきませんわね……。貴族のお約束、毒物に反応するちょっと特殊なお薬を入れて様子も見ましょう。
何もおきませんわね……。飲んでみましょうか……。
ぶどうジュースだこれ!
「どうかなさいましたか!ママ!」
「大族長!毒ですか!今すぐ吐き出させます!」
「いいえ、これは美味しいぶどうジュースでしたわー!キサルピナに持ってってあげてくださいまし!」
「ジュース?そんな高いんですか?」
「さぁ?ぶどうジュースには詳しくありませんの、でもなかなかいいお味でしたわ」
貴族の令嬢の私が満足するくらいには。
じゃあ安物のワインも確かめてみますか……。
瓶を開け……これペトルーズですわ!もう匂いでわかりますわ!
これで大族長はこれよりいい物貰ってるみたいな感じで亀裂を生むつもりだったのかしら?これ褒美で下賜したらあれ以降ケチなものしか出さないってなりますわね……。
「これ、最高級ワインですわ!これよりいいものは王国にありませんわ……。これは全部族に配布しますわ!私の就任祝いの届け物を全員にお届けですわ!これが南で最もいいワイン!これよりいいものはこの国にない!欲しければ王国を取るしかありませんわよー!決意を新たに頑張ってくださいまし!」
なら最初っから全部配って士気を挙げさせていただきますね。
この分じゃウィスキーも……。箱に入ってる高級そうなウィスキーは……マッカーソン、これも最高級ですね。
ウィスキーは流石に色と香りではわかりませんわね……安物と比べて……これが安物かもわかりませんね。
マッカーソンならまだわかりますが……。
「ママ!このジュースおいしかった!」
「よかったですわね」
「このビン飾っていい?」
「いいですわよ」
まぁそんな貴族もいますからね、別にビンを飾るくらいいいでしょう。ラベル……本職の方が気取って言うならエチケットだけ外して飾る人もいますけど。
「じゃあこの紙剥がすね」
え、ビン本体が目当てだったの!?
私の困惑を他所に手間取ることなくさっとラベルを剥がす。あれ?こんな簡単には剥がれないと思うですけど。
「これなんか裏に書いてあるよ?」
「なんですの?」
北部蛮族新族長、北方の女王様
王家からのご依頼により皆様を支援する物資と届けさせていただきました。
王家からは高級なワインと一般のワインは詰め替えておけとのご依頼でしたのできちんと詰め替えておきました。ただ本当に詰め替えるとワインの質が落ちるためエチケットを張り替えで対応させていただきました。
女王様に置かれましてはワインはまだ早いとお聞きしているので高級なぶどうの飲料を送らさせていただきます。
ウィスキーに関しては規定の一般ワインの量が足りなかったためこちらの独断で切り替えさせていただきます。ワインに関して指示はありましたがウィスキーの指示はないため特に張替えは行っていません。またエチケットが余っておりますので一緒に送らさせていただきます。
10年後、20年後の関係を見据えて末永くお付き合いをお願いいたします。
マッセマー商会商会長 ローレンス・マッセマー
「おやりになりますわね、もう掴んでいたとは……」
マッセマー商会ですか、王都で飛躍してる商会でしたね。性別もおおまかな年齢も把握してるとは……未だに買いたたきてひと稼ぎしにくる王都商人とは違いますね。
「マッセマー商会と名乗る商人は来てますか?」
「いいえ」
「これを届けた商人は?」
「すぐに帰りました」
なるほど、興味が湧いてきましたわ!ここまでやってだらだら待ってるとかで歓心を買うのではなく未来医を見据えて今はいいという判断が気に入りましたわ!
マッセマー商会、未来ではお抱えにしてもいいかも知れませんわね。
「ママ?それはいらないけどこのビンは飾っていいの?」
「いいですわー!」
「わーい!」
9歳のキサルピナがちょっと不安ですけど……まぁ人質にされてたし……蛮族的価値観では普通?王都に言ってる間は公爵家の騎士に騎士教育を任せましょう。
一応まだ騎士ではありませんし……。
まぁそれは置いといて……。
「皆さまー!このワインは高級ワインですがもともとは安酒にする予定だったらしいですわー!な・ん・と!皆様を支援して大族長になる前の私と争わせようとしていた南の大蛮族がそう命じてましたわー!」
「何だって!」
「大族長と!?正気か?」
「この僅かな期間でこうまで生活しやすくなったのにか!?」
「し・か・し!マッセマー商会が機転を利かせて私の就任祝いに高級ワインと高級ウィスキーをプレゼントしてくれましたわー!ワインの見た目は安いでド中身は高級品ですわー!各部族はウィスキーとワインを好きに選んで持っていけばいいですわー!今後はマッセマー商会にはこの地域は便宜を図りますわー!ただ王家は私達を舐めました、わかりますね?」
私がそう聞くと、酒がもらえると盛り上がってた皆は沈黙した。
「さ、皆様?この商会リスト、王家と関係の深い商会……支店がありますの……私の領都にね……けじめつけに行きましょう?」
数日後、公爵領領都に合った王家と関係の深い大商会支店はすべて襲撃を受け全滅した。
蛮族は俺達を騙した連中を攻撃するだけだから通せと領都に押し寄せ、1万の蛮族を引き連れたリスクス族長は内部にいたエリーゼの手引で堂々と入城。商会支店を焼き討ちし財産をすべて持って帰っていった。
そのままエリーゼは合流し、王家直轄領を襲撃。高級ワインの中身が安いワインと同じだったからこうなると脅して周り代官所を焼き払った。
王家と王都商人たちはライヒベルク公爵に抗議したものの当人は聞く耳を持たず、蛮族に送ったワインとは何だ?4歳の孫に1万の蛮族と戦って死ねと?と追求。公爵領じゃなくて王家直轄料を襲ってる時点で俺は関係ない。王家の直轄領に本社をおいてるから支店の支店で税を払う必要がないとごねている王都商会の人間は守るべき領民でもないので差し出して当然。王都商人関係者以外領民は死んでない被害もない。対蛮族の支援をしてないんだから王家直轄領を支援する意味もない。蛮族が領土を占領してないならどうでもいいだろうと不満を垂れ流した。
そのうえで対蛮族で功績がある公爵家より王家直轄地で軍権を持ち戦争もないのに出世したヘス伯爵親子はさぞ活躍したのだろうといい蛮族への出兵を求めた。
ヘス伯爵は猛反対し、公爵家がその任にあるのだから公爵家が対応するべきだと反論。ライヒベルク公爵もこの1年で大部族を降したが恩賞もないと発言、一時的に会議は混乱したがヘス伯爵の蛮族対策は公爵家の任であり報奨は必要ないとの発言を国王が支持したため前国王の方針は継続されてることを反公爵派が確信、再度公爵に蛮族対策を指示、及び王都商人や王都直轄領の賠償や復旧を求めたところで後日続きをと閉会となった。
公爵「バーカ!バーカ!」
伯爵「バーカ!バーカ!」
国王「バーカ!バーカ!」
中立派「(みんな馬鹿じゃん)」




