初陣、族長決闘
主力が出払っている今が好機!と言う割には大した数はいませんね。
まぁいたら祖父が別の場所を攻めには行きませんか。
互いに100もいない数が街から少し離れた荒れ地に向かい合う。
「あれくらいの数なんですか?」
「部族によってまちまちなのでなんとも……」
確かに……把握できてればそもそも攻められてない気もしますね。
「嬢ちゃん!ここはあぶねぇぞ!」
あっ、さっきの貧民街の観客の人だ。別の軍だったり分けて運用とかしないあたりある程度組織として纏まってるんですね。
「ご安心を、私が死ぬときは最後の最後です」
「それじゃ俺達が死んでるじゃねぇか!」
確かに……貴族では受けるんですけどね、このネタ。
祖父だから受けてるのか、もしかして祖父は周りに気を使われてる?
いや、流石に冗談で笑わないくらいでなんかしないと思いますよ?
「……だから勝ちます!」
「お、おう……?」
締まりませんね……。鼓舞ってどうやるんでしょう?
「えい・えい・おー!」
「戦う前から勝鬨とは……しかも一人で全部言うのか……ふ……ふふ……」
あれ?違いましたっけ?
困りましたね、初陣のときは補佐とかつかない……勝手に来たらいるわけ無いですね。
さて、どうするんでしょう?
ちらりと騎士を見る。騎士かな?領兵だったかも?
「……名乗りを上げるか、攻撃命令を」
「じゃあ名乗ります」
「一騎打ちを申し込まれたら代わります」
「お願いしますね」
4歳の子供に一騎打ち申し込むものかしら?普通しないと思うけど。
まぁ少数同志なら勝つための戦略としてはありかな?同じ場面だったら私が決闘を挑む可能性だってあるわけですし。
「私はエリーゼ・ライヒベルク!公爵令嬢です!」
ざわっ、とした後で敵より味方が動揺してる気配がする。
「公爵令嬢だったのか……」
「領主か代官の娘だと思ってた……」
「商人の娘じゃないんだ……」
はて?何か問題でもあったでしょうか?
ちらりとまた暫定騎士を見る。何も言わない。ふむ?
「ママ、ママ……」
「どうしましたキサルピナ?」
「威厳が足りない」
また、それですか……と思ったけど戦争ですしね、一理あります。
では……。
「私はリスクス!ルディン大族長傘下でこの一帯の族長だ!族長決闘を申し込む!」
あら?あっさり決闘なのですね。じゃあ……。威厳は大丈夫そうですね。
「卑怯者が!それでも族長か!」
「蛮族が!」
「ルディンごときに尻尾をふる恥知らずらしいわ!」
なんか街の人間のほうが怒ってますわね。
「エリーゼ様!拒否してください!族長決闘は名乗り後の代理を認められません!名乗った最上位のものが出なくてははなりません!」
「じゃあ名乗る前に族長決闘を申し入れたらどうなってたの?」
「名乗る前なら傘下族長を出すことが認められますが……もしくは別日の指定なら部下を出すことは認められます」
「対面で挨拶後だと駄目ってことでいいんですね?」
「……はい、断れば最低限のルールすら蛮族は無視してきます」
町中で暗殺者を放つのはルール的に有りだったんですかね?
一応領主の館で切りあったんですけど……。
「じゃあ出るしかないですね」
「しかし!」
「だって……町中で暗殺者を放ったり略奪してくる相手があれでルールを守ってるんだたら何されるかわかりませんよ?」
それにこの手の決闘を断るのは祖父的にも逆鱗に触れるでしょう。
「ガリアの腰巾着やってたくせにすぐ寝返りやがって!」
「うるせぇ負け犬が!」
「カスに付くカスらしいふるまいだな!」
「あの、決闘受けます」
「何を!南の蛮族に尻尾振って生かしてもらってる存在のくせに!」
「決闘受けます!」
「略奪しかしねぇカスが!こっちに来て蛮族って言われる理由がわかったぜこの北方蛮族が!」
蛮族同士が醜い罵り合いをして私の話を聞いてくれませんね……。
どうしましょうか、キサルピナの言う通りに威厳が足りてないのかもしれませんね。
致し方ありませんね。
「……おだまりなさい!」
おそらくそこまで大きい声ではなかっただろう私の声で戦場は静まり返った。
演劇の賜物かな?やっててよかった、まぁ……よく考えたら貴族そのものが役者みたいなものですしね。
じゃあせいぜい女王役を演じるとしましょうか。
「私は族長決闘とやらを受けて差し上げますわー!貴方がたが得意な戦法で戦って差し上げる、ハンデとしてはこれでよろしいのではなくて?さ、かかってらして」
うん、我ながら板についてきてると思う。
「イ、イルディコの姉御……」
誰ですか、それ?
「ママだ……ママがイルディコママになった……」
始めて知りましたわよ……小説の女王のモデルの名前。
本当に私生活からこんな感じでしたの?
「キサルピナ?貴方の剣を貸していただけるかしら?」
「はい!ママ!」
なんか複雑な気分ですね……。
「さ、来ないのならこちらから行きますわよ?」
相手の獲物は斧、蛮族って斧がデフォなんですかね?つくづく、ここに来てから斧に縁がありますね……。
逆に大剣持ちがぱっと見当たらないんですけど……。
なんだか怯んでいたけど持ち直したリスクス族長に斬りかかり、斧で弾かれる。ん?この剣細いですね……。
斧を躱し、剣を躱され、また繰り返す。そして、いまいちパワーが足りないのがわかる。
4歳ではこれが限界かな?でも向こうの4歳相手に決定打がないのは……イルディコさんっぽいから?かな?
片手で扱っていた細い剣を両手で持ち、上段に構える。
するとリスクス族長は気を取り直したように斧を構えて私の横から切り捨てるような構えをする。
「隙だらけだぜ?」
まぁそうでしょうね。
「あら?貴方にはそう見えるの?哀れですわー!」
虚勢を張れ、演じろ、意図を読み取らせるな、深読みをさせろ。
「獣相手には隙が見えるものですわ、つ・ま・り!余裕ということですわー!」
さぁ、来なさい!ガリアのやり方はわかってるんでしょう?
「う、うおおおおお!」
大人が4歳の私にビビってる時点で勝ったようなものです!
斧を横に構えて突っ込んでくるリスクス族長に向かって剣を振り下ろす動作をする。
案の定、族長は一歩下がる。
ここだ!
私は少しだけ砂っぽくなった部分を蹴り上げ族長に目潰しをした。
その瞬間剣を放して、もう一度掴んで、地面に刺し、その勢いで全体重を乗せて……。
ぶん殴る!
剣が飛んでくることを想定していた族長は目潰しされた後、急いで左に動いていたが、私の唸る右手に飛び込むこととなった。
めちゃくちゃ痛い!私のほうが折れてない?拳も鍛えないと駄目か……。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
「エリーゼ様が勝ったぞ!」
「嬢ちゃんの勝ちだ!」
「ママが勝った!」
「あの拳はまさしくイルディコの姉御の殴り方!」
あら?私が勝ったの?族長は倒れてるけど、あたりどころが良かったのか全体重を乗せたのがよかったのか。
まぁどっちでもいいか……。
「勝鬨を!エリーゼ様!」
「え……」
えい・えい・おーはさっきやったから締まらないか……。
「私の勝ちですわー!」
「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」
こうして私の初陣は終わった。思い返せば偶然の勝利でしょうね。
こうして近隣蛮族のひとつを切り取ることに成功した私は祖父からは褒められ、王都の父からは祖父に育てさせるんじゃなかったとの愚痴とお叱りを頂いた。
イルディコ「とっとと近隣部族をわからせるのですわー!」
ガリア「はい、行ってきます!」
公爵「クソ!あれはどっちが族長だ!どっちと決闘すればいい!」
公爵息子「祖父に娘を任せて大丈夫かな……」
公爵息子嫁「私に預ける方が心配って言うから」




