来る蛮族
祖父←元凶その3
キサルピナと女王ごっこをしながら日々を過ごす。
時に役割を変えて、町中でも貧民街でも。
ガリアは貧民街の顔役をやっていたらしく、彼の雇い主と娘と言うだけで危害は加えられなかった。
貧民街にもルールというものがあるのだ。私は始めて知ったのだが。
貧民街には様々な人間がいた、元代官の側近やら蛮族やら、逃散した農民やら元軍人やら他国の人間やらなにやら……これが人種のサラダボウル?とかいうものだろうか。蛮族以外人種の概念あるのかな?蛮族にも色々あるんだろうけど。
「嬢ちゃん嬢ちゃん、もろこしいくつか持ってけよ」
「ありがとうございます、おじさま」
「ありがとうございます!おじちゃん!」
なんだかキサルピナって私より年下に思えることが多い。
普通の9歳ってこんな感じなのかな?
こうして歩くと貧民街も市街も別段何も変わらないですね。
別に男がベロベロナイフ舐めながら金出せとか言ってくるわけでもないですし。
斧持ったやつはでてきましたけど……結局あれは流れ者で貧民街からも追い出された人間でしたしね。
こうして考えると案外誰も彼も同じなんじゃないかな?
子どもたちと遊ぶうち、持ってきた本を演じようとキサルピナが言い始めた。
それから定期的に道路で演劇のごっこ遊びを始めた。そんな事をしょっちゅうやってると観客が出来始め、参加者も増え、貧民街以外からも見に来る人が……。キサルピナは騎士じゃなくて女優でも目指したほうがいいのかな?
子どもたちを集めてキサルピナ主演版の『高貴なる女王』で端役を演じながら子どもたち、手の空いた大人たちが楽しそうに見ているのを眺ていると、結局のところ人間は皆同じなんだろうと改めて思った。
元貴族に一般市民、逃げてきた農民、他国にいたものに蛮族、すべての人が私達の演劇を楽しそうに見ている。
この作品に不幸な人間はいない。
国民のために突き進む女王と振り回されながらも苦難を分かち合い、困難を解決していく。大勢の登場人物には貴族も平民もいて、敵対者と手を取り、和解し一緒の道へ進んでいく。
理想のおとぎ話で、喜劇で……誰もがこうあってくれればいいのになという優しさに満ち溢れた話だ。
ガリアの奥さんが生きてた頃の部族はこんな感じだったのかもしれない。
見返せば斧使いの性格の悪い男もちゃんといる。女王に叱責されればペコペコ頭を下げて、伴侶のは王配には横柄に接している。
だがいざというときには率先して働いて女王から褒められているがやはり性格が悪く、失敗して女王にとりなしてもらう話もある。
どこか憎めないが嫌なキャラだ、ガリアにはこう見えていたのかもしれない。
「なぜなら、私が頂点だからですわー!」
キサルピナの女王キメゼリフも終わり拍手を受けながら皆で頭下げて解散していく。
食べ物多めのおひねりをもらいながら手を振る。
私、こっちのほうが令嬢より向いてるんじゃないかしら?
「おおーい!蛮族が攻めてきたらしいぞ!急いで領主の館へ!」
「ああ、来たのですね……」
「クソ!ルディンの野郎め!」
これも最近はよくある。ガリアの存在がもうないので派手になっているのだろう。
なんとも小物だ。まぁ、勝つために何でもするというのは悪いとは言えないが……。
私がやられるのは嫌いだ。貧民街で演劇していた余韻もパアだ。
「皆さんは逃げてください、あとは領兵が……」
「嬢ちゃんこそ逃げな!俺達流れ者に取っちゃここを奪われるわけには行かないんでね!おい、誰か報告にいけ!」
散っていった観客たちは武装兵となり街の外へ向かっていく。
普通の領民より先に貧民街の人間が命をかけるのなんて……。
兵士たちが遅れてやってくるが私を下げるか旗頭にするか悩んでるようだった。
「私もでます、一応戦えます」
「しかし……公爵閣下のお孫さんですし……4歳では……」
「自衛は出来ます、死ねばそれまで。お祖父様もあなたを責めません。そんな人間であることはご存知でしょう。1対多数に持ち込まれなければなんとでもなります。貴族とはそう言うものです」
知りませんけど。でも貴族は前に出るのも責任の内ですから。
ここで帰ったら後で祖父からどやされるでしょう。
真っ先に向かっていった貧民街の住人を見送り、騎士を見送り、トボトボ帰る。
まぁ、呆れるとは思います。流石に敵の首をあげてこいとは言わないでしょうが戦場に出ないのは何を言われるかわかりませんね。
「さ、行きましょう。お祖父様は今は別の場所で蛮族攻めでしょう?」
「はい……」
「公爵家がこの地を守護することを見せつけねばなりません、お祖父様が不在の状況であれば私が赤子でも連れて行かなかったことをお祖父様なら責めるでしょう」
「…………」
多分本当に責めますよ?ここで帰った私も止めたあなたも。
だから悩んでるんでしょう?普通に心配してるかもしれないか、ピチピチの4歳だし。
「わかりました……しかし、我ら崩れたらまっ先に逃げてください」
「公爵家に敗北の文字はありません」
と、祖父が言ってました。
「なので、崩れるときは私も戦いますし前に出ます」
「4歳の令嬢を戦わせるわけには……」
「戦うと決まったわけでもないですし大丈夫でしょう」
こうして私は責任と祖父のお説教の面倒さを考え初陣することにした。
エリーゼ「へぇとんでもごぜぇません、あっしはケチな商人でごぜぇます」
キサルピナ「おーほっほ!金色のお菓子が美味しいですわねぇ!」
住人A「今日の演目何?」
住人B「べっこうあめ商人とお菓子好きの令嬢」




