~軍務省、司法省炎上事件~中編一部抜粋
ララ「編み物に全振り!」
「ふぅん、まぁ及第点ではあるな……紹介状は出せんけど誰に聞くか教えたるわ……」
何度もボツをくらい続けようやく及第点をもらえた。受け取りを拒否されたものを他で売ったらそこそこで売れたのでその金額で一部の傘下企業の出禁を解いてもらいなんとかここまでやってこれた。
他の商人さんたちにも理由を言ったらそりゃ出禁は当たり前だろうって言われちゃった……。私王都に住む人のことも商人のことも全然わかってなかったのね。
もう少し時間をかければいいものが出来たかも……。
「でもなんで3日、4日で一着持ってこれたんや?あんた本業なにしてるんや?婚約者としてやる事あるんちゃうか?」
やっぱり聞かれちゃうよね、恥ずかしいなぁ。
「ノーマンが代わりにやってくれたから……」
「仮縫いとかそう言うのか?」
「ううん、私に励ましの言葉をかけてくれたわ。私はいつもどおり家にいるだけだからずっとセーターを編んでたの」
私達の絆に驚いたのかシャーリーさんは絶句していた。そうよね、貴族って夫婦仲悪いこと多いみたいだし。まだ婚約者だけど一緒に過ごしていきたいの。
「…………ああさよか…………ん?セーター自体は一人で編んでたんか?」
「え?だって複数人で編み物をすることってあるんですか?」
何を聞いているんだろう?やっぱり協力して編むと思ってたのかな?ノーマンがこのことで何もしてなさそうなことに嫌そうにしてたし。
「一人でセーターを3,4日で編んでたんやな?」
「はい」
「……………時間かけたらもっといいもん編めるか?」
「たぶん?」
「ほな、1月やるから編んでくれや、そうしたら全員に紹介状書いたるわ。順番やけどな。もちろんいい出来ならやで?まぁ別に名前聞いて後自分たちでなんとかするならええけどモンタギュー子爵家の名前出しても会ってはくれんことだけは保証するわ。個人しか見ないタイプやから第2王子が会いに来いと言っても断ると思うで」
「そんなに……第2王子殿下相手でも……?」
一体どんな方たちなんだろう。私、ノーマン以外の貴族の人って友人を除くとあんまり話したこともないのよね。ノーマンの元婚約者のジョージアナさんとも話したことはないし。小声だからもしかしたら話しかけられたことがあったのかもしれない。
関係なく話したことがあるのは公爵令嬢のエリーゼ様くらい、たしか3年の時に私の紹介状の話を聞かれたはず、あとは婚約に関しての不履行の通達の際に頑張りなさいと応援してくれた。ジョージアナさんとご友人だったそうだけど……。
でも、紹介状がないと会えないのなら作るしかわないわよね!
「やります!やらせてください!」
「お、おお……えらいやる気やなぁ……まぁええわ……一応書いておくわ……エリー!」
「はーい!なんですか~店長~♪」
「………………ちょっと店番頼む」
「はーい、店長やっときますね、お帰りはいつ頃ですか~♪」
「…………すぐやと思う、すぐやと思うけど……向こうの予定次第や、任せたで」
「はぁ~い♪」
「じゃあララいいので来たら持ってきてくれや、そのために話し通しに行くから」
と、シャリーさんは明るい店員に仕事を任せてどこかへいってしまった。
「そういえば~毛糸ってこちらでご購入ですか~♪」
「ええと、商会は一応出禁なので……セーターを持ってくるときしか入れないんです、だから購入もできなくて……」
「もし私に編んでくれるなら毛糸お売りしますよ~」
「いいんですか?」
「今は私がここの店長で地区の責任者だも~ん、それに代金はちゃんととるし、店長よりいいもの私に作ってくれるなら無料でもいいよ?」
確かに出費が激しい……無料にしてもらおうかしら……。でも……最後のチャンスをくれたシャーリーさんに悪いし……。
ここで逆にシャーリーさんよりいいものを渡したら流石に起こられるんじゃないかしら?
そうよね、それこそ誠意がないもん!決めた!無料は断ろう!
「いえ、購入します」
「はぁ~い、一番高い糸にしますかぁ~?支払いはモンタギュー家でもいいですよ~♪」
「流石にノーマンに聞かないと……」
「必要経費ですよ~?」
ううん……確かに……。いいものを使えればいいものが出来るのは手袋を編んでいた時に経験したことだし……。いざとなったらセーターをいくつか別に売りましょう。
「買います!」
「ご購入ありがとうございま~す♪2着分で毛糸6玉で~す」
「流石に持ってきてないから請求を子爵家にお願いします」
「はぁ~い、わかりました~♪私のサイズ図りますか~?」
「いえ、見ればサイズは分かるので大丈夫です」
「……はぁ~い、わかりましたぁ~お願いしま~す♪」
「はぁ……こりゃまたすっごいもん持ってきたな」
私の渾身の力作を見たシャーリーさんはまじまじと細かいところをチェックしてそう言った。
「じゃ紹介状……」
「私のは~?」
「ありますよ、こちらです」
そう言って渡すと明るい店員さんはセーターをさっと着て喜んでいた。
「あら、ピッタリ~♪」
「エリー、仕事に戻ってくれや……」
「店長の決済待ちなんですけどぉ~私の仕事は全部終わりましたぁ~接客は次のお客様が遅れてるのでまだでぇ~す♪」
「……決済任せるわ」
「はぁ~い、やっておきますねぇ~♪」
そして、明るい店員さんはセーターを着たまま下がっていった。すごい人だ……。
「あれでこの店の……ウチの権限のすべてのナンバー2や。この仕事副業でやってるけど本業でやってたらウチと後継者争いすることになってたやろな」
「そんなすごい人なんですか?」
「接客がうまいし、仕入れもうまいし、交渉商談全てがうまい。問題は人間せ……」
人間性?そんなにクセが強いのかしら?
「いや、あれやな、ちょっと人を試すところがあるというか……決して悪い意味やないでホントやで?分かるよな?な?もちろんエリーはいい人やで?」
なんか急に早口になった。
「はい、わかりました」
「おお、よくわかってくれたわ!そういやモンタギュー子息は今日どうしてるんや?」
「ノーマンですか?独自で調べていると……お義父様からマッセマー商会のことで随分怒られたので」
「せやろな、まだ商会自体の出禁は解いてないし」
「どうやったら出禁は解除されるんですか?」
「この品質のやつをどのペースで作れる?」
「一度作ったんで悩むこともないから1週間くらいですね、他に仕事がないなら……」
「…………1週間?」
「はい、やっぱり遅いですかね?前もって来てたものよりペースは落ちますし」
やはり生産時間がネックみたい……。いくつ作ればいいんだろう……。
「仮に仕事あると仮定したら?ほら一応将来は子爵夫人やろ?」
「今のところ他のご婦人たちからお茶会に誘われることもないのでその手の振る舞いはわからなくて……仕事がどれくらい時間を取るのかわからなくて」
「ああ、まぁ……そっか……じゃあ仕事ができるまでは月3着、これと同じ品質でこれと違うなら1つ。この基準で収めてくれるならその間は出禁を解くで。取引相手を出禁にはできんしな。なんか仕事できてペース変わったら言ってくれや。合わせるから……」
セーターでそこまで……シャーリーさんも商人、それに貴族を相手にしてるだけあってやっぱりメンツの問題もあるのね。
セーター作るだけで許してくれるなんて……このことに応え続けなきゃ……あれだけ失礼な態度取ったのに恩も返せない……。
「じゃあ紹介状渡すけど……一応聞くけど……モンタギュー子息はついてくるんか?これララだけの紹介状だから普通にノーマンは追い返されるけど。契約はララだけやしな、これででモンタギュー子息まで入れたら契約違反や、こっちが紹介状書いた方に責められるんや」
「ああ、たしかにそうですね!」
この数ヶ月、色んな人たちに私の失敗を怒られて、いろいろ説明された。
ノーマンもお義父様から自分達のやり方に全員を合わせるなら法はなんのためにある?って怒られてたし地位によって自分のルールを押し通すのなら法の意味がなくなるし、同じ目線と立場に立たなくて司法の仕事が務まるかって言われて堪えてたみたいだったから……。
「じゃあ……全部行くか?多分それぞれも全部語れる人間は少ないと思うけど……」
「…………誰がいるんですか?」
「まず、紹介状を出したら会ってはくれるが話してくれるかはわからない。これはええよな?」
「はい、それは他の商人さんたちからも、お義父様からも言われました」
「司法大臣お墨付きならええか。じゃあ知ってるけど絶対言わない確信があるやつのとこいくか?」
「……やめておきます」
「でもまぁ契約だから名前は出しおくわ、クラウディア・レズリー伯爵令嬢。全容は把握してるが絶対に話さん、当事者以外には話さない。ウチも聞いてないから無理やな」
「それなのに知ってるんですか!?」
どういうことなんだろう?レズリー伯爵令嬢が関係してる事件ということ?
「それも言えん、ただ全容を把握してる上で絶対言わないのは間違いない。次はジョージアナ・スペンサー男爵令嬢。モンタギュー子爵の元婚約者やな。会ってはくれるが職務上話せないので無駄骨や」
「……会いにも行きづらいですね」
元婚約者の新しい婚約者が元婚約者を司法省にいれるため手伝えと言われたら……困るわよね?愛してるなら手伝ってくれるかもしれないけど。
「いや、会ってはくれると思うで?婚約破棄自体は別に気にしてないのは周知の事実だし……ララに思うこともないだろうし……ただジーナの声が聞き取れるかが問題やな」
「そういえばご友人でしたね……」
「せやで?うちは聞き取れるけど同席したところで職務上結局話せんし、ウチがいたら話せないから意味ないわな」
「そういえばスペンサー男爵令嬢の職務ってなんですか?」
「あー…………ノーコメントや。関係ないしあんま言うことじゃない。国家公務員ではある。これでええやろ?」
「わかりました」
まぁ貴族にも色々あるものね、でも婚約破棄にも私に思うことはないんだ……強がってるのかもしれないしなぁ……。
「次、エリザベス・アルベマー伯爵令嬢。多分やけど話してはくれない、口止めされてるからな。本人が言っとった。」
「口止め?」
「伯爵以上には聞かんほうがええっていったやろ?そう言う面もあるんや」
「あれ?スペンサー男爵令嬢は……」
「まぁ当事者でもあるしそうでもないという……深くは言えんから、名前出た人物は知ってると思えばええよ」
なるほど、思ったより大事なのね!
伯爵令嬢も関わってるし……。
「次にアン・アレクサンダー伯爵令嬢。多分職務上のことで話してくれない。騙せば教えるかもしれんけど友人を騙させるわけにはいかん、友人は売れんからこれはお願いやな。絶対騙して聞き出すと言うなら止めることはできん」
「いえ、そう言う事情ならやめておきます」
誠意を持って接してくれたシャーリーさんにも悪いもんね!
「次にマーガレット・バルカレス男爵令嬢、同じ理由やね。ただアンと違って騙せば敵対即殺害に来られるくらいは覚悟したほうがええで。しつこく聞いたら危ないから普通に止めたほうがええな」
「なるほど……」
やっぱり職務上の問題とか多いのね、でもこのメンバーって……。
「そしてキャスリーン・イデリー伯爵令嬢。絶対吐かん、無駄や無駄。聞きに来た時点で敵対待ったなしやな。マーグと並んでおすすめしない」
「宰相閣下のお家ですよね?」
「せや、だからやな……」
これもしかして予想以上に大きな事件だったりするの?もしかして調べること自体がまずい案件だった?隠されていたのは迷宮入りじゃなくて国家的な隠蔽だったとか?
「だから、本命はひとつ。エリーゼ・ライヒベルク公爵令嬢や」
「ライヒベルク公爵令嬢ですか!?」
「せや、多分話してくれるで。これと同じ質のセーターでも編んで持ってったら話すと思うで」
「公爵令嬢は……話しても問題ないのですか?」
「話す気にさせれば話すで、エ……あの娘、口止めが通じないしな。だからよほどヘマしなきゃ教えてくれるで。どうするセーター編んでから行くか?今から行くか?」
「編んでから行こうと思います」
「ほな編めたら言ってくれや、紹介状だけ持っていってもしゃーないからな、こっちで合う時間調整してみるわ。モンタギュー子爵家でやり取りするとララの紹介状と矛盾が生まれるからしゃーないけど」
「ありがとうございます!」
よかった、シャーリーさんが言ってた大事なのは誠実さというのが身にしみてわかった。私も誠実に頑張ろう……!
「終わりましたか~♪」
奥の部屋から鍵をくるくる回した明るい店員さんがでてきたそう聞いてくる。
「残念ながら今日は用がないで」
「ざ~んね~ん♡じゃ仕事終わったから商会の皆とランチ言ってきま~す」
「ああ、ええ…………ランチ行くんか?」
「えぇ~食事もさせない気ですか~横暴~暴君~悪徳商会~」
「いや、ランチ行くな言うてるわけやないけど、商会の皆と行くんか?」
「他に誰といくんですか~♪いつも行ってますよ~?」
「ああ、そうか……はぁ……そうなんか?……わかったわ、まぁ……いってらっしゃい」
明るい店員さんは鍵をくるくる回してでていき、皆~今日はあの店にしよ~と言う声が聞こえた時扉が閉まった。
「まぁ……優秀ではあるからな、無能で威張ってるのには厳しいが……頑張ってるやつには優しいし。うん」
「はぁ……」
「まぁ、商会収める分とエ……公爵家に渡すであろうセーター頑張ってな」
「はい!頑張ります!」
公爵家ともなるとやっぱりいいもの使わないと駄目よね、頑張らなきゃ!
「ああ、ウチに収めるセーターの毛糸こっちが渡したるわ、おまけで公爵家の収める分も付けといたるから……」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
なんて優しいんだろう……私も人に優しく生きないと……。
巡り巡ってシャーリーさんにも特になるように頑張りたい。まずはセーターね!
エリー「いらっしゃいませ~お客様~♡」
シャーリー「(中身知ってるとキモいな)」
エリー「(よ-し出番ですわ!)」
シャーリー「残念ながら今日は用がないで」
エリー「(えええーーー!!)」




