~軍務省、司法省炎上事件~前編一部抜粋、編集
ノーマン・モンタギュー「違う世界線で死刑になったよ」
ジーナ「バカ息子(小声)」
「まぁ、申し訳ないんやけど……ウチは語れんわ」
シャーリーの気まずそうな台詞に2人は肩を落とす。
「なぜ?」
「…………」
ノーマンの質問に答えずシャーリーは沈黙を続ける。
「私が司法省に入ればマッセマー商会に便宜を図る、どう?」
「いや、司法省にパイプはあるからええよ」
「そうなんですか!?」
「そりゃ、王国一の商会やし……王宮にも省庁にも腐る程ツテはあるわ」
「そう、でも私が入省すれば次代も安泰。違う?」
「……」
ノーマンの問いかけに少し考えるようにシャーリーは黙り込む。
いけるかもしれない!
ララはここが攻めどきと言葉を捲し立てた。
「ノーマンは将来有望です、父も司法大臣ですし!ノーマンも将来そうなります!10年後には大臣になっています!」
シャーリーは真面目な顔をしていたがプッと吹き出し、彼女にしては珍しくゲラゲラと笑い始めた。
「いや、すまんな。大言壮語を云う顧客は多いがこうまで言ってきたのはそうおらんで、なかなか面白いこと言うやないか。便宜はいらんけどそれに免じて言えることだけ言ったるわ。……この件から手を引くことや、後あんま貴族には尋ねんほうがいい、伯爵以上には決して言わんことやな」
「どういうことですか!?」
「ウチの言えるのはここまでや」
「そこをなんとか!」
「頼む」
呆れるような目で見たシャーリーだったが、ふと何かに気がついたようにニヤリと笑った。
「そもそもなんで自分を危険を晒してまでウチが危険な橋を渡らなきゃアカンのや?」
「それは……この事件の陰謀を暴けば……ノーマンが司法省に入省できるから」
「それウチが命かける理由にはならんやろ、別に親しいわけでもないあんたらに。何を出すんや?いざという時詰められたらウチが命を守れてなおかつ利益が出るものは?」
その言葉にララは頭を殴られたようなショックを受けた。
藁にも縋る思いでマッセマー商会に面会を申し込んだらなぜか通った、きっと自分たちを無条件で助けてくれるとなぜ思ったのだろうか。だが自分たちに出せるものは……。
「私が司法……」
「それはもうええわ、あとさっきもいらん言うたやろ。そもそも大事な話がある言うたから会ったのに商談でもないし……一方的に知ってること話せばっかであほらしいわ」
「私は……数人の上層部とつてがある」
「ウチも数人の上層部とつてがあるよ」
「商会でしょ?私は個人に連絡を取れる、どう?」
「残念やけどウチも個人や、商会より先にウチの名前出せば会えるわ」
取り付く島もなく突き放すシャーリー。
「何が、欲しい?」
「せやなぁ……モンタギュー子爵愛用のティーカップと……そこの嬢ちゃんが本気で編んだ……手袋はようないな、うん!セーターとかでどうや?」
「父上のは、ダメ」
「ほな商談は終わりや、気いつけて帰りや」
「待ってください!ティーカップの分セーターを編んだら教えてくれますか?」
「…………まぁ、ええで。でも手を抜いたら突き返すで?ウチは商人や。価値あるものをないと思って安値で売ったら安値で買うし、相手が困ってたら恩を売るためにちょっとだけ高値で買う。でも価値あるものを持ち込んで変わりにと言ったら一切妥協はせんで?ウチが満足行くもの持ってこなければ他の商会が100点出してもウチは断るで?」
「それじゃ、教える気がなければ……ずっと終わらない」
「そ、そうですよ!」
「あまえんなや!」
シャーリーの一喝は大きく響き、2人を僅かな間硬直させた。
そして恐怖からか冷や汗をかき始め、怯えた目で2人は一喝した女性を見る。
「何度も言うたやろ?なんでウチが面識もろくになく利益もないあんたらのために骨折って命の危機にさらされなアカンねん。あんたらウチ守れんやろ?たかだか子爵子息やないか。あんたのお父さんの地位はよーく知っとるよ。お得意さんやからね、だから会ったんやけどそれも知らなかったみたいやね。二度とウチの商会またがんといてな、家ごと出禁やわ。エリー!すまんけどモンタギュー大臣にモンタギュー家との取引は全部止めるって伝えてきててくれや!」
「はーい、わかりました~♪」
なんだか得体のしれないものを見るように伝言を任せた従業員を見た後。
シャーリーは改めて宣言した。
「あんたら2人はマッセマー商会と傘下商会に関連商会全部利用禁止や」
「そんな!」
「なんで?どんな権限?」
「なんでそないなことと説明せなアカンのや?ウチに説明責任があるか?店の出禁理由を出禁相手に懇切丁寧に説明しなければいけない理由があるんか?そんな法律はないやろ、司法大臣もう一人やってついでに聞きに行かせるか?」
「家は関係ないじゃないですか!」
「さんざん司法省に入省するだの父が司法大臣だのつてがあるだの言っといて何言うてるんや?あんた同じ立場の時これ言われて家は関係ないとか言われたらはい、そうですねっていうんか?商人なんて貴族の地位見せて黙らせれば勝手に吐いて協力するやろって舐めすぎやろ。あんた平民なのに貴族以外見下すんやな?そもそもあんたらモンタギュー子爵家子息と婚約者で会いに来とるやないか!」
「……ッ!」
今日の態度を見れば否定できない。肩書を使って会いに来たのに起こらせて家は関係内では通らない。
ララは自分の態度がとても褒められたものではないと改めて認識することになった。
「もし……」
「ん?」
「それに値するセーターを持ってきたら……教えてくれますか?」
「せやな、詳しいことは絶対言えん。聞けば教えてくれる人物を教えたる。何ならセーターの出来次第では紹介状書いたるで」
「本当ですね?」
「相手が騙してないなら嘘はつかんよ?契約書でも作るか?」
「……お願いします」
「毎度、そっちの都合なんでインクや封蝋、紙はそっち持ちやで。古き羊皮紙にしとく?普通の紙にする?」
「約束を遵守させるには羊皮紙が一番だ、違う?」
「誠実さや、契約は紙切れに過ぎん。破ろうと思えば敗れる、後ろ指さされても痛くも痒くもないなら手やな。だからもし破った際に相手が絶対に責任があるようにせなあかんけど」
「商人は契約を破るのか?誠実さはどうした?」
「あん?バカで不誠実な個人や、それに類する貴族相手なら破るに決まってるやろ?ウチから言わせれば貴族だから何でも通ると思ってるあんたらのほうが契約を一番破ってるで?契約破った相手なんて本来殺されても文句言えんのやで?信じるのは紙切れの質じゃなくて内容と誠実さや。付き合いあるやつがどうしても契約守れんのなら理由次第でほな許したるってこともあるんやからな」
契約書を書き上げてサインをする。
ノーマンがサインしようとすると待ったがかかった。
「あんた関係ないやろ?」
「ララは私の婚約者だ!」
「いや、だからなんやねん。この契約は知りたい情報に相当するセーター編む事やで?あんた子爵のティーカップ渡すの拒んだんだから関係ないやろ、その分自分の婚約者に頑張らせて自分も頑張ってるアピールしても解決せぇへんで?」
「ララ一人にサインはさせない!」
「ノーマン……」
うれしい、そんなに私のことを思っていてくれるのね……。
ララはノーマンの男らしさに彼が婚約者で本当に良かったと心から安堵した。
「だからあんた関係ないのにサインしたらあんたもセーター編むことになるで?契約は絶対や、ララがいいもん編んでもあんたが駄目やったら情報は渡さんしそれでごねるなら商人式で契約違反者を処分するで?」
「先程は破ろうと思えば破れると言ってた、違う?」
「その場合あんた自分でバカで不誠実な貴族って認めることになるけどええんか?その場合契約破られそうだからこの契約自体なかったことにするけど、そもそも都合といいとこ切り取るなや。ちゃんと誠実にやってりゃこっちから破る必要なんかないわ」
「…………」
「いやならティーカップ持ってきてな、この契約書どうする?司法大臣に違法性がないか確認に行くか?エリーが今行ってるから帰ってきたらまたいかせるか?」
「私だって司法大臣の息子だ、この契約ではどうやっても騙すことはできないだろう。日付も何もかも改ざんはできない、控えも作ってある。互いに保管し合えば問題ない」
「そうか、よかったな、じゃセーター編むまで出禁だから頑張ってな」
「出禁は解くんじゃないですか!」
「何言うてんねん、貴族が舐められたらケジメつけさせるように商人だって舐められたら相手が貴族でもケジメつけさせんで?命でも家でも財産でも、出禁解いてほしければその分上乗せした出来のいいセーター編むか金を積むかのどっちかやな、気張りや」
「一理ある」
「あるの!?」
ようやく掴んだ手がかり、ノーマンがこの事件の裏にあることを調べられれば司法省入省も叶うかもしれない!
私は、私は立派なセーターを編んでみせるわ!
帰ってから羊皮紙代などを見て目を丸くしたララ、この金額は合っているかノーマンに確認したがなかなか質の良い高級品だったからなと返され若干距離を感じるのだった。
ノーマン「ララからもらった手袋だ!」
シャーリー「遠目から見ても出来がええな?どこかで買ったんやろか?調べてみるか」
シャーリー「市場にも公爵家にも流れてない?」
エリー「だってワタクシの手袋が最上級ですわ」
シャーリー「手編みか?機会があったら交渉してみるか」




