ゲームで語られない話~神による禍~
父は部族の長だった。
幾多もの部族を征服し、ゲルマニー地方を征服できるのではないかとまで囁かれてた。徒党を組んで攻撃されたことは数しれず、何度も撃退し勝利し続け、族長決闘も30戦無敗で各部族を下していった。
「さすがはドナント、このまま行けば王にもなれるだろう。さすればお前は王子に為るだろう」
「ありがとうございます、父の名を汚さぬよう粉骨砕身励みます」
「ほう、南方蛮族の言葉遣いも出来るとは!これはお前の代で南の蛮族を滅ぼせるかもしれんぞ!」
「ゲルマニーを征服したら別地方を、山脈の内側を統一したいと思います!」
「ガハハ!それはいい、ドナントが出来るだろうがもし彼が死ぬことあればお前がやれ!」
「ありがとうございます、カート叔父上!」
そんな平和な日々はある日急に消え去った、南の蛮族が攻めてきたのだ……。
「カート叔父上が討たれた!」
「はい、戦争に負けました!蛮族の長に討ち取られました!化け物です!いずれこちらにも……カート族長が支配していた部族はすべて蛮族になびきました!」
「な、なに!?蛮族に屈したというのか!?戦争だろう、決闘でもないのにか!」
「蛮族が戦場で圧倒的優位だったのですが……カート族長が劣勢の中で族長決闘を申し込み蛮族が受けました、そこで……」
「負けたのか……カート叔父上が……それは……蛮族は卑怯な手を……いや、よい」
もしも蛮族共が卑怯な手を使ったのであれば部族がなびくはずがない、間違いなく決闘で負けたのだ……。戦争でも決闘でも……完敗したのだ。
私は父の元へ向かいこの事を報告した。
「カートが……」
「父上!兵を集めてましょう!蛮族に立ち向かわねば!」
「………………族長決闘だ」
「相手が受けるでしょうか?」
「族長決闘を拒む蛮族なら脅威ではない、ここで方を付ける!最も戦のうまいカートが負けたのなら族長決闘しかない。数の差であってもこれが逆転の一手だ」
「ち、父上……」
「私のほうが強かったから族長になったのだ、今は50もの部族を従える大族長になった。安心しろ、私は負けたことがないのだ。使者を出せ!族長決闘だ!負けたら従う、生殺与奪は自由!これだけだ!」
「汚らわしい蛮族の皆さまー!ワタクシがあなた達の新しい長であるエリーゼ・ライヒベルクですわー!以後お見知りおきをお願いしますわー!」
まさしく蛮族であった、礼儀も何も無い何だこの小娘は?族長の娘か?
いや、南の蛮族は族長ではないんだったか?
「私が大族長ドナントだ!蛮族は礼儀を知らないな!」
「自己紹介どうもですわ!あなた達蛮族が礼儀知らずなのは知っていますからお気になさらず。改めて……ワタクシがこの軍のトップ!エリーゼ・ライヒベルクですわー!」
この小娘が?カート叔父上を殺したとでも言うのか?父の礼儀知らずとの罵倒を自己紹介だと思ってるのか?
「……エリーゼ族長!戦うのはお前……いや……あなたでいいのか!」
「もちろん!この前の戦争でも最後は決闘でしたけどワ・タ・ク・シがでましたわー!」
流石に父もこの娘が決闘相手だとは思ってはいなかったらしい。それはそうだろう……。
「それで?戦争中の決闘と通常は違うのでしょう?どうしますの?」
「…………同じだ、負けを認めるか死ぬか。それだけだ!」
「シンプルイズベストですわー!いいですわ、やりましょう!ワクワクしますわー!」
なんだか呆れた表情をした背の高い女性から剣を受け取った蛮族の娘はスラリと剣を抜き構える。
「いつでもどうぞ、かかっていらして?」
「舐められたものだな……俺の大剣をもってこい!」
持ってこられたのは普通は両手で使うだろう父の愛大剣。父はこれを片手で扱い、相手を武器ごと屠って来た。
哀れな蛮族の小娘はミンチになるだろう。
「ぬおおお!」
「あくびが出るほど遅いですわね?剣を変えたらいかがかしら?片手で振っても空いてる左手で何もしないなら意味なんてなくってよ?」
横薙ぎを半歩下がって交わした蛮族の娘は父の空いてる左手を剣で突き刺し、引き抜いた。
「いらない手みたいだから切り捨てようと思ったけどタフですわねぇ……」
「小娘の剣で切られるほど俺の腕はやわじゃない」
「そうですの?まぁ今まではこれで終わったから甘く見すぎましたわね、失礼しましたわー!」
「ふん、相手が弱かっただけだろう」
「ええ、ですから……楽しませていただきますわ!」
今度は蛮族の娘から攻撃をしてきた。馬鹿め!その位置は父の必中範囲だぞ!
娘の突きと払いを剣で防いだ父は、剣を両手で持った。
「小娘だから殺さずにおこうと思ったが、もう殺す」
「あらあら?いまので逆鱗にでも触れましたの?軽いジャブですわ。安心してくださいまし……もう殺すのはワタクシのセリフですわ」
父が大剣を両手で上段に構え、一撃で殺すと覇気を飛ばす。見ている族長たちも、息子の俺でさえ恐怖を感じた。
蛮族の娘の側はさほど怯えておらず、鈍いのかとすら思う。
警戒してるようなのは剣を渡した長身の女と小柄な女。
観察するように見ている女、冷めた目で見つめる女、何故か男の格好をしてる胸のでかい女。キョロキョロそこらじゅうを見渡す商人のような女。唯一怯えているのは少しだけ後ろに下がった気難しそうな女。
まったく気にしてなさそうなのが1人、どことなく気品を感じる。
「あら?ワタクシからまた行くんですの?エスコートが下手ですわねぇ、女を拐って犯すしか能がない蛮族らしいですわね。ワタクシが本当のエスコートを教えて差し上げますわ」
「エリー」
どことなく気品を感じる女から冷たい声が響く。
「今日はあと4つほど蛮族の族長を殺すのよ、遊んでないで早く終わらせて。シャーリーも北方組合を通さず商いをする数少ない機会なんだから」
「いや、本当に手強いんですのよ!?」
「言葉遊びする余裕はあるのに?」
「これは貴族の流儀ですわ!」
「あるか!そんなもん!早くしなさい!」
「トホホですわね……予定押してるから仕方ないですわ、ワタクシはともかく見学の友人たちの帰還が遅れると面倒事になりますからね、じゃ死んでくださる?」
その瞬間、蛮族の娘はステップを踏むように父に近づき間合いに入った。
捕らえた!
これで頭から砕いて終わりだ!
「あら?バカ正直に受け止めるとでも思ってましたの?」
間違いなく頭を砕ける距離だったのにそこに蛮族の娘はいなかった。
剣を振り下ろした父の懐に完全に入り込み剣を深々と突き刺していた。
バカな、どうやって……?あそこから踏み込んで突き刺したとでも言うのか!?
父を優雅に蹴り倒し、顔と服を血に染めた悪魔は冷めた目で父を見つめる。
「まぁなかなか楽しめましたわ、降伏は?」
「……殺せ」
「覚悟があるやつは大好きですわ!じゃ、さようなら」
俺は飛び出し悪魔に切りかかった。決闘でもご法度の行為ということは抜け落ち、この悪魔を殺さなければ部族は死に絶える!その感情がすべてを支配した。
瞬間、何がが1つ、2つ当たり俺の剣を弾き飛ばした。
冷めた目の女がスリングショットを構えている、やつが当てたのか?いやあの程度で……弾かれた剣を見ると近くには小さなナイフが落ちていた。
小柄な女が指の間にナイフを挟んでこちらを見ている。
長身の女は剣を抜いておりこちらを……。
「オイタはここまでっすよ」
背後にいた男の格好をした女に蹴飛ばされた。バカな、一体いつの間に……!
片足がのせられているだけなのに全く動かない!
「あらあら?ケチがつきましたわね?決闘の妨害は?族長?」
「…………爪を全て剥がし目をえぐり指を刻む、腕と脚を落として体を傷つけ、死なぬように腹を裂き獣のいる山に捨てる」
「ヒェ……さすが蛮族ですわね……」
「決闘の邪魔をした人間は生きる価値はない」
「まぁそうですわね、でも子供ですわねぇ?どうしましょうかしら」
「大族長の決闘の邪魔をしたのだ、仕方ない」
「まぁ仕方ありませんわね、この子の親は?そちらに責任を取らせてもいいですわよ、ワタクシ子供を殺すのってあんまり好きじゃなくて……子供使って殺しに来たら別ですけど」
「その子の親は俺だ……」
「教育に失敗しましたわね……」
「すまない……」
「族長決闘で族長を殺して息子も殺したら評判が下がりそうだから嫌ですわね……勝ったのに名誉を失わせるつもりですの……?」
「何が望みだ?」
「あなたこのまま蛮族共をまとめなさい。で、そこの子供は……まぁその価値観なら生きてるだけで恥でしょう、殺さず、いたぶらず置いておきなさい」
「……非情だな」
「2人殺すよりは非情じゃありませんわよ?さてと、あと4部族をはっ倒してきましょうか……」
「ケジメはつけさせなくていいのか?」
「別に生きることがケジメみたいなもんですけどそうですわね……ワタクシの友人たちも怒っておりますし……茶番と躾が必要ですわね」
小声で聞こえづらいが俺を殺す相談だろうか。俺に足を乗せた女はびくともせず動く俺を無視している、声も出せない。
「決めましたわ、あなたにケジメを付けますわよ!」
「エリー!予定押してるって言ったじゃない!」
「アーデルハイド、申し訳ないけど代わりに行ってきてくださる?多分余裕ですわー!」
「あのねぇ!一応建前では観光に来たのよ!なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ!」
「あなたの好きなケジメをこの子供につけようかと思って」
「私が付けてやるわよ!ケジメくらい!決闘の妨害するようなクソガキあなたが殺せないなら私が……!」
「これ族長の息子だそうですわー!」
「………………わかったわよ!蛮族の族長の4人や10人とっととぶっ飛ばして返ってくるわ!アン!マーグ!ここは平定したしついてきて!ジーナとベスは……休んでたら?シャーリーは商機だから別にいいわよね?」
「あ、ああ……」
「ういー」
「ちょっと蛮族の本漁ってくる、法律書とかあるのかな(小声)」
「私も行く!」
「ベスがやる気やな……まぁウチも蛮族の本興味あるし仕入れてみるわ」
俺はどうなるんだ……!?
殺されるのか!決闘妨害だ、そうだそうに決まってる。この女が俺の爪を剥がし、指を切り落とすんだ!
「ケジメですわー!ワタクシと殴り合って……前の蛮族のとき大人って何発でしたっけ?」
「100発っす!」
「50発耐えられたらあなたのお父さんは殺さないでおいてあげますわー!やらないならべつにいいですわー!」
「あれは100発以内で死んでるっす!」
「あら?何発で死にましたっけ?」
「53発くらいっす!」
「じゃあ20でいいですわ、大盤振る舞いですわー!持ってけ蛮族ー!」
声が出ない、やると言いたいのに……。
「やらないんですの……マジで……?」
「……ッ!……ッ!」
「あっ……クラウ、どいて差し上げて?」
「……?あっ、わかったっす」
一気に空気が臓腑に入ってきたような感じ、空気で生きが詰まるような気分、コレが地獄から還った気分か。
「やる!女の拳の20発程度耐えてやる!」
「ああ、そう。言い忘れましたがワタクシに拳を入れたらマイナス1発づつ換算して差し上げますわ、つまりワタクシの規定数の攻撃を耐えるか、ワタクシに20発入れればそこで終わり、簡単でしょう?」
「エリー、今までそのやり方で倒した蛮族はエリーに一発も入れられてないし、20発くらいで降参してるっすよ」
「子供だからこそ出来るかもしれませんわ!未来への可能性を信じなさい!」
「可能性を摘む側が言っていいセリフじゃないっす!」
拳を振り上げ、悪魔に向かっていく。
「うおおお!」
悪魔は一歩も動かず俺を見つめている。俺は間合いに入り悪魔を……
パァン!
「そうだ、言い忘れましたが子供ですからハンデですわ、おビンタで20発にして差し上げますわ」
何が起こったのかわからなかった。ただ俺の鼻からは血が流れ、頭がくらくらしているのは確かだが……。
「あら?顔だとまずいかしら?じゃあ平手でだけかしら?この感じじゃ3発で終わっちゃいますわね」
「あ、う……?」
「2,はい3、4」
腹を掌底で突かれ、背中を叩かれ、太ももを叩かれた。
痛い、痛い、痛い……。
「やってるのは左手ですわ?利き腕じゃありませんことよ?力もほとんど入れてませんし……おかしいですわね?」
「だから大人も20発くらいで降参してるっす……」
「あっちは拳で利き腕ですわよ?」
「そう言う問題じゃないっす……」
「じゃあ10発?」
「最短12発で死んだ蛮族がいるっす……」
「いましたっけそんなの?」
「最初の頃に喧嘩売ってきた山中のやつっす。ルディン?みたいなやつ」
ざわつく族長たち、南部蛮族に蓋をしていたルディン大族長は降ったのではなく死んだのか……。この悪魔に殺されたのか!あの心優しい大族長が!
「ああ!あの公爵家を狩り場としてしか認識してなかったクソ蛮族ですわね、弱すぎて忘れてましたわ」
「まぁ確かに弱かったっすけど……軍勢がボロ負けした後エリーを名指しで決闘を挑んだのに剣ではなく拳だし……生き残る気満々だったっすからね」
「だから殴り殺してやったんですの、忘れてましたわ!10にもならない小娘めに殴り殺されるなんて弛みすぎじゃありませんこと!?」
「一応子供だしあれ基準にしたほうがいいっす」
俺より4つは年下の女が……俺より強くて……手加減しているのか……?
「じゃあ次がラスト!ラストですわ!ファイナル最終ラストエンドおビンタで終わりにしますわ!生きてたらセーフ!」
「まぁいいんじゃないっすか?」
「くらいなさい!ケジメのおビンタを!」
俺の記憶はそこからない。
「さて、生きてますの?」
「生きてるっすよ、ちょっと脳みそが揺れただけっす。ぐちゃぐちゃになってないし大丈夫っす」
「いくらなんでも左手のビンタでそうはならないでしょう?」
「子供っすよ?」
「…………さて、蛮族の皆様!ワタクシが新しい族長でよろしいですわね!」
「あっ、話しそらしたっす!」
「前族長として認める」
「あら、不満そうな顔がちらほら……いいですわよ、したいなら決闘しても?族長決闘で降ったもので不満な連中は殺しますけど、前族長の人間性に惚れ込んで降った蛮族は不満があって当然ですから。代わりに決闘に行った友人がいるからちょうど時間も空きましたしね!さ、不満がある方はかかっていらして……いませんの?じゃあ一人づつじゃなくて結構、私はこの決闘場から出ませんわ、さ、かかっていらして?ワタクシを倒せばこの蛮族と南の蛮族と……公爵領を差し上げますわー!」
襲いかかる十数人の族長たちを切り捨て、殴り飛ばし、殺し、降伏させ、アーデルハイドが4人の大族長を降伏させて戻ってきた時にエリーゼ・ライヒベルクはゲルマニー地方の蛮族の長となった。
この決闘は凄惨であり、容赦がなかった。
傘下部族たちは彼女をバルバロイ、バーバリアン、蛮族の大族長、暴君、悪魔と呼び恐れた。
周辺部族も傘下部族に襲われ、時間が空いたときはエリーゼ自ら族長決闘で征服し、彼女が10になった年に北部蛮族、蛮族の立場で言うなれば西方蛮族はすべて平定され、東方蛮族を残すのみになった。
ここでエリーゼは蛮族と接する国境地帯の国々に対して蛮族を使い様々な工作を仕掛ける方向に舵を切り、東方蛮族の制圧は傘下蛮族に投げ、規模の大きい大族長との族長決闘にだけ応じるようになる。
蛮族たちは彼女を恐れて団結し対抗するが傘下のドナントの部族にも勝ちきれず領土を減らしていった。
彼らは蛮族の言葉でエリーゼ・ライヒベルクをこう呼んだ。
神による禍と
アーデルハイド「うらぁ!」
アーデルハイド「おんどりゃぁ!」
アーデルハイド「ぬおおおりゃっっ!」
アーデルハイド「はあぁっ!ぬぁぁぁ!」
アーデルハイド「よし、勝てたわね!」
アン「私達いる必要あったか?」
マーグ「しらね」




