~2年後にお会いしましょう~
1日後にぶっ倒れる宰相「……」
「これが公爵家不正の証です、私が立場を用いて持ち出しました」
「おおお!ハイジ女官!でかした!ヴィリー殿下もお喜びだ」
「ありがとうございます!」
「いえ、公爵家の専横は許せませんので」
ドタバタとせわしなく去っていく、ララと……誰だったかしら?普通の人間は覚えられるのだけど普通以下で身をわきまえない方って覚えられないんですよね。
さて、と……種は巻き終わりましたね。後は明日芽が出ればそれで良し。
人気のない王宮、ハイジとしては今日が見納めだと思うとなんとなく虚しくもな悲しくもある。折を見て顔を出していたとはいえこんなものだろうか?あいにくそのような経験もないのでただただ不思議な感情が心を占める。
さて、少し間をおいて王太子妃様の元へ伺うとしましょうか。
「ああ、ハイジ……先ほどララとバカ息子が……」
「もう王子が生まれたのですか、気が付きませんで」
「まだ床も別よ」
「でしょうね、そのへんは厳しくされてますからね、よく王太子殿下が我慢してると思います」
「そもそも生まれた子供は絶対バカじゃ……!……もういいわよ、誰もいないのに馬鹿らしくなってきた。あなた以外は許可があるまで普通は入らないから普通にしなさいよ」
横長の椅子に座り、かつらをよこに置いて、かわいいエリーの登場ですわー!
「案外あっさりでしたわね、自分たちで確かめるとか……なさらなかったとはねぇ!」
「バカ息子にそれが出来るなら司法大臣は苦労の8割は消えるわよ!」
「あら?ララさんには言わないのね」
「平民よ!そんなこと分かるわけ無いでしょ!わかってたら婚約者いる男に手を出すと思ってるの!?貴族だって平民のことわかってないやつばっかなんだからそうなるわよ!」
わかって手を出して入ると思いますわよ?ただ大事になるのが変だと思ってるんでしょう。元が田舎ですし他人の男に手を出してもまぁ許してくれるだろ程度なんじゃないかしら?田舎ってその辺の事情結構大変なんですわよ?血が濃くなると危険だし。それに種撒いた方はともかく産む方は別段問題でもないでしょうしね、子供も減りつつあるし。
まぁ元々妾狙いだったんじゃなくって?まぁどうでもいいんですけど。
「皆手を出してもらって大喜びですわね、も・ち・ろ・ん……ワタクシもですわー!」
「あぁ頭痛くなってきた……アンも?」
「横から手が出てきて自分の皿の中身を取られれば中身が何であれ腹が立つでしょう?」
「エリー……あの乙女がそんな……」
「本気で愛したらもう殺してると思いますわよ、だからムカついてるけどいらないと心の底では思ってる。誠意を持って接すれば一番あっさり婚約破棄したと思いますわよ?だってほら、無能の擬人化ですし」
「……軍務大臣の息子があんな馬鹿だなんて……」
「だって息子の優秀さなんて見て軍務大臣なんて据えるわけないじゃないですの」
「前任失脚させたあなたがいうことじゃないわよ?」
「失脚させたのはアーデルじゃないですの!」
「省を2焼くし」
「焼いたのはあなたではありませんの!しれっと責任を押し付けないでくださいまし!」
よく考えたらアーデルが婚約者候補から内定にいたったのそれが原因ですわね。
いいとこだけ持っていった?たしかに急いでワタクシはアーデル推薦しましたけど、婚約も辞退しましたけど……。
いや、あの王太子ならそういうことにしたかもしれませんわね。ワタクシに全責任押し付けたな?
あの色ボケ……2年後ケジメ付けて差し上げますわー!
「……これで王国はズタボロね」
「元から死んでたじゃないですの、何を今更……死体を見て死体ですと言われてもね」
子供の頃からまずいなぁって話をしてたじゃありませんの。ワタクシもアーデルの個人女官の筆頭として見てきましたけどこんなの詰んでますわ。終わりそうから終わるに変わるくらいには。王宮女官筆頭も……薄々王太子妃の個人に与える最高権限持ってるハイジが誰かわかってるんじゃないかしら?
「わらわも頑張ってここまで持ってきたの!」
「ロバツ王国なんて友好関係築いてもクソ使えませんわよ?ポエマー王子が何の役に立ちますの?蛮族に蹂躙される国民を見て詩を読み始めますわよあんなアホ」
「アホだけど、アホだけど……蛮族と接してる領域の問題があるのよ……エリーがやってるんでしょ?」
「ロバツ王国の略奪は自由と伝えておきましたわ。まぁ他も自由ですけど、一部を除き王国領で略奪したら私直々にぶっ殺すと伝えて違反者を斬り殺したら従いましたわ、やはり強者には従うのが蛮族のいいところですわね、族長決闘って楽ですわね」
「どっちが蛮族なのよ」
「アーデルだって蛮族の大族長達を護身術ではっ倒して服属させたじゃありませんの!」
「うるさい!エリーがトップの体制作るために部下のフリしてやったんだから感謝してよね!」
「ワタクシがはっ倒せば無駄な演技しなくてよかったんですわ!」
「なに?元を正せばあなたが予定を壊したからでしょうが!やるか!わらわの護身術はあんたより強い事実を忘れるなよ!」
「なら私は武器を使いますわ!武器ありなら私が負けたことないことを思い出すといいですわ!」
「近衛兵呼ぶぞ!」
「上等ですわー!あんな腐り果てた役立たずが100人来ようがはっ倒して脱出してやりますわ!」
「……」
「……」
近衛騎士団が無能の集まりってのがもうやるせないですわね。まぁ愛想尽かした人材はこっちに引き抜きましたけど。
「せめて……ヴィリーが……」
「あーダメダメ、あれは本質的にクズですわ。王太子の儀の後でワタクシの婚約が決まったときにクソ過ぎて笑えませんでしたわ」
「王太子の儀の前に会ってなくてよかったよ」
「あれより下でしたの!?裏町のゴロツキや負けて公爵家に逃げてきた蛮族以下じゃありませんの!冗談はおよしになって!」
「…………」
「マジですの?」
「…………」
「アーデルがいても武装蜂起路線一択ですわ、私でもあれでぎりぎりあなたのことを思った上で数年の静観をしたんですのよ?」
「ごめんね……静観を無駄にして」
「…………いいですわ、そのことでの心残りはあなただけでしたから」
「まぁ、わらわは離れられないしね。他の皆は?」
「色ボケよりワタクシについてくるに決まってるじゃありませんの!」
「いや、婚約破棄されるからエリーについてくだけじゃない?」
「何をいうかと思えば……ワタクシの人徳ですわ!」
「本当に?」
「本当ですわー!」
「本当に?」
「もちろんですわー!」
「本当に?そこまで自信ある?どうして?」
「……ワタクシのほうが王太子妃になったアーデルより接してるからですわ!」
「長時間接しただけでそうなるなら内務大臣と宰相ってなんで仲悪いの?ねぇねぇ?」
クッソ嫌なとこついてきますわね……。友情とおっさんは別に決まってるでしょう!
「じゃあワタクシも王太子の妾になるかもしれませんわよ」
「させるかバカ!」
「なりたくないですわよ!」
「私の夫の何が不満なんだ!」
「アーデル好きすぎてワタクシにアーデルの悪評なすりつけるところですわ!」
「そこがいいんじゃない!」
「ワタクシにとっては最低最悪ですわよ!」
「そんな悪評気にする女か!」
「……」
そう言われたらそうですわね、なんで有象無象の悪評なんて気にしなくてはいけないんですの?
「ほら、だってエリーはさ!小物とかどうでもいいんだよね!」
「確かに……」
「悪評で損でもしたの?バカが炙り出せて便利じゃない!」
「そう考えたら利点が多いですわね……」
「そうでしょ!」
「そうですわ!」
悪評に踊らされるバカなんてどうでもいいですわー!ワタクシこそが正義!ワタクシが正しい!ワタクシ以外は間違っている!よってワタクシを非難するやつは悪!間違いありませんわ!
「あっぶねー(小声)」
「なにかおっしゃいまして?」
「ため息、今後の王国のことで」
「2年待てば解決して差し上げますわ」
「本当に2年で蛮族を?」
「平定自体は数ヶ月かしら?族長を叩き潰して降伏させる。でてこない族長は昔のように戦争で叩きのめす、あとは統治に1年もいらないですわね。エリーゼ帝国自体はある程度枠組みも法もできてますわ。軍備も整え蛮族共の装備を整えさせて……武装を強化……蛮族北方のウィト王国を落とし食料を安定供給させますわー!」
「ウィト王国は1年?」
「3ヶ月で落としますわ、大陸最北西国ウィトを陥落させ、東へ向かいラース王国を落とす、次にラース西方のベルゴニア・ヴェトオマー両国を落とす、これで5ヶ月くらいかしら、統治しつつ王国を滅ぼしますわ」
「そう簡単に滅ぼせるかしら」
「あら?貴族が皆優秀で立派だと思ってるのかしら?国を守るためという建前は便利ですわね、国を売る正当化ができて」
「蛮族向こうの国まで手を出してたの!?」
当たり前でしょう?むしろそっちが本番ですわよ?
蛮族がまとまったら察知されてしまうじゃないの、ロバツはアホだから気がついてなさそうだから派手にやってますけど蛮族北方国は慎重に手を回してますわ。12年かかって蛮族すら平定できてないとかそこまで無能に思われてたのかしら?
「まぁ、エリーだしね。そうだね、エリーだった!アハハ、アーッハッハッハッハ!」
「ワタクシはいつでもワタクシですわよ?」
「約束は守るよ、終わったら自由に動けるわ」
「いいですわねぇ、あなたが男だったらワタクシの婚約者にしてましたわ」
「そっくりそのまま返してあげるわ!」
同世代の男はいまいちなのしかおりませんわねぇ、女性の方が優秀なのかしら?それとも高官の息子ってみんなこの出来なのかしら?不思議ですわね……。
「まぁ心残りはありますわ」
「婚約?」
「まさか、先ほども言いましたけどあれは本質的にクズですわ、この期に及んで公爵家を諌める行動をしたわけでも、ワタクシになにかいったわけでもありませんわよ。本当に考えてるならそれくらいするでしょう?最も別に違法性はないですし何処もやってるようなことですわ。ちょっと蛮族を征服して北方国家にちょっかいかけてるために色々やっただけで……そもそもそこを把握してたらこんな愚行はしないですわね……」
「な~んにもいってないの?」
「な~んにもいってませんんわ」
「教育間違えたかな……」
まぁ大元があれだとなんともいえませんわね。だいぶ頑張ったとは思いますけど。
「ケダモノから人にしただけ頑張ったと思いますわよ」
「初対面でケダモノ程度はあったか……よかったね」
「…………ご愁傷さまですわー」
「いやー全部無駄になっちゃったな!この5年も!」
「私は想定通りでしたわよ?」
「卒業式が終わったら皆揃って絵を描く話も……」
「2年後でいいじゃありませんの」
「その時は子供も一緒だよ」
「あー……まぁその時考えましょう、子供できてないかもしれませんし」
「バンバン生んでやるわ!」
「その言い方はどうなんですの……?」
クスクスと笑ったアーデルはワタクシの後ろにある絵を見つめる。
「まぁ2人の絵はあるしそれ眺めて2年待つわ」
「愛が重いですわ」
「王太子妃になった私の最初の絵よ?いいじゃない」
「明日が終われば飾れませんわよ、断罪された令嬢との絵なんて」
「どうせ客はわらわの方にある絵しか見ないわよ、言われても友人との絵に文句言われる筋合いはないっていってやるわ。嫌な客と会話するときはこの絵を眺めて気を落ち着けるの。さっきのバカ息子とララも気がついてなかったしね」
「やっぱり愛が重いですわね、司法大臣も頭抱えますわね、観察眼もない」
「あるのは強大な自尊心と虚栄心だ、そこらの貴族子息と同じね、令嬢もか……貴族当主もか……」
「ワタクシは一足先に逃げ出しますわ-!」
「わらわも……私も夫を連れて逃げ出したいわ」
あら、素ですわね……。
「2年は持たせてあげる、潰れる前に来てよ」
「英雄は遅れてやってくるものですわ-!」
「多分だけど……皆能力が足りないからコネで入団できるダニエル以外は入省もできないと思う……良識派も王家に愛想を尽かすし、公爵派も堂々と動くだろうね、元婚約者御子息たちの実家は大変だ……辞任に追い込まれるんじゃないかな?全員じゃないけど、少なくとも娘をコケにされたアレクサンダー女伯爵は大変だ、軍務大臣を突き上げ続けるだろう。平民や宰相派は勝ったと思うけど……終わりの始まりね」
「それこそ知ったことではありませんわー!浮気しておいてされた方を糾弾して婚約破棄なんて、婚約破棄が通ったあとの方が大変に決まってるじゃありませんの。おかげで全員の婚約破棄で公爵家として立ち会わずにすみますわ、全部一発で終わるから楽でいいですわね」
「その処理をする私は楽じゃないわよ……今から気が重い、見舞金も出さないと。形ではどうあろうと婚約破棄の原因はこっちだから王家から公爵家にいくら出せばいいのか……財務大臣も責任を問われた挙げ句婚約破棄の金を搾り取られると思うと同情するわ」
「ついでに蛮族にも攻撃されるし泣きっ面に蜂ですわねー!」
「エリー……いや、いいわ好きにしなさい。今の私は王都の民や王家直轄地の民が担当よ、グリンド侯爵家が蛮族に襲われたからなんだってのよ、公爵家も蛮族を独力で撃退してるけど王家は報奨金を出さないしグリンド侯爵家も自力でなんとかするでしょう」
「だから北方が公爵閥なんですのよ、北方組合に固めさせたけどシャーリーに投げておけばもっと早かったかもしれませんわね。ベルク大叔父は能力が足りないみたい。まぁ最低限はできてるからいいとしましょう」
もっとうまくやるかと思ったんですけど北方国家の商圏確立もダメだし、まぁ毛糸製品の仕入れに注力してると言われたら文句も言えませんしね。結局ワタクシが動かざるをえませんでしたし……
「『王宮の陰謀』も2年も読めないのかぁ~数少ない楽しみなのに別の作品も手に入らないだろうし……やっぱグリンド痛めつけていいよ。好きに蛮族と稼いできて」
「半年遅れくらいで入荷するかも知れないですわよ、今回の婚約破棄の話をおもしろおかしく取り入れ書いてくれるでしょう」
「あーあ、王都にいるのに新刊がないとかやってられないわー!ちょうどエリーが2省を燃やした話を面白く書いてるのに、あれ7年前だよ?ネタの金鉱よねエリーは」
「燃やしたのアーデルですわ、まぁベスは作家として素晴らしい技量を持ってますわ、この前の絵本も売れてましたし」
「将来読み聞かせるわ」
王宮御用達で売れますわね、まぁその時は王宮の長はワタクシですけど。元王太子妃御用達でもいいでしょう。
「ハイジの処遇は?」
「解雇でよろしいんじゃなくって?あれ一応司法大臣室のものということになってますし……処罰としては適正でしょう」
「超法規的措置でも使ったの?使えないのに」
「そんなバカじゃありませんわよ、あれは公爵家の原本ですわ。どうせもう使わないのでどうでもいい話ですわ」
「公爵様は知ってるの?」
「知らなくても勝手に判断しますわ、お父様ならそれくらい余裕ですわよ」
「公爵様もかわいそうに」
「こんな賢くてかわいい娘が生まれたら苦労しますものね」
「……そうね」
なんでそんな諦めた顔なのかしら?まぁ王国を王太子と2人で回さなきゃいけないのは大変ですわね、頑張ってくださいまし!蛮族と肉かじりながら応援してますわ!
「あーあ!ヴィリーと結婚して独立するプランだと思ったのにな!」
「ララが側室で行く予定ならそれで行くしかなかったですわね、まさか5人も落とすとは流石に思いませんでしたわ」
「でも途中から煽ったよね?」
「第2王子はぶん殴った判定でいいではありませんの、婚約破棄するために公爵家の情報を集めるなんてぶん殴った準備でいいですけど、何も今まで忠告もしなかったのに違法でもないことを大勢の前で糾弾してきたら殴り飛ばしたことと同じでしょう?そもそも大勢の前じゃなくても違法じゃないことを糾弾してきたらぶん殴ったと認定しますけど。これで明日何事もなく式が終わるようなら私も何もしませんわよ?殴る準備と殴るには大きな差がありますの、殴る準備なんて気がつかれないようにすることであって派手にやってればこちらも殴り返す準備をするってことがわからないのが流石ですわね。でも……殴る準備がバレてる時点で宣戦布告だし公爵家の糾弾材料を探してるのならやはり殴ったことにあたりますわよね?何かを探すと『糾弾材料』を探すのも大きな差があると思いますの。だから本質的にクズだといったでしょう?自分は絶対に殴られないと思っている、でも相手を一方的に殴ってもいいと思っている。バカのボンボンにふさわしい。王族なんて貴族をまとめるための旗頭程度に過ぎない。まとめるために裁定を下すのであって旗頭自体が飛躍するために裁定を曲げていれば貴族は別の旗頭にするだけ、それがあのバカ親子はわかっていないですわ」
「夫を一緒にしないでくれる?」
怖っ!
「ええ、申し訳ないですわ。ワタクシ蛮族と接してきて思ったんですの。本質的に貴族制度なんてこれと変わんないって。でも蛮族の長がケチで部下からの金を自分のためだけに吸い上げたり、戦争で戦って恩賞を出さなかったり、有力な人間を自分を脅かすって殺してたり失脚させ続けたらどうなると思います?」
「まぁ……内部か外的かどちらにせよ滅ぶね」
「ね、同じでしょう?」
「王国でそこまでやれるのはエリーくらいよ」
「規模をデカくすると人はすぐに間違えますわ、これが小さな街の代官職だったら?街から金を吸い上げ贅沢するだけで部下の給料をカットして優秀な人間を飼い殺す、もしくは文句をつけて手打ちにする」
「でていけばいいじゃない、訴えればいいじゃない」
「どこに?」
「どこにって……王宮とか別の街とか」
「代官がやめさせてくれますの?逃げたら追ってきますし自分の犯罪を押し付けて氏名手配しますわよ、平民だったら王宮にツテもないしどこで訴えるかわかりませんわよ、そもそも他の貴族や自分よりいい暮らししてる人間を信用できるかどうか……そもそも平民にそこまで移動するお金はないでしょう、そんな街で働いていたのだから、それに王宮の貴族が聞く耳を持つか,その領地の関係者かもしれない」
「そこまでひどいことは……」
「これ蛮族と同じですわよ?蛮族なら滅んで貴族の代官なら逃げ道があるのはなぜですの?なんなら蛮族のほうが逃げて他の蛮族に逃げ込めるだけマシですわね」
「……」
「あら、納得いかないのね、じゃあこの代官のいる男爵領は男爵領のまま独立国家、その場合は?」
「滅ぶわね」
「ほら同じじゃありませんの」
「国家の一部と国家そのものでは違うわよ」
「同じですわ、隣の代官を見てこうすればバレずに私腹を肥やせると思えば隣は必ずしますわ、貴族なんて蛮族が爵位を持っただけのもの、決闘で下って服従するだけ裏切らない蛮族のほうがマシですわ、貴族はすぐに裏切るし罠に掛けるし足を引っ張るし責任を押し付ける。正直貴族より蛮族のほうに親しみを感じますわ」
「まぁ価値観蛮族よりだもんね」
「違いますわよ!?」
まともな貴族で淑女ですわよ!私ほど貴族という欺瞞をおとぎ話の立派な貴族のように堅実に守っている人間は王国に30人もいまいと自負してますわよ!
「貴族の大半は部下と家族を食わせてなんとかする蛮族やゴロツキで出来てることすらできない人間が多すぎますわ、領民を金のなる木だと思って搾り取るだけの能無し貴族の多いこと……特に領地持ちで領地に帰らず仕事を投げる官僚貴族」
「それは否定しないけど……」
「昔から何度もいったじゃありませんの。平民たちがこんなに苦しいのならいっそ領主を殺そうと思った時、それが伝播した時、自分たちでも束にさえなれば貴族は殺せるし死ぬと思った時、領軍が呼応した時、王家に怒りが向いた時、隣国で美談として伝わった時、この大陸は戦乱が満ち溢れることになりますわ。起点はこの国か、それとも他の何処か……」
「そんな大事になるとはやっぱり思えないわ、外務大臣の娘としての意見だけど」
「貴族は領地を守り民を守るもの、ゴロツキの集団と同じで縄張りにいるやつを守り食わせていくもの、縄張りにいて仲のいいやつだけ食わせて働かせるゴロツキは背中から刺されて終わりですわ。取り巻きが多いからやらないだけ、取り巻きより搾取される側が多くなれば、殺せる確信を持てば必ず殺す。貴族だってメンツを傷つけられたら同じことするでしょう?平民たちだってやりますわよ、ただ貴族と違ってメンツじゃなくて命がかかったときですけどね。そこまでやる時点でもはや統治者不適格ですわ……事が起これば呼応するでしょう。でも平民反乱に呼応するするのは駄目、それを討伐しに来た王国軍か敵国でなければ……自分たちでも出来ると思わせては駄目、絶対に駄目ですわー!」
「あなたは何を恐れているのエリー?」
「この5年間、マッセマー商会のシャーリーの支店で店長をやってましたわ……買い付けに行くこともありましたわ」
「学校に来てない日って女官だけじゃなくそんなことしてたのね……店番だけだと思ってたわ」
「見立てでは5年以内おそらく4年……3年かも……何処かが爆発しますわ、買い付けに行ってもどの村も寂れている、税金を取るだけで不作の対策もしなければ減税もしない、売れる品の税金はあげている。王家の税制に統治貴族の領法でボロボロの街がありましたわ。まだ我慢できる、でもまだでしかない……この国よりひどい統治をしている国を見るのではなく、この国の法に触れないギリギリを責める貴族の数を見なければ……終わわりますわよ?私は蛮族と一緒に国民の国家が内ゲバをし続け息が切れるその時まで引きこもるしかない、もう少し時間があると思いましたわ……私は……ワタクシは大陸を統べますわ!せめて北方2国を落として、あの国に母国を滅ぼして欲しいと平民に思わせることができれば……仮におきた平民反乱が我が国に併合を申し入れるような国家に見せることができれば……最悪の事態は防げますわー!」
そして、その時こそ……!
「ワタクシこそがトップに立つのですわー!」
血で血を洗う国民反乱だけは絶対に起こさせない!国民皆兵も、国民国家もこの大陸には早すぎる!国民反乱を制圧しても深い遺恨が残り、負ければ貴族や知識階級、乱を起こした平民たちより裕福そうな人間がほとんど処刑されるでしょう。
人はワタクシを含めて愚かなものですから
平民の教育をして知識を底上げしなければ権利を求めた平民が愚民国家作り上げる!この5年で確信しましたわ。
ワタクシが大陸をすべて平和を作り上げることは昔から変わらない。蛮族も手を取り国民化させエリーゼ帝国を作りあげる。
そこに大陸の破滅を防ぐことが一つ加わるくらいは大したことはありませんわー!
「私はそこまでの話になるとはとても思えないんだけど」
「せっかく学院で平民のリーゼロッテになりすましてたんだから、王都に逃げてきた平民の話を聞くべきでしたわね、この5年でだいぶひどくなってますわよ、ゲーリング子爵なんてかわいいもんでしたわ」
「王太子の儀へ向かう道で重税反乱が起きるくらいだしね」
「あれがそもそもおかしいんですわよ、あの時点で限界が見えていることに気がつけば……」
「……その話って皆にしたの?」
「アーデルが最初ですわ。でも皆も平民たちと接してうすうす感づいてますわ……断罪後にワタクシの考えを伝えようと思いますの」
「もしかして……」
「ええ、エリーゼ帝国がサミュエル王国を攻撃する時にまともな貴族と貧乏貴族が呼応するでしょう。そしてそれに合流する重税を課せられていた平民をコントロール下に置く。これで王国の国民反乱は止められますわ」
「2年待つのは私だけじゃないのね」
「だからワタクシたちに失敗は許されませんわ、5年も前ならもっと気楽だったんですけどね、少なくとも北方2国を落とせばゲームセットですわね。あとは気楽にワタクシが大陸を統べますわー!」
「2国落とした時点でゲームセットなんてそう聞かないよ」
「実際食料生産が一番多い北方2国を落とせば終わりですわ、ワタクシ達が負ける訳ありませんもの」
「民衆を新聞で制御すればよかったんじゃない?」
「あれは王都や大きな街くらいしか制御できませんわ、それこそララの故郷では新聞を見たことがないそうですわ、この前話しましたけどね」
「えっ新聞もないの?」
「ララの村は特別貧乏でもありませんわ、そういうことですわ」
「……そりゃ……平民たちからしたら今の状況が悪政かどうかもわかんないってことか」
「だからまずいんですのよ、それを知った時、今まで自分を苦境に追い込み、苦境を無視していた相手にどう出るか」
「まぁそれなら私ならぶん殴るね!」
「ワタクシもですわ!」
ただでさえ終わってる王国が大陸崩壊の引き金に指をかけてるなんて笑えませんわ!
ぶっちゃけ濁したけどこの国が起点になる可能性が一番高いんですわ!アーデルを死なせるわけにはいきませんのよ!
「じゃあ大陸を救うために戦うんだね」
「救う?」
「えぇ……?」
「別に救うなんて傲慢なことは思ってませんわ、ワタクシが暮らしにくいのが嫌だからぶち壊したいだけですわー!」
「じゃあ大層なこと言うなよ!今までの時間返してよ!」
「実際起こり得る、起こるからですわ。王宮で夫と一緒に平民に殺されて辱められたくないでしょう?」
「はぁ、流石に逃げるよ」
「王太子殿下が逃げないでしょ、国王と第2王子は捲土重来とか言って逃げそうですけど」
「……」
「ワタクシが大陸統べれば万事解決!12年越しの計画も叶って万事解決感謝感激雨あられですわー!そもそもワタクシのゴールはあなたと出会ったときから一切ぶれていませんわ!たまたまやることと目的が増えても到着点は同じ、何の問題もありませんわー!」
「結局それなんだね、いや……エリーらしいよ!」
「あったりまえですわー!エリーゼ帝国は貴族制度も改変して平民の教育もして悪政の報告をさせるために新秩序も作りますわー!こうご期待ですわー!」
「期待しないで待っとくよ」
「こうご期待ですわー!」
「わかった、わかった!期待しておくよ!将来は公爵だしね」
「エリーゼ帝国公爵として働きに期待しますわー!」
「結局私が働くんだね……」
「も!も!ですわ!」
「わかった、わかったよ、働くよ。潰れかけの国を支えて、降伏後もできたての国を支えるのか、面倒くさいね」
「ええ、必ず……アーデルを救って差し上げますわー!」
積もる話はあれどもう2年は合わなくなるだろう親友と分かれる時が来た。
明日は馬鹿げた断罪が始まるから家から向かう必要がある、横着して王宮から向かえない。
「王太子殿下がいらっしゃいました」
「ええ、整えるから待って……」
「帰りますわワタクシは!……では私は下がります、王太子妃殿下」
「……えぇ」
かつらを被り服装を整え、アーデルの支度を手伝う。
「よろしいかと」
「通して」
「やぁ、アーデル、ハイジ女官」
「フリッツ !どうしたの?」
「ごきげんよう王太子殿下」
「いや、別れの挨拶は終わったかなって」
「「……」」
「あれ、まだだったかな?ごめんね」
こういう飄々として自由なとこ嫌ですわねぇ、なんか自分がトップ感がありますわ、トップか……。
「うーん、まぁいいや……やってないなら今やっちゃおう、それとも今日は泊まり?」
「いいえ、それはありません」
「いっそ泊まってたら?」
「明日に差し障りがあるので」
「どうせくだらない三文芝居だよ、これで平民が落ち着いてくれるといいんだけどね」
「……さてなんのことだか」
「思えばエリーには苦労のかけっぱなしだったからね、2年は抑えておくからさ、いい終わり方にしてよ」
「私はハイジです王太子殿下」
「ああ、そうだっけ。でも誰も聞いてないからいいじゃないか」
「それと苦労している方がお怒りです」
「フリッツ?」
「ああ、ハイジ女官とりなしてくれないかな?」
「耳元で愛を囁いてください。それでは私は下がります」
「あっ、ちょっと待って……エリー!…………また会いましょう!」
「……2年後にお会いしましょう」
こうして学院在籍時のワタクシとアーデルの最後の親睦会は終わりをお迎えた。
「そういえば僕が来るとなんでエリーってすぐ帰るの?2人で会う時も断られるし、僕一人なら会うんだけど……大勢で会う時以外は2人でいるときは絶対来ないよね、昔は来てたけど」
「…………なんででしょうね!」
「気を使われてるのかなぁ?今更なのに……僕も幼馴染みたいなものだと思うんだけど……」
「そんなことより……ねぇ、フリッツ。本当に平民反乱が起きたら終わるの?起こるの?」
「うん、5年以内だと思ってたけど……エリーが言うなら本当に2年は持つんだろうね、でも負担になる貴族は減らさないといけないね。婚約破棄で勝馬に乗れたと思う貴族を処断して負担を減らしてあげよう」
「……エリーに優しいですね!」
「そりゃ君と婚約するときに一番骨を折ってくれたからね」
「そうなの?」
「ああもちろん、辞退したら面倒だから兎に角貴族たちに君を推薦させていたよ」
「あの娘、やさしいのよ」
「知ってる。だから断罪後は骨を折ってあげよう。王国の救世主になるからね」
「わらわの大切な親友」
「この絵を見れば分かるよ」
「1週間も会わない日はなかったし寂しいなぁ……」
「僕がいるよ?」
「愛する夫と親友は別なの性別も違うし」
「彼女が男だったら最大のライバルだったね」
「その場合はエリーが圧勝かなぁ」
「…………男として頑張るよ!」
「ありがとう!頑張って!」
男としてのプライドが傷ついた王太子はこの後、頑張ってアーデルにアピールすることになった。
「そういえば深い会話って学院のお茶会でしなかったの?」
「言ったでしょ?皆も優しいのよ、公務で疲れて友人に会いに来てるわら……私に気が重くなる話なんてするわけがないもの」
「……夫として頑張るよ!」
「明日から、頼むわね!」
最後の夜は終わりを告げ、アーデルとエリーはこうして別れた。
2人が再開するのは2年後のこと。
宣言通り親友とその夫を救うために蛮族の王が舞い戻ってくる。
エリー「民衆が革命を起こすのを阻止するにはどうするべきか」
アーデル「良い政治を……」
エリー「そう!ワタクシが革命を起こしてひっくり返すのですわー!」
アーデル「(やっぱ頭エリーだな、このエリー)」
~おまけ~
エリック「俺様はエリック・ライヒベルク!女ぁ!俺様好みじゃないか!婚約者になれ!」
アーデルハイド「えぇ……でも……」
第1王子「(アーデルハイドがあんなやつに落ちるものか)」
1ヶ月後
エリック「さすがは僕の婚約者だアーデル……この大陸全部上げるね……」
アーデル「はいあーん、遠乗りいきましょうね……大陸すべてを……」
第1王子「僕のほうが先に好きだったのに……こんなのNTRじゃないか……」
第2王子「(僕のほうが先に好きだったのに……こんなのNTRじゃないか……)」
宰相「侯爵令嬢懐柔してあの公爵子息を止めなきゃ……」
公爵「乗り気なのは婚約者の侯爵令嬢の方だぞ、なんとかしろ宰相」
宰相「!!!」




