本家本元のゲルラッハ伯爵様ー!分家の相談ですわー!
「決まりですわね、司法大臣暗殺未遂のことを調べていただけるのかしら?」
「さてね、俺には判りかねる……証拠は渡してないんだろう?」
「はい、まだ……どういうことでしょうか?」
「いいえ、なんでもないですの、証拠は渡さずにこっちでも調査を続けたほうがいいと思いますわ、ねぇジーナ?」
「うん、証拠を求めてきたら捜査経過を聞いて、俺が確認したら証拠を渡すように徹底させて、司法大事の権限で警察を挟まず検察にも頼り切らず調査する。司法大臣特権だよ、可能だね?」
「もちろんです。司法大臣は独自の調査機関を持って事件を調査することが可能ですし、検察警察から資料を押収……提供させることも可能です。悪用されると面倒ですが自分の暗殺未遂ですので……ただ、やはり大きく動くと新聞にすっぱ抜かれたり犯人側が証拠の処分に集中してしまうかもしれませんが……」
「あら、心配無用でしてよ……マッセナ・ゲルラッハ伯爵はいま司法省にいらっしゃるかしら?」
「最高裁判所長官ですか?おそらくこの階の奥の長官室にいらっしゃるかと」
「検察は何処でしたっけ?」
「一つ下の階です、長官室の真下です」
「アウストリ・ゲルラッハ伯爵もですか?」
「アウストリ・ゲルラッハ伯爵ですか?検察次長検事の?先程はいませんでした」
「シュテッチ子爵はいらっしゃいましたか?」
「検事総長はいらっしゃいました、立件のために少し話しました」
「あら、そうでしたの……この仮省庁の司法省ってその2階部分だけですわよね?3,4階……5階から7階は内務省ですわよね?」
「ええ、1,2階が軍務省です。と言っても主要な部だけですが……」
「内務大臣のお部屋は何処かしら?」
「公爵ですか?この真上です」
あら、お父様のことだから最上階に陣取ってると思いましたわ。話が早いですわね……。
この階から直接部屋に行けるかしら……?うーん……降りるのはできそうですけど昇るのはスカートだとちょっと嫌ですわねぇ…。
仕方ありませんわ、順序を変えるとしましょう。
「最高裁判所長官のところへ行ってきますわ、本家本元のゲルラッハ伯爵のところへ」
「うん、任せる。報告はいいよ、多分やることいっぱいあるだろうし」
「失礼いたします、ライヒベルク公爵息女のエリーゼです。ゲルラッハ伯爵においてはご機嫌麗しゅう存じます」
「ゲルラッハ伯爵、マッセナです。いかが致しましたか?学校内であったことなら娘のことなので私に礼は不要ですが」
「いえいえ、この手のことは親の育て方も良かったというべきかと思いまして、特に論破された相手を見ればなおのこと」
「前大臣は優秀な方でした、子どもの教育を間違ったと言うよりは元がよろしからずと言ったところでしょう、ですから義娘に後を継がせようとしてましたし……実際前の大臣と比べるのは偉大すぎてよろしくありませんが優秀な方です」
「それを聞けばスペンサー大臣も喜ぶでしょう」
「さて、要件がそれだけならここで終わりなのですが……」
「ええ、これも大事な要件でしてたが……分家のゲルラッハ伯爵が先日の事件に関わっていることが確定いたしました」
「ほう、あの身の程知らずのお情け伯爵ですかな?」
あら?本当に仲が悪いのは確かみたいですわね?目が喜んでますわ。たまにパーティーで見るスケベな貴族みたいな目ですわね。
「ええ、司法大臣を暗殺しようとするだなんて身の程知らず……伯爵という地位はやはり重かったようですわね、先代で陞爵なさったのに当代は特に特筆した功績もありませんし」
「ええ、子爵が関の山だったのに何を思ったか先代から検察のほうが上だといい出し始めたのですから、先代ほどの業績があれば私も彼に比べると下でしょうが」
「ご謙遜を、先代ゲルラッハ子爵……いいえ伯爵は王家に責あらば追求するほどの方でした、司法に携わるものは相手が誰であっても追求する必要がある中でも先代国王を機密漏洩で立件したのはあの方くらいでしょう。それに比べて当代のゲルラッハ『子爵』は王家に追従して超法規的措置を有耶無耶な裁判で潰した挙げ句に再調査をする司法大臣暗殺未遂、先代も墓から絶縁したいでしょう」
「そうでしょうな、本家に対して上から目線でああだこうだと言う割に何も実績はない、王の信任を得ているの一つ覚えだ」
「王の信任を得ても民の信任を失っているのですけどね」
「いや、誠にその通りです、あのような国家の癌のような家は断絶するべきだと思っているのですよ」
まぁ本当に国家の癌は王家なんですけども。
「ええ、未遂とはいえ大臣暗殺の主犯の家は残してはいけませんからね、一族、もちろん分家だけですが罪なきものが裁かれてはいけません……誰か罪がないものは覚えがあるでしょうか?」
「いえ、存じません」
分家のゲルラッハ伯爵家は誰も助けなくていいみたいですわね、じゃあ遠慮なくやらせていただきますわー!
「そうすると検察次長検事のポストに誰をいれるか悩みますね、お父様にも相談したいのですが……ロゼリーさんは裁判所の職につくことを考えてますか?」
「いや、どうでしたかね……」
考えてますわね、本家ゲルラッハで分家のポストも奪い取るかどうか。
娘にその才があるかどうか。
能力の実績もなしに検察次長検事にいきなりなることはできないとはいえどうするか、誰をいれるか、逆を言えば別のことでも実績があればいいんですけど。
「娘には過ぎたることだとは思います、ですが検察次長検事にふさわしい方がいたらゲルラッハ伯爵家は後援と推薦をするでしょう。公爵家の次にですが」
「心強いですわ、さすが『本当』にして『唯一の』ゲルラッハ伯爵ですね」
「いやぁ、先代が生きていたら逆になっていたかもしれませんね」
「いえいえ、そうしたらそもそもこんなことにはなっていませんから、先祖の家名を汚すことの恐ろしさを知らない『子爵』は先代ならどうしたかをわかっていなかった、やはりふさわしくはなかった、伯爵ではなく貴族に」
「ええまったく、貴族にふさわしくありませんね。では私は裁判を固める作業に入ります」
「ええ、ありがとうございます。私はこれからロゼリーさんとエロイーズさんとお茶会をしてこようかと」
「娘とシュテッチ子爵のご令嬢ですか?ではお茶菓子は私が用意させましょう、学院ですか?公爵家ですか?」
「公爵家で開こうかと」
「では直ちに準備に入ります」
ウッキウッキですわね!そんなにムカついてたのかしら?本家と同格の爵位の時点で嫌でしょうけど、多分先代なら仕方ないは本音ですわね。
だから当代が先代の遺産を引き継いだだけでで偉そうなのが腹が立つんでしょう、挙げ句まともに仕事ができていない。
ただの検察官が王家に屈するならともかく国王を機密漏洩で立件するような暴挙が評価されて陞爵した人物の息子が王家の暴挙に阿り、有耶無耶にするなんて呆れ果てたのでしょう。
まぁ遅かれ早かれ消す予定でしたしどっちでもいいですわね、さて、3人にお茶会の誘いを出して……。
帰り際にちらっとジーナのいる司法大臣執務室を見る、するとジーナは目があった瞬間にスケッチブックの『(*๓´╰╯`๓)♡』を『(ノꐦ ⊙曲ఠ)ノ彡┻━┻』に変えた。
だからなんなんですの!そのスケッチブックの絵は!
ジーナ「(会話の邪魔されないように変なやつにしておくか)」
エリー「(なんですのあれ、まぁ帰りますけど……)」
ジーナ「(帰るのか、戻すか)」




