結局そのスケッチブックなんですの?
空き時間のジーナ「……(カリカリ)」
いませんわー!それっぽいのがいませんわー!まずいですわ!まずいですわ!
このままじゃ普段はそれっぽく偉そうにしてるのに中身空っぽで出遅れた挙げ句に何の成果もえられませんでした令嬢になってしまいますわ!
シャリーでいうところのもうアカン!ってやつですわ!民事局は完全にシロ!関係ないけど犯罪を起こしてたのは適当にジーナに上げておきましたけど全く関係ないですわね……。
貴族局も出遅れてそのまま洗いましたけどクラウほどの成果はないですわね……次のお茶会でめっちゃバカにされますわ!皆が鬼の首取ったように駄目だししてくるのが見えますわ!
落ち着きますのよ、ワタクシは淑女!可憐で瀟洒で勝者になる淑女。
デストラン男爵が寝返ってる可能性はない、一応捜査しましたけどありえませんわね、精力的に司法大臣暗殺未遂の調査をしてますわ。
警備課、民事局、貴族局のうち2つはない、警備課はクラウの手の内。今から調べても意味はないし無駄に対立を煽る可能性がありますわね。
そもそもクラウが気がつかない時点でこちらは把握できないでしょう。
デストラン男爵は本当にこの3つだけにしか聞いておりませんの?
いちばん大事なことは話を聞かれていた可能性、貴族局は当日出かけた人間は数人、その方たちはデストラン男爵が来たときには出かけていたからありえない。
民事局は誰も職務中外出していない。トイレでやり取りでもしてたらどうにもできませんけど。
そもそもデストラン男爵って何の聞き込みしてましたっけ?
「と、言うわけで来ましたわ」
「気軽に司法大臣執務室に来る?」
「仕事中は普通の声量ですのね?」
「そりゃ仕事だからね」
スケッチブックに書いてある『o(*^▽^*)o』を『(ʘ言ʘ╬)』に変えて……いやこれなんですの?
「これなんですの?」
「いいでしょ別に……何のよう?」
「事件が解決したから来た可能性もあるのにひどい言い草ですわね……」
「解決してたら直接来ないでしょ?で?何が聞きたいの?それが目当てでしょ」
「無くなった資料のことはわからないですのよね?デストラン男爵ってその資料のことどう聞き回ってたんですの?」
「ああ、司法大臣室の資料の紛失の目撃情報だよ。誰か見なかったか、大勢こなかったかって話」
「司法大臣が直接管理してる資料って元は何処にあったんですの?」
「当主直々に説明の手紙と書類がきたり検察から上がったやつ、大体貴族関係」
「検察は持ってませんの?」
「大臣が求めたら全部提出する決まりだからね、信頼されてないなら複製位は持ってるだろうけど……」
「信頼できる司法大臣だからあの事件前にわざわざ複製は作ってないってことですわね」
「そう」
ふーん、きな臭い気はしますけどジーナもそれには気がついてる。検察が王家に関係してるのは腐敗そのものですし……。
「デストラン男爵は?」
「検察、暗殺未遂犯の立件のために。そろそろ戻ってくるよ」
「ふぅん……」
じゃ、待ちましょうか。
「あの……」
なんかやたらとビビってるデストラン男爵が戻って来て報告したくてもしづらし感じを醸し出していますわ。
スケッチブックの『(ʘ言ʘ╬)』を『o(*^▽^*)o』に変えたと思ったらなんか急に安心してますわね、本当にこれなんですの?
「ご苦労さま、それでどうだった?」
「はい、立件に向けて調査すると」
「確約は取れなかったんですのね、ふーん……」
「司法大臣直々にすることもできますが、暗殺未遂の被害者ですから……大事になると逃げられるかも……」
「ふぅん……そういえば事件当日ですけど」
「な、なんでしょう……ライヒベルク公爵令嬢……」
「警備課に行く前に検察によりませんでした?まぁその後でもいいですけど」
「ええ、停滞していた分の書類を検察側に渡しました……警察側の資料とすり合わせて大臣名で出すものがあったので」
「司法大臣執務室資料の紛失に関しては尋ねました?」
「いいえ、紛失発覚時に検察側に資料が残ってるかの確認をしたので……」
「ちなみにその日提出したものはなんでした?」
「貴族局があげた各貴族の不正の証拠です、超法規的措置のときに何人かの貴族が捕まり芋づる式に逮捕されたので」
「ちなみに容疑は?」
「その日持っていったのは収賄です。いわゆる付け届けですね、元検察の貴族で……」
「なるほど……ジーナ?わかりましたわね?」
「…………うん」
掴みましたわ!口だけ無能令嬢になるとこでしたわ!危ないとこでしたわね!
「ジーナ?マッセマー商会の付け届け、どこに?(小声)」
「貴族局、検察(小声)」
貴族局は直接的にですから閑職とはいえませんわねぇ……。
でももう一つはたしかに閑職ですわねぇ……検察に付け届けしたところで司法大臣が動いたら立件を止めててても起訴されて終わりで無意味。
ですけども、自分が……商会が巻き込まれた際に加害者を直ちに裁くには必須ですわね。マッセマー商会が省庁の備品納入担当であること、その中に警察も入ってるのは周知の事実。
犯人を逮捕する警察のほうが重要だからそちらがしっかりやってくれれば検察が働けば終わり。
でも、損失関係だと困りますわよね?加害者が明らかな裁判なら検察側にとっとと立件してもらって勝った後で損害賠償をしたほうがスムーズですもの。もう司法が彼を犯罪者だと認めてるから後は支払う金額にどれだけ上乗せできるかの話。
勝てる裁判だから損失による支払いを少し待ってくれともいえますしね、そこまで損失が出る相手なんて貴族か同じ商人、絶対にぶんどれますしそれくらいは待ちますわ、損失補填に上乗せしてくれるでしょうし。
検察への付け届けはいわばわずかな短縮ルート、もしくはバフですわね。大抵は考えても閑職、でも検察が活躍する大きな事件に巻き込まれたときは一番活躍する担当者ですわね。
検察は付け届けの事実を知って自分たちがジーナに潰されると思った、と言う建前。実際の紛失した司法大臣資料はその付け届けに関するもの、つまり認められていた。それを紛失していることは検察側には致命的ではなく別に再度伝えるか、追求された場合紛失した資料はそれだといえばいいだけの話。
だって司法大臣室の資料なんて把握してないんですもの。
確かにクラウも覚えてないでしょうね、こんな何処にでもあるような一定は黙認される事をわざわざ文書にしてたみたいな内容は。一部とはいえ知ってることのほうがすごいと思いますけど。
検察側がこれで動くのは理由がありますわ、動かなくていいのに動く理由。
それは間違いなく、超法規的措置の関連。
もし失敗したときのため司法大臣室の資料紛失を口に出しそちらに注力させたかった。まぁ下っ端は把握してなかったでしょうが。
つまり、検察のトップのシュテッチ検事総長はない、ジーナが生き延びようと死のうと何を直前に調べていたかは知っている。もし死ぬことがあったらマッセマー商会も付け届けのことで尋ねられる、生きていたらそのうち付け届け関連ではないかとたどり着く。だからどうあがいても良くて引責辞任に追い込まれる、もしくは死刑かジーナの家が必死に殺しに来る。ワタクシたちもね。辞任か死刑か私刑か、よくばりセットですわね。
検察で王家寄りの人間は十人たらず、その中でもっとも怪しいもの。
ノーマン・モンタギューの立件を担当した次長検事、アウストリ・ゲルラッハ伯爵。本家である王国最高裁判所長官マッセナ・ゲルラッハ伯爵と不仲な成り上がり分家。
どうやらこれで本当に無能令嬢とからかわれずにすみますわね。
エリー「活躍しないと……頑張らないと……」




