あら?掃除の時間ですわね
「案外あっさり尻尾を出しましたわね?」
「今後の指標が転がった台車の中の書類で全部文章化されてた、ジーナの推測どおりだな」
「では、結局掃除担当者と?」
「ああ、下っ端掃除婦だった。尋問で吐かせたが掃除課全体がその手の組織だったようだな」
「そんなの小説でしか見たことないっす」
「バカに質が悪いですわね?少なくとも昔はまともだったのでしょう?それとも最近作ったのかしら」
「前任者が皆消えたらしい」
あら?不思議ですわね?愚王が八つ当たりで殺したのかしら?
「辞めたらしい」
「そんな闇の組織が簡単に辞められますの!?」
「ガバガバすぎやろ!ふざけとんのか!」
「第1王子の死亡後に引き継ぎがなされてなかったようだ、そもそも暗殺はあまり担当してる業務ではなかったようだしな」
「意外と……幅広い仕事してる……?」
ちょっとよくわからないですわね……国王直属ではありませんの?それとももう引き継いでいましたの?
「もともとあの組織は貴族的なご配慮を担当してるようだ、連中はご配慮がなにかわかってないみたいだったが……」
「要は……折衝や……王家が配慮したい相手に道筋を作るって……仕事……」
「『王宮の陰謀~第1王子は宰相の息子~』にもそんな仕事がありましたわね、あの話では侍従の……」
「小説の話はいいだろう、とにかく裏で交渉やら何やらする組織が雑な暗殺組織になっていたというわけだ」
「どうしてまたそんなに変質したのです?」
「上が抜けて、下っ端が上について、適当に下っ端を入れた。それで国王に裏組織ですけど新しい仕事はありますかと伝えに言ったそうだ。それで短絡的に暗殺組織にでもしたのだろう、まぁ……新生掃除課の最初の仕事は内務大臣の弱みを握ることだったそうだがうまくいかなかった、これが決め手だろう」
「つまり……前任の仕事を見てお父様失脚のために色々やらせたら頭脳担当がいないからしくじりまくってもう殺しでもやらせておこうと?」
「で、下っ端にごろつきを入れたってことか?」
「公爵様は……前の組織でも……弱みは握れないと思う……」
「まぁお父様ですからね、きっと問題はなかったでしょう」
それにしても不思議な組織ですわね、折衝程度ならそれこそ第1王子の教育係の貴族でもいいし、第1王子侍従長でも良かったはずですし……?
愚王も把握してなかったのかしら?うーん謎ですわね。
「もともと王家直属でしたのよね?」
「多分それはないと思うっす」
「ええ、捕らえた自称古株も第1王子時代からでそれ以前のものがいませんでした、マーグが個人邸に捕らえに行きましたが……150人はいますからね、バルカレス騎士団長が乗り気で王宮の管理課を制圧に向かいました」
「ワタクシより早く王宮に兵を向けましたわね……騎士団長はなかなか愉快なお人ですわね」
「バルカレス騎士団長もその評価を聞いたら泣くでしょう」
ワタクシと同じだなんて歓喜の涙を流すでしょうね、それにしてもクラウがあっさりないと言ったのは不思議ですわね?
「クラウ?あの連中は王家直属でしたのよね?」
「そうっす、現時点では間違いなくそうっす」
「その前は第1王子の組織だったの?」
「おそらくって感じっすね、少なくとも私は聞いてないっす」
クラウが聞いてない……?ということは……。
「諜報関係に話が通っていなかった組織?」
「そうっす」
「第1王子の独断組織?可能か不可能かでいえばどうですの?キャス」
「可能です。元を考えれば貴族との外付け交渉部門のようなもののようですし、わざわざ報告する義務もありません、我が家で設立しても王家には報告しないでしょう」
「辞めた方々はどちらへ行ったのでしょう?」
「流石にまだ……リストを押収したらクラウ、頼めるか?」
「お任せっす!」
あの組織を束ねていたのは誰ですの?第1王子?いや一応は組織のトップがいるはず、誰が掃除課を押さえていたかを把握しないと、辞めた人間が別組織で根を張ってる可能性があるはず、誰ですの?
「国家施設の掃除課は王宮の管理課の管轄ではない」
「ベス?そうでしたっけ?」
「正確には王宮ではないから……もっとも……今だと担当者不在で有耶無耶になっている……その前は……?」
1年以上前の担当者って誰でしたっけ?たしか今は宰相の派閥にいた誰かだった気が……。流石にそのへんの情報は使い道がないから知りませんわねぇ……。
「そうですね、担当してた男爵は横領で死刑になったはずです、超法規的措置事件の裁判の数日前に判決が出たはずです」
「国家施設の運用責任者……?愚王以外で……?えーと……」
「王太子殿下やろ」
「それはそうでしょうけど……あの時点では第1王子でしたけど仕事を息子に投げていたのは百も承知。でもフリードリヒ殿下が自らそんな差配をしてるとは……」
「建前上はそうだけど……実務は第1王子侍従長……その中に国家施設の管理差配がある……」
「そうですの?」
「アーデルハイドが……言ってたから……」
ワタクシにはいってませんでしたわね……言われても興味ないから忘れたかもしれませんけど……。
なんだか本当に『王宮の陰謀』と同じですわね?あれも侍従が王家の組織を……まさか小説と同じってわけではないでしょうけど。
「『王宮の陰謀』と同じってことですの?」
「エリー……なんでも小説と同じだなんて……アンの考える高望みした婚約者みたいな夢見ないでください」
「どういうことだ!」
「そう言うことっす」
「王宮では……よくあること……気にしなくていい……」
「そういえば第1王子侍従長や侍従たちはどうしましたの?ワタクシあんまり見たことないんですの」
「ああ、アーデルハイドが会わせないようにしてたぞ」
「そういえば会わせないようにしてましたね」
「なんでですの!」
「アーデルハイドに聞いてくれ……」
ワタクシに会わせないなんて一体どういうことですの!別に会いたくないけどそれは失礼ではありませんこと!アーデルハイド!
「仕事が……増えるから……かわいそうだって……」
「「「「あぁ……」」」」
「?」
ワタクシに会うと仕事が増える?なんでそんな事が……?
そもそも内定した頃もそんなにあった記憶がないんですけど、ワタクシが第1王子と一緒にいるときは避けてたのもありますけど。
「皆様は第1王子侍従長にあったことがあるんですの?」
「アーデルハイドと会うときはよく同席してたで、第1王子殿下から付けられたみたいやけど」
「私の時もいたな、紹介された」
「よく……話した……」
「普通のお爺ちゃんだったっす」
「そういえばベスはアーデルハイドとよく会ってたな、内定後はエリーのほうが会ってないんじゃないか?」
「第1王子と2人で会うと言われたときは断ってましたの、見せつけてきてげんなりするから、それに忙しそうでしたから」
「婚約者闘いに負けただけあって、負け犬の遠吠えみたいやな」
「いや、あなた達あれ見て何も思いませんでしたの?」
「いや、フリードリヒ殿下は普通に椅子に座って相槌を打ったり質問してくるぐらいだったぞ?」
「え、アーデルハイドがお茶を飲ませてあげてたり、ケーキをあーんさせたり、手を数珠つなぎして体よりかからせてボディタッチしまくって惚気話ばっかしてきましたわよね?」
「「「「「ない」」」」」
なんでワタクシだけそんなものを見せつけられましたの!?ワタクシが何をしたっていうんですの!
第1王子「あーん」
アーデルハイド「あーん」
エリー「なんで1時間もこんな物見せられなきゃいけないんですの……?」




