頭を垂れるのですわ!
子の責任は親が取る、立派な言葉だと思いますわ。
その逆も然り、親の責任は子が取る。覚えがありますわよね?…………ない?おかしいですわね?
ほら、フリードリヒ殿下ですわ、親の責任を取るためにあれだけ働いてああいう最後を迎えてしまったではありませんの。
別にあれが過労とか疲労の事故死といいたいわけではありませんわ、そんな訳ありませんもの。ワタクシが言いたいのはあれだけ息子に尻拭いをさせたのに今度は第2王子の尻拭いはしても責任を取るどころか責任はないが何だ!?という態度をとることが親としてはひどいと思いますわね。責任も取ってないんですもの。
フリードリヒ殿下が生きていたら同じことしても本当に大丈夫だったか気になるところですわ。
それに比べたら大したことはないでしょう。責任というものは何にせよ取るもの。前司法大臣も息子の責任を……いやあれは違いますわね。どちらかといえば司法の責任を取ったのではないかしら?あとは上司として部下を守りきれなかった責任でしょうね。
ここまで話してきましたけど別に親の責任を子供が取る必要もなければ子の責任も親が取る必要も別になくてもいいと思うんですの。
だってあんな暴挙の責任をどう取るのかしら?
子供が人を殺した、川に突き落とした、刃物で刺した、5歳ならまぁ親が責任を取る必要があると思いますわ、でもこれが30歳だったら親が責められるべきだと思いますか?
そうですわね、私もないと思いますわ。
それに比べたら責任を取ったではありませんの、辞任して、息子の除籍をした。
「だから気に病む必要はありませんのよ?グリンド侯爵」
「いえ、それでも……公爵家に賠償や何かをしたわけではありませんから」
宰相が屈した今ではワタクシに頭を垂れるしかないというわけですわね。
まぁ、あの時点では司法大臣に宰相がいれば法的問題が自分に波及することはないですものね。
家庭内窃盗が他家の秘密であったとしても法的には大した罪ではありませんからね、それにそれを公表して第2王子と一緒に大騒ぎしたことは父親の侯爵は無関係なのは事実。それを見越して辞任で有耶無耶にしたんでしょう?
いい判断ですわ、された側でなければ拍手喝采で終わりですわね。
「そういえば元息子さんはどうしたのかしら」
ビクリとしたようにグリンド侯爵は動いた後、汗を拭きながらええと…と口調を濁す。
バカ王子にまだ接触してるみたいですわね、モンタギューのバカ息子を使い潰したのに自分は大丈夫だと思ってるのかしら?度し難いバカですわね。
「ああ、ポート子息は第2王子の忠実なしもべだと暴れてたそうで」
「……縁は切っておりますので何かあったらポート子息とともに葬ってもらって結構です。私自身はもはや力はありませんが……」
「ロバツ王国」
「…………」
「御縁が深いそうですわね、サミュエル王国が最近荒れているからちょっかいを掛けたがっているとか」
「どちらでその噂を?」
「捕らえた蛮族がロバツ国境の方から移動して方だったんですの」
「……降参です」
「話していただけますわね?」
本来はそんな予定はなかったらしいが王太子の儀の中止から1年、新王太子もおらず候補はまるで駄目。その挙げ句公爵家と宰相の対立の激化。国王が役立たずであるために政治の停滞、続く公爵への攻撃と失敗でロバツ王国がチャンスと思ってるらしい。
まぁワタクシでもちょっかいを掛けますわね。
問題は許しを請いに来たにしてはおかしなグリンド侯爵ですけど。
「それで、何が欲しいんですの?」
「末の息子に家を継がせたいのです。ロバツ王国から寝返りの打診があるのですが……」
「今やワタクシ達の派閥に囲まれてるから最前線になりかねないと、赤子は王都には連れてこれませんものね」
「はい、偽の寝返りでも公爵家の私兵の進駐でもご随意に……」
「元息子さんが実家で実権を握る可能性もあるのでは?」
「我が子ながら人望がないので無理です、妻が庇っても部下が報告するでしょう、私ではなく公爵家にでも」
「わかりましたわ、残すように父たちを説得しておきますわ」
礼を言いながら下がっていくグリンド侯爵を見て目を合わせる。責めてます?
「子の責任を親が取っていただけるのでしたら内務大臣はどうなってるんでしょうね」
「素晴らしい娘の責任を取らされるお父様には喜びの涙が溢れてますわね」
「グリンド候……私達には何も言わなかったね……」
「そんな立場ではありませんもの、いつもの茶会の最中にどうしても会いたいというから通したのです、文句言われる筋合いはありませんわ」
「礼儀的には問題があるぞ?」
「お互い様ですわ、財務大臣として謝罪された覚えもありませんし、今更敗色濃厚で頭を下げてきただけで礼儀を払ってもらえると思うのは甘えですわ、だから向こうも何も言わなかったでしょう」
「んで?実際どーなん?蛮族の話」
「ロバツ王国に買収された蛮族が王国を攻撃しますわ」
「は?ちょいまち!東部山間部の一部は小国や蛮族地域を迂回して他国へ行く道やで!そんなところ抑えられたら……!」
「買収された蛮族が私の息がかかってないとはいってませんわよ、だってほらロバツ国境に近い山には……いるではありませんの、マーグの婚約者のような存在が」
「では、あれか?貴公はロバツ王国から金を巻き上げて反公爵派を処分するというのか?」
「あくまで蛮族がですわ、その後ロバツ王国が唆したことがわかればそれでよしではありませんの」
「そこはうまくやっておくっす」
そしたら宣戦布告の手間が省けますわ、別に今すぐじゃなくていいですしね。
「結局……蛮族が攻撃する話で手打ちにしたかったの……?」
「でもワタクシたちが知ってたからご破産、それで優位に進めたかったんでしょう、完全に屈して対等な講和ではなく下についただけですわ」
「それがどうのように優位になると……?」
「へ?…………ああ、そうでしたわね、忘れてましたわね、だって普通だったら北方で蛮族と一番やり合ってる公爵家が一番焦りますもの」
「ああたしかに、もう近隣蛮族は平定してるのでそうでもないのですがね……忘れてました」
「ロバツの北方蛮族まで制圧してたなら教えてほしかったわ」
「言ってませんでしたっけ……?」
「いってへん、流石にそこまで手が回ってると思わんかったけど」
「ごめんなさいですわ」
そう、本来なら北方で蛮族とバチバチの公爵家が一番知りたい情報。助命も許すのももちろん下手すれば恩になり、感謝すらしなければならない情報。
でもそれくらい知ってることを匂わせれば無用の長物、下手すれば頭を下げてきたのに蛮族が公爵家を攻撃することをギリギリまで黙っていたとすら認識される行為。
だから屈した。これ以上叩かれないために。ロバツ王国が北方で効果があったから軍を進めようという時自分たちが見捨てられないために、寝返るまで攻撃を待たれ救援を出さない、寝返ったらすぐに攻撃しようと備えられていたら領土も荒廃するし赤子でも殺されますからね。
あれ、本当に蛮族の制圧範囲言ってませんでしたっけ?ホウレンソウがなってませんわね……。
「これでグリンド候の重要地には公爵家の、もといワタクシの私兵を置けますわね」
「エリーの私兵って……」
「蛮族ですわ」
「グリンド候も肝が冷えるな、蛮族とロバツ王国が攻めてくると思ったら公爵家が蛮族を送ってくるんだ」
「めっちゃ悪趣味っす」
「子の責任を取らされるわけですね」
「問題起こしたら死刑だから蛮族とて弁えますわ、そもそも族長に服属するのだから族長の私を裏切るわけ無いでしょう」
「ジーナの意見も聞きたいですね」
「本職が忙し過ぎますからね、超法規的措置事件の見直しやら何やら」
「それにしても、今回のことでよくわかりましたわね……蛮族と国家を上げて戦うロバツ王国も、そこと関係が深く領地の一部を蛮族領域と接してるグリンド侯爵も、ワタクシのが蛮族を平定しつつある事実を知らないことが……」
「ちょっと以外っすね」
「蛮族になんて呼ばせるの?酋長とか?」
「なんでしたかしら……?蛮族たちはワタクシをボ・クンとかアックマとかタイランとかバーバリアンとか呼んでましたわ」
「「「「……」」」
「ほう、長とかいう意味ですかね?」
「さぁなんでもいいじゃありませんの、やっぱり前の族長達を直々に斬り殺したり素手で顔面殴り続けて屈せさせれば自ずと敬意は勝ち取れますわね、やはり態度で高貴さを見せつけるのはアーデルハイドとワタクシの得意技ですわね」
なんかシャーリーとクラウとベスが変な目で見てますわね?と思ったらワタクシが言い終わった途端みなさまがうわ……って顔で見てますわ?
何かありましたの?
昔の蛮族「うわぁ!蛮族だ」
エリー「こんにちわ~殺しに来ましたわよー服従か死か選びなさい」
取り巻きメンバーズ「(こんなことやってるのか……)」
今の蛮族「あっ、酋長……どうも……おはようございます」
エリー「これが敬意!」
取り巻きメンバーズ「(怯えてるだけでしょ……)」




