エセル敗走記17
「そもそもあなたはなぜ逃げ出したの?」
「マルゴーが!マルゴーが殺されたのです!王家のものに違いありません!リッパー男爵も疑いましたが私が見たときに死んでいたのだからこれはもう王家です!」
正直、私には状況が全くわからない。
好きにやってくれとしかいえないな、座ってもいいか?
「あなたの失脚した理由は?」
「公爵家に和解を求めたのです!本当です!ヘス伯爵もああなってしまい……!それ以前に和解に反対したことは認めます!しかしそれは第1王子であったウィリアム王子の指示もあったのです!」
「…………つまり、国王就任後に命惜しさに、でいいのかしら?」
「はい!」
小物すぎるな、これが当時の最高権力者の一人か?
今の宰相すら抑えて国政を牛耳っていた男がこれほどの小物とはな。流石に同情するよ。王国にも公爵家にもな。
「あなたはワタクシに忠誠を誓っているのよね?グリーリー」
「はい、私は大族長であるエリーゼ・ライヒベルク様の忠実なる部下でございます!」
「いいでしょう、シャハトは死んだ。貴方はグリーリー。キサルピナとシュライヒャーもあなたのことは買っていますからね。以降も励みなさい」
蛮族として言いったか、媚びるのがうまいな。
貴族として王太女殿下に忠誠をとか言ってたら殺してそうだ。こいつ死への嗅覚が凄まじいかもしれん。
「それで?ロンドニにおけるオーランデルク使節団は?」
「ほとんど情報を持っていません!ロバツと大族長が戦争になったことしか知りません!その上サミュエル王国軍であると思っているので負けると思っていると思われます!」
「まぁ、そう思うことは不思議ではないですわね。流石にあの頃よりは王国軍も精強ですけどね。もっとも動かす気もありませんでしたが。ああ、そうだエセル」
動かす気がないだと?それは……。
嫌な気持ちを抑えながらエリーゼ・ライヒベルクの声掛けに答える。
「なんだ?」
「王国軍は動かしてないですの、あれワタクシ達だけ」
「で、これか。やるせないな……」
「ワタクシ達だけでやらないと見せつけられないでしょう?新しき未来の指導者の力量を」
「王国軍自体を動かしてないのは想定外だが、キサルピナ騎士長らで十分というわけか。全くやってられんな、どうしてもダメなら敗残兵刈りだけ王国軍に投げてもいいわけだ。で?王国軍は来るのか?」
「来ませんわ」
「より落ち込むな。与えた打撃も小さいとはな」
「万全ならわかりませんでしたけどね、まぁ万全で戦わせないのも作戦ですわ」
まったく……本当に戦争というものはうまく行かない。
「それで?その後のオーランデルク使節団は?」
「大急ぎで出立いたしました。おそらくもう王都についたのではないでしょうか?」
「ふーーーん…………オーランデルクはどれで来たのか聞いている?」
「とにかく外交使節を送る、交渉と起きたうえでの今後の相談と曖昧だったそうです」
「大使館職員を殺したことかしら?となるとロバツに負けて有耶無耶にされる前に、いや、負けたあと交渉をしていいところを持っていくと言ったとこかしら?ふーーーーん」
ちらりとこちらを見るとどんどん笑顔になっていくエリーゼ・ライヒベルクはおそらく同じようなことを思っていそうである。
「王都に行くことは決定事項だろう?ロバツへは手紙を出す。そちらの責任で届けろ」
「まぁそうですけどね。ええ、いいですとも。グリーリー、あなた届けなさい」
「はい!大族長!」
「じゃ降伏とその後の方針の手紙を書き終わるまで外で待機してるといいですわ」
「はい!喜んで!」
シャハトはこの立ち回りで出世したんだろうか?
まぁ蛮族の大族長が怖いだけかもしれないが。
シャハトが立ち去ったあとエリーゼ・ライヒベルクはため息を付いていた。
「想像以上の小物ですわね、小物界の大物ですわ。いや大物会の小物のほうがいいですわね。実際実務能力は高い、補佐にするには最高ですけど……。まぁ、キサルピナの取り成しがあるならいいでしょう」
「本当に殺さないんすか?」
「あれはグリーリーですもの。でも乗っ取ろうとしてきたらレズリーの好きにしていいですわよ?」
「いつでも殺せるようにしておくっす!」
「信頼ないわね」
あれではな。国家を任せたくはない。
まぁよく補佐ができたのだろうし、トップになっても破綻はしてなかったのだろうがやはり危ないだろうな。
人間性が。
「まぁ国王を殺す正当な理由ができたし、いいでしょう。当時の担当者証言もあれば」
「シャハトじゃないんでしょう?」
「証言のときだけシャハトにすればいいんですわ。エセル」
名前を呼ばれると気が重いな。
「ライヒベルク公爵家に降伏したあなたを見世物にするのは心苦しいですわ」
さっきやっただろ、何を今更そんなことを。
「戦勝記念パーティーででてきたらびっくりするでしょうね?多分やってるでしょう。これで強気に交渉をしてる最中にワタクシが捕らえた国王を連れて戻れば……とーっても楽しいことになると思いません?」
「悪趣味だな」
「オーランデルクならこんなものでいいでしょう」
「否定はできない」
「ああ、楽しいですわね。オーランデルク使節団が王都で好きにしてる間、背中下から刺すこともできるなんて」
やれやれ奴らもついてないことだ。
シュライヒャー「あいつの命の危機を察知する能力は大したもんだから最前線におく」




