接収作戦
「とにかくロバツ戦勝パーティーに連中を引き釣りだすとしましょう。あいにく無知のようなので」
「ロバツとの戦争もどこまで掴んでるかわからなそうね。そうだった、王都広場の連中が死んでることも知らなかったわよ」
「なぜ?」
「え?知らないけど」
本当にその連中が死んでることも知らないのになぜこちらに?
冷やかしではないでしょうけどあまりにも……
「つまり焦っているのか?」
「そりゃ……あっちからしたらバカ王子が王太子になって宰相閣下とエリーが私の後見人でロバツに追従してるとはいえ協力関係にある貴族が処刑済みだもん。焦るでしょ。もしかしたら戦争は途中で気がついて絶対王国が負けると思ってたけど雲行きが怪しいからロバツが負けたかなんかだと思ってるかもね」
「あっ!」
そうだ、思いだした。バカ王子と変態ジョンはロバツと八百長で戦争をして国境を割譲する予定だったはずだ。その話だけオーランデルクに届いていれば大規模に兵を挙げたうえで八百長戦争をしていただけではしごをはずされたようなものではないですか。
「変態の話を覚えていますか?」
「ブタン子爵か?」
「そう言えば今はそうでしたね。あの男はそちらの爵位を預けられたのですか?」
「らしいな。一応はブタン子爵夫人の夫だ。表で言うなよ」
「夫人は言ってもいいって言ってたわよ。褒め言葉だって。随分気に入られてるじゃない、まだ死んでないし」
平然と言ってのけるピアだが興味はなさそうだった。
「まぁそろそろ死ぬだろう。次の犠牲者でも適当な貴族から決めておくか」
「そういえばネルソン辺境伯はどうなったのですか?」
「ああ、寝返ったのだろうな。まぁ謀反人と婚約を続ける意味はないから良かったではないか。少なくともなにもない」
「ではブタン子爵夫人には宛てがえるものがいましたね」
私の婚約者であったモー・ネルソンを渡しましょう、どうせ持ちません。
「そうだな、謀反人であるから当家にはふさわしくない。敵と戦わず寝返るとは」
「決まったわけではありませんけどね」
「どちらにせよ役に立たなかった、辺境伯の意味はないな。どちらに転んでも潰してしまおう」
「いっそ接収してくれればいいのですが……」
エリーあたりがついでに滅ぼしてもいいですけどね。
兵はロバツか、ロンドニか。
オーランデルクかもしれない。
「シュライヒャー閣下、いえ族長。ネルソン辺境伯家はどういたしましょうか?」
各軍の動向と接収を指揮するシュライヒャーは一時的にロンドニに向かったエリーの代わりに東部方面を統括している。
キサルピナはその知名度によりロンドニで顔見せをすることになり、エリーゼ・ライヒベルク王太女就任後の王太子の儀(二度目)を執り行う間、ロバツへの勝利と盤石さアピールの為引っ張られていった。
捕虜になったエセルも気まずさで生きた心地はしないであろう。
キサルピナはオーランデルク方面への出兵、あるいはクーゲンホルフの併合を望んでいたがエリーにいいから来るのですわと一蹴されたため指揮すべき人手が足りない。
何より問題なのは責任者ではあるがシュライヒャーは元が文系であり、確かに鍛えてはいたが蛮族の中ではそこまでではない。
彼が束ねているのは元自分の家臣筋、人望や知能で族長になった集団なので力こそが正義!というような蛮族を完全に御しきれるかは疑問であった。
旧ガルバドス族長傘下の中でも頭脳と一定の強さのため一応その関係部族は耳を傾けられる、無関係であっても大族長にしてママであるエリーが任せたので指示には従う。
だが勝ち方などに指示をしようものならどうなるかわからないし、命令であるのならばこの私を決闘で打倒してみせよとなる人間もいる。
これを抑えきれるメンツがエリー、キサルピナ、ドナントである。
エリーは不在。キサルピナも不在、ドナントはいるがエリーの命令に従う、かつ決闘で息子が邪魔したという教育の汚点があり価値観に違反する命令を言い聞かせてほしいと頼めばやってくれはするが相手が聞き入れるかはわからない。
決闘で強くとも決闘を汚したことのある相手は強かろうが信用されないためだ。
そこで決闘を申し込んで勝てばまた違うが、そもそも大族長であるエリーゼ・ライヒベルクにそれをしたうえで負けたという点が決闘後はノーカンの彼らでも不信感がある。
彼はエリーの方針とはいえ息子を始末しなかったのだ。
この時点で決闘を汚すような息子を教育してその教育に失敗したがそれがどうしたとしか思えない。
最もよろしくないのは家長や族長として息子を罰しなかったことである。
エリーの生きてるほうが地獄でしょうという方針のため罰しないほうが息子にはダメージが行くという判断であったが、最大判との大族長もバカ息子が可愛いらしいと扱われ、当の息子もあれ以来何かに怯えて表舞台にでないためより一層ドナントは強いが頼りないと言う評価に落ち着いている。
更に不幸なのは弟で戦上手のカートがエリーに殺されたので部族として戦争での功績は特筆して高いわけでもないので脳筋蛮族から脳筋蛮族扱いをされている始末であった。
そのために彼に打てる手は少なかった。
「寝返らぬが兵をも出さずなら決まっているだろう、滅ぼせ。適当な部隊を回せ。キサルピナ大族長代行の兵を借りるよう。ロバツを引き入れたことにしてしまえばいい。歴史と事実は勝者こそが作るのだからな。キサルピナ代行の兵であれば適切な命令であれば反発はない」
「その後は?」
「ロバツは終わりだ、オーランデルクだ」
キサルピナ「私も戦場でもう少し活躍がいるかと」
エリー「次の戦場はあなたの得意なドレスですわ」




