お友達なら広場におりますよ
「ふぅん……イルモー侯爵とですか」
「亡き先代王妃様が重用していたこともありまして、ええ……ですがそれくらいで通貨のこともそう頻繁に打ち合わせていたわけではありません」
「独自通貨の発行でしたね、まぁ……よいのではないでしょうか」
どうせ滅ぶんだし。と内心呟いたピアは内容すら知らずに肯定していた。
どうせ滅ぶし、滅んだ相手の条約など紙切れも同然、敵国であればなおさら。そんなうまい話もないだろう。
「よろしいのですか?」
「イルモー侯爵の打ち合わせの内容が引き継がれるわけではありませんしね。まさか謀反人が交渉していた内容を受け入れろとでもおっしゃるのですか?」
「いえ、そのようなことは……」
貴族が広場処刑されている以上はそれなりに重い罪だ。
謀反か、外患誘致か、脱税か、他にもあるがどうせろくなものでもない。政争の結果だとしてもいイルモー侯爵はそちらの方で無題にでしゃばるような人物でもない。
堅実に仕事をして着実に成果を上げるタイプだ。
おそらくロバツとの戦争に関係があるのだろうが、一番最悪なパターンはロバツの寝返らせたある東部国境貴族たちすべての責任をオーランデルク押し付けられ互いにそういうことにしようと我々を叩き潰す場合だ。
ロバツの影響下、もとい支配下にある国は大陸共通通貨ではなくロバツの独自通貨を使わされている。
ロバツに両替させられ、こちらの支払いは大陸共通通貨、ロバツの支払いは独自通過という極めて経済的に危険を感じる状況だ。
オーランデルクは影響下にある異常突っぱねることは出来ない。
だからこそオーランデルクはサミュエル王国に独自通貨を発行するから支援せよなどという気の触れた『命令』を下した。
そしてこの行動をロバツは静観しており、好きにせよと放置している。
うまくいくわけのない計画だ、もしもロバツが正式に抗議でもしようものならロバツの連中はこんな物がうまくいくと思ってるらしいと後ろ指をさされるので触れないだけでもある。
もっとも敵国へのハラスメントとしては有効であり、ロバツが自分の手を汚さずにオーランデルクが踊り勝手に評価が落ちるだけなので真剣に対応はしていない。
独自通貨を作ろうとロバツが受け取ってやる道理はないし、サミュエル王国とて拒否するだろう。
トチ狂って独自通貨を発行されたところで誰も受け取らないのだから意味はない。
イルモー侯爵ですらオーランデルク側をあしらうような話であった。
ジマーマンですらダメ元で、ミュヘル3世ですらダメだろうが取り下げると国内の血族主義者に国粋主義者がうるさいから断られること前提でやり続けてる八百長である。
独自通貨を発行しただけでどうにかなるわけではない。大陸共通通貨のほうが価値があると人々は家や銀行に溜め込み経済が死ぬだけだ。
血族主義者たちはサミュエル王国に押し付けてしまえばいいと本気で思っているので救えない。
そもそも独自通貨を発行する財政力がないからサミュエル王国が出せ、支払いはオーランデルク独自通貨でする。金を出させてやろうでうまくいく交渉はない。
帝国ほどの強国が押し付けるのであればまだしも……。
オーランデルク血族主義者の中では親の援助をさせてやろう、小遣いを受け取ってやろう、最低額はこれくらいだな出せと言ってるし、出してもらえると思っているので荒れることしか起き得ない。
さしもの大使館職員ですらこの件に関しては簡素にうまく行かないとだけ回答しているのだからよほどである。
それに実際は会議という名のお茶会が終わってしまえば互いに拒否した、拒否されたで終わる内容である。
結局サミュエル王国が資金を出さずに済むのであれば勝手にすると良いで終わる話である。オーランデルクの市民を含めて誰も使わないのであるから。
そもそもの話、責任者でもないピアよいのではないでしょうかと言っただけでしかないので特に意味を持たない。
よいのではないでしょうかの意味をサミュエル王国が資金出して支援すると取れるかもしれないが責任者でない以上はバンサ伯爵は賛同しましたというくらいしか出来ない。
そもそもジマーマンもミュヘル3世も独自通過発行に内心反対しているので認められたところで困る。
イルモー侯爵の方針を変えるということは賛同とも取れるし、一応は前向きに話をしていたという建前を粉砕して今後一切受け入れぬとも取れる。
「そちらは……また後任と交渉することになるでしょうし、わかりかねます」
「そうですか、では手紙を届けることも出来なさそうですし私は失礼いたしますわ」
ジマーマンはそれでも手紙を出すべきか悩んだものの危険であると諦めることとした。
改めてサミュエル王国の王宮に働きかけてセッティングしたほうがマシかも知れない。
それでも動向だけは掴もうと帰るピアに尋ねた。
「……ガイツァー伯爵は今忙しいでしょうか」
「ガイツァー伯爵?おそらく暇だと思いますよ」
「そうですか!ぜひ会いたいのですがどちらに?」
「ええ、イルモー侯爵と同じ、王都広場にいらっしゃいますよ」
「…………スバリッツ子爵と旧交を温めたいのですが。彼はどちらに?」
「おお、それはそれは……皆様全員王都広場にいらっしゃいますね。カルグー男爵にもお会いしますか?同じ場所ですが」
「いえ……結構です。ありがとうございました」
ジマーマンは思った以上に状況が悪くなっていたことをようやく突きつけられたのだった。
ピア「(会わせてやろうかって言って広場に行けばよかったかしら)」




