負の信頼
「いえ、伯爵直々にとおっしゃられると……」
断絶したとは言えライエン侯爵家に連なるもの、未来のライエン侯爵であった、そのうえ今は御三家のバンサ伯爵。
このような人物を手紙の配達人に使うのは非常にまずい。
ジマーマンとしてはあくまで手紙すら断れた場合バンサ伯爵の口添えが欲しかっただけである。
同時に護衛を手紙の配達に使うような真似もできないのでだれか動かせる配達員、例えば外務関係者などを送ってほしいと匂わせたのであるがピアは自分の勘を信じてどう答えても自分には悪いことが怒らないとさらっと提案したに過ぎない。
「いえ、どうせ王宮に戻るのでそちらのほうが早いかもしれませんよ。有力貴族なら詰めてますしね。少しだけ王都を離れてる方もいますが基本的には……問題ないでしょう。それでどなたですか?持っていきましょう」
スバリッツ子爵は王城に詰めてるかと言われれば微妙だ。
むしろ子爵程度に?バンサ伯爵を配達員にとなるのだから。
誰か、王城に詰めていた忙しくない人物はいないものか。
なぜこんなにバンサ伯爵は乗り気なのだ、断ったとは言えバルカレス騎士団長はなぜ平然としている。
「どうしました?別に誰でもいいですよ。忙しくても手紙を渡すくらいですからね」
全く引かずに、まるで善意のごとく提案するバンサ伯爵にジマーマンは押されていた。
「今は皆忙しいのでお気になさらず、慶事の忙しさというものは嬉しいものです。下級貴族も王城の掃除をしてますよ」
王城の掃除とはつまり、派閥の整理だろうか。
バカ王子の体制でおべっか使いを出世させるから先手を打ったのかもしれないが……。
付け入る隙は多い方が良いがバカなりに偏屈でオーランデルクを嫌っていた以上は交渉先をどこにするべきかも悩ましくなる。
全く祟るものだ。
なんとか高位貴族かつ王城にいそうな人物をひねり出す。
ガイツァー伯爵は間違いなく忙しい、その上でオーランデルクと会うということがどういうことか理解してる以上は合わないだろう。
そうなると必然的に。
「イルモー侯爵に……」
少しだけ待って欲しいといい、会いたいと手紙を送ればいいだろう。
とにかく今日中にすり合わせないといけないのだ。ロバツ側に付いてるであろうイルモー侯爵であればオーランデルクと手を切るにしても……。
「ああ、それは無理ですね」
「えっ?それは……王都にいないのでしょうか?」
なというタイミングの悪さか。
外務関係の人手不足で駆り出されたのかもしれない。
一応は財務省国際局の人間で他国の関係性は深い方であろう。もしくはロバツに寝返ったか?
それともバカ王子に失脚でもさせられたか?
ジマーマンの予想はピアの返答でで斜め上に消し飛ばされた。
「いえ、もうこの世にいないのですよ。王都にはいるでしょう。広場をご覧になりませんでしたか」
広場にいるとやんわりと伝えるピア。
広場にいる、転じて処刑されて公開されている。
ジマーマンの頭の中は予想打にしない出来事に真っ白になってしまうほどの衝撃であった。
「イ、イルモー侯爵がですか?何があったのでしょう」
「おや?それはオーランデルクがよく知っておられると思っていましたが……。そうでしたか」
「いえ、まったく……少なくとも私は存じません。何があったのでしょう?」
「おや?イルモー侯爵は先代王妃殿下が取り立てた方。おかしいですね?伝わっていないとは」
何をしでかした!
私は全く知らない。もし大使館の職員が殺害だとしても一切責めることが出来ないようなことをやらかしたのではないだろうな?
例えば反乱の焚き付けや主導などは裏でなぁなぁにできるほどの関係はサミュエル王国にはないぞ。
もはやそれでロバツが我々を見捨てるからこそ連絡がなかったのではないか?
ミュヘル2世陛下であれば公言してより問題がおきたであろうからこそミュヘル3世陛下の治世で助かったのか?
「いえ、全く。なにか……」
「いえ、連絡は届いていないのでしょうか?それとも……いえ、失礼いたしましたわ。これ以上は外交のお仕事かもしれませんね」
失言したのではなく知らないのかと呆れるような口調のピアはジマーマンにただただ衝撃だけを与えていた。
皮肉を言ったのであればなにか返してやろうと思うものだが知らないことの方を驚くでもなくただただ呆れられた
「お、お待ち下さい。何があったのでしょうか?」
「処刑されただけですよ。まぁ……手紙は残念でしたね?どのような内容の手紙届ける予定かは聞かないでおきましょう」
しくじった!処刑された人間と連絡を取りたいなど関係があるというようなことだ。
まさかイルモー侯爵ほどの人間を処刑するとは想定していなかった。
「いえ、通貨の関係で話し合いを持ちたかったのです。外務大臣はおられませんよね?」
「ええ、まだ他国で条約に関するお仕事の最中であると宰相閣下がおっしゃられておりましたよ」
「これは困りましたな、通貨のことは……」
「それはレズリー財務大臣が可能ですからそちらで対応なさればよろしいかと」
「おお、国際関係もできるのですね。そうですか、てっきり……いや会談はイルモー侯爵とばかりでしたから」
ジマーマンは必死に無関係をアピールするもののそもそも何を起こしたのかもわからない。
だが、なにか失態をしでかした可能性が高いという嫌な信頼がよぎる以上は打つ手はなかった。
やはり情報収集に集中してから来るべきであったか?しかしバンサ伯爵の訪問は避けられない以上はやはりロンドニに滞在するべきだったのだろうか?
ピア「(適当に相手しておこう)」
ジマーマン「(何があったんだ)」




