勘も働かずに済む相手
「なぜロンドニは暗かったのでしょう?何かあったのでしょうか?」
「さぁ?おかしいですね」
そりゃああんなバカ王子が王太子では暗くもなるだろうとは口が裂けても言えないジマーマンはとぼけることしかできなかった。
ロバツに負けたからなどというわけにも行かない、現時点ではわからないのだ。想像でお前の国が負けたからだろうなどと言えばもしかしたらもしかしたときに困る。
なにせ八百長戦争の可能性がバカ王子の王太子就任で現実味を帯びてきたのだから。
もしやロバツと八百長戦争で勝利したことにして王太子の地位についたのか?
ロバツからしたら阿呆のほうが御しやすい、地位を引き換えに国を売りそうな相手なら負けたふりくらいしてもいいだろう。
目下、デルスク共和国は敗戦で立ち行かずここでの敗戦は脅威にはならない。
後は金をかけて時間をかけて寝返らせても、そう例えば共同してライヒベルク公爵家を攻めるなどの密約を結ぶ、結んでいる可能性も高いだろう。
「まるで次期国王を歓迎していないみたいですね?本当に暗かったのでしょうか?」
すっとぼけたようなピアの口調で自分は慶事の内容に切り込み失言を促されたのだと気がついたジマーマンは曖昧なごまかしでは通用しないと頭を回転させていた。
この時期に王太子任命なぞあり得ない。だからこその罠だったというわけだ。オーランデルクの失言、王宮部署でオーランデルクを対処したことがあるライエン侯爵家令嬢。なんとも相性が悪いことだ。
「ええ、そうですね。いや、もしかしたら我々が来たことでロンドニ市民の皆が暗くなったのかもしれませんな」
「ええ、そうかもしれませんわね」
ピアは嫌味という対応ではなく心底それ以外にないでしょうねという態度で肯定した。
かといってそれに文句を言えば、ではなぜ暗かったんでしょうね?と言う話題に戻る以外はないだろうし、オーランデルクが王国で嫌われているのは周知の事実。
そんなことはないでしょうと言われ、気のせいだったとでも我々がナーバスになっていたとたでも返そうと思えばまさかの肯定ではさすがにジマーマンもため息を付きたくなるだろう。
オーランデルクが来たから周りが殺伐として暗かったというのがロンドニ市民が暗かった真相だと知ればジマーマンとて打つ手がなさすぎて辞任を考えたやもしれない。
「……我々は嫌われておりますから。しかし、新国王陛下は今までの悪習をなくそうとしております。いずれはロンドニ市民も、王都の市民も我々を歓迎してくれる時が来るでしょう」
「|そんな日が来るといいですね《ねぇよ》」
自分の国は嫌われていると言わざるを得ない外務大臣の恥辱というものはどれほどのものなのだろう?
ピアはそんな事を考えつつももうすぐ滅亡する国だし適当な返事をしておけばいいやと本心を隠しながら嘘くさい賛同をした。
一方であまりにもひどい会話にバルカレス騎士団長の腹筋は限界であったが、彼の鍛え上げた肉体が決壊寸前の笑うという行為を抑え込無事に成功していた。
おそらく彼の経験した戦いの中ではベストバウトにはいるであろう腹筋防衛戦争をよそにピアはなんの勘も働かない嫌いな国のつまらぬ話し合いに飽きつつあった。
「それでは私はそろそろ王宮に戻りますね」
「王宮ですか?」
「ええ、呼ばれておりますの」
「それは……リッパー男爵ですかな?」
ジマーマンの疑問は王宮に行く用事であったが言う訳もないので迂遠な言い回しをしていた。
普通に聞けばおそらく答えたであろうにわざわざ余計なことをしてしまったジマーマンはただただ遠回りをしている。
王宮に戻るという言葉ですら呼ばれているの言葉で中座したのだと判断した。
「いえ、後見人の|キャスリーン・イデリー伯爵令嬢《臨時政務官》から」
「イデリー伯爵令嬢?」
「ええ、今は宰相閣下とおられるので」
「なるほど、ということはライヒベルク公爵令嬢もそちらに?」
「いえ?エリーは別の場所にいますわ」
愛称で呼ぶことはそれなりに深い関係あるなと思うジマーマンであったがそれ自体は特に問題のある話ではない。
公爵令嬢とイデリー伯爵令嬢は袂を分かったわけではなさそうである。
まだ協力関係にあるのは間違いない、あるいは宰相も協力関係にあるのか。
宰相はバカ王子をまだ)支援するのか?情報がなさすぎる。
「そうですか、我々もライヒベルク公爵令嬢に挨拶をしようと思っているのですが……」
「数日は忙しいでしょうね。なかなか大変そうです」
「数日ですか……」
なにか事を起こすつもりか?
まさかオーランデルク相手ではないだろうな?
「そうだ、安全上使者を出せないので手紙を届けていただけたりはしないでしょうか?できればバンサ伯爵にお口添えをお願いしたいのですが」
バルカレス騎士団長に頼むべきことではあるがもしかしたらもしかするかもしれない。
手紙の取次すら阻止されていたら目も当てられないが、バンサ伯爵と一回の貴族同士の会話のように触れば通るかもしれない。
「手紙でしたら我々が届けますが」
「護衛をそれで割くのは避けたいですね」
手紙の取次を阻止されていないのであればこれ以上はごねる必要もない。
ジマーマンはバンサ伯爵の方も用済みのような態度を見せず護衛部隊にも気を使うような真似をしていた。
「別に構いませんよ、ついでに持っていってもいいくらいですとも」
高位貴族を単なるメッセンジャーにするのもまずい。
やはりオーランデルクはサミュエル王国を下に見ていると印象付けてしまう。
ジマーマンは真綿で首を絞められる感触を味わっていた。
ジマーマン「手紙は出せたか、検閲される可能性はあるが……大事な話は会えばいいからな」




