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ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
オーランデルク

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バンサ伯爵とジマーマン伯爵

「では、バンサ伯爵をこちらへ……」


 臨時大使館とは言えどもあくまで権利はバンサ伯爵家のもの。

 バルカレスの言い方からそう認識したジマーマンはバンサ伯爵を同じ部屋に招くことにした。


 バルカレスとしてはバンサ伯爵の護衛があるから招いてもらわねば困ると言い訳できるような言い方をしていたが、すでにジマーマンはバンサ伯爵邸を何らかの形で移動させたもので権利を失っていないと認識したので気が付かない。

 あくまで臨時であって屋敷の主の権利を喪失していないと錯覚させたのは偶然ではあったが、ジマーマンはバルカレスが部屋に呼んでほしいという判断とバンサ伯爵護衛をする必要があるというのを暗殺に対する警戒かもしれないとすら思っていた。


 それから数分、他愛のない話に切り替えた2人はバンサ伯爵の到着を待っていた。


「そういえばご令嬢は?」

「元気ですよ、元気すぎて困ってしまうくらいで。妻に似ましたね」

「ほう」

「バンサ伯爵をお連れいたしました」


 その声で会話を中断し、名高きリッパー男爵を拝もうかとジマーマンは扉に目を向けた。

 開かれた扉から出てきたのは若い女性であった。

 リッパー男爵は老人だったはず……。嫡男も急死したとかで子どももいなかったはずなのに……。

 バンサ伯爵家でつながる血筋はあったか?

 いや、なぜその地位にいるのだ?


「オーランデルクの皆様方、お初にお目にかかります。バンサ伯爵、ピア・バンサでございます。この度は旧バンサ伯爵邸への逗留、誠にありがとうございます。ご不便があるかもしれませんが、今の管理は私ではないので対応は難しいですが……何かあれば言っていただければ今の管理者に対応させますのでお気軽にお申し付けください」


 挨拶の一言だけでやはり判断はできない。

 名乗った限りは間違いなくバンサ伯爵、他に同じ爵位はないはずだ。

 子爵、男爵が急に伯爵になった可能性もあるかもしれないがこの女性がそのような功績を上げたとは思えない。情報が入ってこないとしても大使館職員が全滅したあとの陞爵ではあるはずだ。

 そのような出来事なにかあるだろうか?

 それを考えるよりやはりバンサ伯爵であると考えたほうがいい。


「これはこれは、私はオーランデルク外交使節正使、オーランデルク外務大臣を勤めさせていただいております。ジマーマン伯爵位にありますプラグドル・ジマーマンです。どうぞプラグドルとお呼びください。バンサ伯爵閣下」

「あらこれはご丁寧に、では私もピアで結構ですわ。プラグドル閣下」


 握手をしながら互いにどう相手を詰めるかを伺いながらジャブを放つ。

 ピアからしたら警戒心がない相手、自然体で挑めばいいだけである。

 そのあっさりとした警戒心のない態度がジマーマンに相手が未熟か老獪なる外交官かの判断を迫られた。


「バンサ伯爵位を継承なされたとか?」

「ええ最近ですね、元から継承する話はありましたが……。政治的な問題ですね」


 口が軽いのか?それとも問題ない話か?

 ジマーマンはバルカレスを見るものの特になんの問題もなさそうにコーヒーを啜っていた。

 失言を聞いても顔に出さないだけか?これは切り込むべきだ、言い淀めばそれもコチラにとって情報になるのだから。


「先代バンサ伯爵のことは残念でした」

「ええ、亡くなられなければ私にもよかったのですが。私は当時3歳でしたし特に接点もなかったはずです。会ったことはあったかもしれませんが記憶にありませんね」

「3歳ですか、それはまた随分と……お若いですね」

「ええ、それでも伯爵位にあるものとして責務を果たすつもりですわ」


 ニコリと微笑みながら対応するピアにジマーマンは頭を回転させていた。

 当時3歳ということは今は21歳、かつ緊急で伯爵位に就いた。

 会ったことが会ったかもしれないが記憶にないということは娘ではない、隠し子であれば可能性はあるが……。


「お父上は継承をなされなかったのですか?」

「ええ、亡くなっておりましたから」

「それは、失礼いたしました」

「もう6年前ですので」


 ということは6年の間になにかあったのか?父の爵位は?

 バルカレス騎士団長は反応を見せない、発言に対して反応を見せない。

 コーヒーのおかわりを要求しているほど余裕だ。

 焦りでも、落ち着くために何か飲むものがほしいわけでもなさそうだ。待ってる間は足を組み泰然としている。

 ジマーマンは情報不足の苦しさを悲観することなく話を進める。


「失礼ながら、リッパー男爵との関係は?本来であればリッパー男爵が継承すると思っていたので驚いたのですよ」


 ここまで来たらもはや聞くしかない。

 知らなくて当然の知識ならばまだ問題はないはずだ、ここで言い淀めばリッパー男爵のさらなる失脚、その他の問題があるはず。

 6年前ならリッパー男爵子息の亡くなった年でもないはずだ。

 おそらくリッパー男爵の血筋ではない、それは間違いない。

 リッパー男爵家に他に子どもはいないはずだ、子息のほうが子どもがいたとしても……。

 いや、建前の父か。ではまだリッパー男爵の孫という血筋の可能性もあるか。


「ああ、確かにジャックさんが本来なら継承するはずでしたからね」


 ジャックさん……?少なくともそれを言い合える仲ではあるな。

 後は鬼が出るか蛇が出るか。


「ええ、私達のような他国の人間でもよく知っております」

「それはそれは……さすが落ちても御三家と言ったところでしょうか」


 落ちてもか……。

 なかなか言えないことを言うものだ。

 いくらなんでも知ってはいないだろうとでも言いたいらしいな。

 だがこちらはまだ答えをもらっていない。

 これはつまり……。


「ジャック・リッパー男爵は私の後見人の一人です」

ピア「脅威を感じない」

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