翻弄される外務大臣
「慶事だといいのですがね、これ以上は慶事が渋滞を起こしていしまいますが」
バルカレスはとにかく匂わせに走った。
相手が判断を鈍らせるために、間違った判断を下すために。
「羨ましい限りですな、我々も慶事が入ってくることを期待します」
ロバツの戦勝報告を待つジマーマンはそれらしい言葉で祝福するように言った。
八百長戦争はあり得る、だがそのための利益とは何かがわからぬ。
密約にせよ何にせよオーランデルクにその情報は入らない、ロバツ側もわざわざ教えない。この戦争すら教えていないのだから。
信用がなかったのだとジマーマンは考えているが、わずかにほんの僅かに介入の必要がないから声をかけなかった可能性を信じていた。
「いいえ、すぐですよ」
次の一戦はどうするべきかとジマーマンが考えるもののおそらく深くは聞き出せない、守りに入ったと判断するにいたった。
やはり八百長戦争だろうか?公爵家が北部で勝利した可能性ももしかしたらある。
陽動牽制で全滅前提の面倒な貴族を出撃させて処理させたか、動きを止めるための軍勢を襲撃されたか。
だが公爵家の勝利ならサミュエル王国の勝利とは別といい切れるやもしれぬ。
いっそこのまま公爵家に向かい公国と独立を認めるべきやも……。
それならロバツも延命できるはず……。
思考を中断したのは丁寧なノックの音だった。
ジマーマンは情報を聞き出さねばいけない客人がいる最中に来たことになにか問題があったと当たりをつけた。
「誰か?いま客人が来ておられ……」
それに即答するのはバルカレスだった
「ああ結構。私が割り込んだ形ですからな、館の主だった人物ですよ」
「バンサ伯爵ですか……。それでは……」
屋敷の主だった人物であれば忙しいし会談中と追い返すことはできない。
今の所有がどうなっているのかはわからない、王家が一度召し上げる形で預かり臨時大使館になったあと帰国後、あるいは大使を認めたあとバンサ伯爵に返還する可能性だってある。
もしもそのような形を取るのであれば元の主だから追い返したなどというものは非常にまずい。
リッパー男爵家とバンサ伯爵家が合流していた場合は勝手に敵が増える
それだけではなく前の持ち主であるから挨拶を優先せずおいておいたなどとなればやはりオーランデルクはこのような態度なのだとさらなる敵愾心を増やすことになる。
嫌われている国家が嫌われることをすれば西部の嫌いではあるがまだ実害はない、見ていて不快だと言う貴族がやはりオーランデルクは無礼千万、いつが実害があると排斥側に回ればミュヘル3世のサミュエル王国への融和が失敗する。
ロバツが覇権を取った際に真っ先に切り捨てられるのは間違いなくオーランデルクなのだ。
デルスク共和国もバーデッツ王国もオーランデルクよりも利用価値はある。
デルスクもバーデッツも最低限隣国の壁になる。
サミュエル王国を滅ぼすまではロバツでも時間がかかるはずだ、おそらくオーランデルクのような形で緩やかに、あるいは公爵家を使うかもしれない。
いずれ降るにしてもガス抜きに使われるのはオーランデルクなのは間違いない。それはサミュエル王国融和派の恐れる未来である。
これは来客中に確認せざるを得ない案件であった。
しかもオーランデルク警護責任者に対し是非会いたいと言い出したのはオーランデルク側、バルカレスほどの大物であったからこそこの様になってるのである。
バンサ伯爵が誰が警護しているか知っていたとしてもオーランデルク側が警備責任者を表彰している、労っているからと待たせるのは流石にまずい。
他国なのだから屋敷の本当の主であろうとなかろうとそういうことにしてしまうことができるのだ。こちらは実情を把握できるかと言えば無理だろう。
元の主と言っても、本当に手放したとしても、無礼を働いたとわかれば王家が一度召し上げた形にして気を遣わせないよう一度商会を挟んだだけだしてしまうこともできるのだから。
せめて親しい関係にある貴族かオーランデルクと深い関係のある貴族であればお待ちいただいてということができるのであるが、建前上は臨時大使館警備責任者。
たとえそれが騎士団長であってもバンサ伯爵からしたら家を借りておいて警備責任者を呼び出して因縁をつけ自分を待たせると抗議すればそれが真実になる可能性は高い。
なにせ挨拶に来るとは言ったのだから。
先程のバンサ伯爵が挨拶をするという案内役の会話が簡易的な先触れであれば、待たせた挙げ句警備責任者と歓談してるのは非常に外聞が悪い。
騎士団長ではなくあくまで警備責任者との会談なのだから……。
ではっどうやってバルカレス男爵に対応するべきか。
まだ労いもしていない、これでは何のために呼び出したのかわからない。
だが、労った場合は警備責任者ではなくサミュエル王国騎士団長を労ったことになりまたどのような噂を流されるかわからない。
すべてが悪い方に向かっている。
判断に困るジマーマンに対してとどめを刺したのはバルカレスだった。
「ええ、結構ですよ。ここに呼んでも困ることはありません、なにせ国家を支えるバンサ伯爵。私もとどまりますよ、やましいことはしていませんからね、それともなにかそのような話をするおつもりでしたか?」
「いえ、あくまで警備責任者にお礼を述べようと思っただけでして……サミュエル王国騎士団長殿がわざわざ警備を担当してるとは思いませんで。あくまでお礼を述べるだけです」
「どちらにせよバンサ伯爵の護衛もありますからね。バンサ伯爵も挨拶だけでしょうし、バンサ伯爵が言うのであれば席を立ちますよ」
ということはこの屋敷の権利はあくまでバンサ伯爵が保持しているということか?
ジマーマンはようやくそれらしきものを掴んだが、この屋敷はすでにバンサ伯爵家と無関係である。
バルカレス「(それっぽいこと言っておけばいいだろ、この手のやつは)」




