新司法大臣万歳!
故司法大臣「人の死体で遊ぶな」
死者の棺桶を開けて担ぎ上げる軍務大臣。
これが戦場なら様になるかもしれませんけど、軍務大臣は戦場に出ないから絵にも様にもならないですわね。
王宮でってところもなんか滑稽さを際立ててますわ。
死にたてほやほやとは言いませんけどもう硬直してるんじゃないかしら?
こういうのもなんですけど……たまに父親が子供に空飛ばせるポーズみたいなのをしてるような、ああバランスが悪すぎてふらついてますわね。
ちらりとこちらを見る軍務大臣。
もしかして淑女に手伝わせようとしてます?乙女ですわよ?棺桶ならまだしも死体を直接?父ならまだしもほぼ他人を?
「軍務大臣閣下?国王陛下がお待ちです、お早く運んでください。故司法大臣も手早く棺桶に戻りたいでしょうし、埋葬もされたいでしょう」
「……その……誰か手伝っては……?」
「陛下に命ぜられたのは軍務大臣ですし」
「そもそもそんな罰当たりなことをなぜ私が……もう大臣でもありませんし」
「淑女の私達に運ばせるのですか?」
「遺族の我々への謁見は応じていただけなかったですから運ぶのも不可能でしょう」
「……」
しぶしぶ遺体を運んでいきましたわね。
ああはなりたくありませんわね、民衆が引いてますわね。
あーあ、また扉しっかり閉めちゃって……これで国王陛下が知らないと言い訳しても民衆にはその声は届きませんわね
「陛下、前司法大臣閣下をお連れしました」
「な、なんだ?その……どういうことだ?」
「陛下が御存知の通り自裁なさった前司法大臣閣下を棺桶を開けて連れてきました」
なんでそんな事になってるんだ?いや、そもそも何が起こってるんだ?全く理解できないが……?
エリーかな?エリーだな、多分そうだ、今回の件でせっかく詰めたのに司法大臣執務室勤務の人間が全員殺されたから王家関連では大した利益も得られなかったしここは……。
「うむ、痛ましいが王命であるから致し方ない。軍務大臣は大変だったかもしれないが国王陛下に忠実な姿勢は貴族の鏡だ、皆様もそう思うでしょう?」
「えっ、ええ……いやまぁしかし……遺体を直接運んでくるとは流石に思いませんでした……本当に驚きましたね」
「まぁ文官の私では流石に運べませんからね」
「農林大臣の私なら運べるかもしれませんが、ここは自裁をという選択肢を取った前司法大臣に敬意を持って軍務大臣閣下が行くしかありませんでしたからな」
あれ?皆知ってたのかね?内務大臣の私が知らないのは問題じゃない?乗っかってるだけだろうか?皆、腹芸がうまいから内心は読み取れない。
チャールズのやつはイアンの死体をそっと椅子に座らせている。まっすぐに硬直してて座らないな……。
「どういう事だ!説明せよ!ライヒベルク公爵!」
「公爵としては説明できません」
だって知らないもん、自裁なんて知らないもん、娘に聞いてくれよ。ほんとに聞くばっかで使えないなぁ……。
「……ライヒベルク内務大臣、説明を」
「前司法大臣は先ほど新司法大臣が述べたように無罪判決と遺族の救済と推薦状を書いて自裁しました」
「なんだと!なぜ自裁したことを誰も言わなかったのだ!」
そりゃ知らないからでしょう、仕事以外で面倒臭いとやる気なくなるんだよなぁ……。
無題に仕事を増やすし、理解力はないし、息子の仕事内容も把握してないから引き継げないし……ゴリ押しで今回の賠償ねじ伏せやがったし……ウチの妻の帰国もずらしやがったし……。
腹立ってきたな……。なんでこんな早朝に呼び出したんだよ、しかも2時間もお前の愚痴と第2王子の将来性の話ばっかで仕事も溜まってるのに、お前のせいで溜まってるんだぞ?
「国王陛下に報告が一番先に来たに決まってるではありませんか、何をおっしゃられるのです?宰相閣下もご存知だったはずです、ねぇ軍務大臣、宰相閣下は先程知ったようでしたか?」
「いえ、知ってて着いてきたようで」
「なぜ宰相があちらにいるのだ!」
「そりゃ死人を連れてこいと言われたら流石に……」
「余は……!」
「まさか前司法大臣が自裁したと知らなかったとは言いませんよね陛下?イアンが死んでたことを知らなかった人は手を上げてください」
即座に手を挙げる軍務大臣と、上げようとしてなんかへんな形で止める国王陛下。
まぁ、宰相が知っているのなら国王陛下に報告が上がっているはずだからな。あの感じはもしかして聞き逃したか忘れたかもしれないと自分で自問自答し始めたのだろう。
これは本当にフリードリヒ殿下が王太子内定になるはるか前に仕事を任せてたのだろうな……。会議でしか顔も出さないし実務に関しては宰相のほうが接しているだろうし実情は不明だが。
内務大臣の私じゃ会議で発表して裁可をねだるくらいだ。亡くなるまで第1王子殿下のいない会議はそう考えるとめったになかった気がする。
学院に入学した頃はすでに会議に出てたような……?
「まぁ軍務大臣は職務上知らなくても仕方ありませんが、私は内務大臣なので司法との協調が大事ですし」
「私も財務ですから司法との調整がありますので」
「農林に関しては法律の働きかけが大事ですので」
「文部は法官僚の育成も内包してますからね、軍務大臣に知らされなかったのは仕方ありますまい」
ちょっと言い訳に無理を感じるな。多分知らなかったな、財務大臣はちょっとわからないが……。
驚いた顔をした軍務大臣をよそに詰めに入る。
「さて、国王陛下……。前司法大臣をこうして連れてこられたことですし……新司法大臣に入室していただきましょうか?」
「なぜ自裁したかまでは聞いていない」
ああ、自裁自体は聞いてたけどって方向に持っていきたいのか。その時聞けばよかったのではないかって返したほうがいいですか?
「なぜもなにも……この状況なら自裁以外ありませんし、ねぇ?司法大臣と同じ状況になって逃げる以外で選ぶとしたらどうします?皆様は」
「まぁ……自裁ですかね……娘が遺族に襲われるか口封じされるかわかりませんしね、これほど手際よくできたかはわかりませんが」
「まぁ私の場合は農林関係でから自裁はせずとも助かりますが……司法なら自裁だったでしょうね」
「私は文部ですからね、仮に文部で問題が起きるような自裁してもどうなるかわからないですが……まぁ逃げる以外なら自裁しかないでしょうな」
「それで陛下、イアンが自裁しない理由があるのですか?忠誠に厚い彼なら自裁を選ぶことは当然かと」
「…………」
まぁ実際こんな状況になったらもみ消すかとっとと逃げるか挙兵するけど。
この状況になった時点で王家なんて潰しにかかるだろうな。ここまで第1王子ありきの国だったとは流石に思わなかった。もしくは第1王子の事故死で壊れてしまったか?
まぁエリーもブランケット侯爵令嬢が亡くなってからはなってからなんか壊れてるようなもんだしな、元から壊れてるものをブランケット嬢が直してたのかもしれないが。
「前司法大臣を呼んだ理由はわかりませんがこれでよろしいでしょう?新司法大臣を会議に参加させましょう。超法規的措置の再検証に関しては公爵家としても内務大臣としても歓迎します」
「娘が司法大臣を目指してるとは聞きましたがこうも早いとは思いませんでしたね、推薦まで頂いて結構なことです」
「ご立派な娘さんで羨ましいかぎりです」
「クラウディア嬢もご立派ですよ」
「ありがとうございます」
まぁ死人を連れてきた時点で大分問題があると思うがな。
そういえばクラウディア嬢って男装してるけど家の方針なのかね?あんまり口は挟めないしな。
「……よかろう、新司法大臣を入室させよ、宰相もだ」
「就任を見に来た人達は良いのですか?」
「どうせ公爵令嬢とお友達だろう、それだけみたければ見せてやれ!」
「いえ、他にも……」
「……ああ、構わん、見せてやれ!」
まぁルーデンドルフ侯爵辺りもいるだろうな。軍務大臣はその辺何も言わなかった辺り不信感があるんだろう。殺しかけた遺族もいるだろうし千客万来だな。
まぁ我らが国王陛下の感じを見て自分だけ本当に知らない可能性が強いのではないかと疑心暗鬼になってる、その上ですべての恨みと、あるかわからないが祟りか呪いの対象になったのかもと思ってるだろう。
軍人は信心深いやつが多いだろうしな。
「陛下が新司法大臣の就任を行います、宰相閣下と新司法大臣は中にどうぞ、就任は皆様が見ることが可能です」
とぼとぼというかショボショボというか、なんとまぁ表現しにくい歩き方で落ち込みを表現しながら軍務大臣はワタクシ達の前で宣言。
え?皆で会議室に入るの?無理でしょう?
「皆で入れますか?」
「無理ですな」
「では扉を開けて民衆に見えるようにいたしましょう」
「そうしましょう」
完全に諦めてますわね……中で何があったんだか……。
まぁ愚王に愛想を尽かしたかなんかでしょう
衛兵2人が扉を開くことを拒んでるようですが軍務大臣が一喝、扉を完全に開いているなか宰相とジーナが堂々と進んでいく。
愚王は下向いてますわね、目を合わせる気がないと言うか……。
まぁ前司法大臣執務室勤務の遺族がいるから面と向かって睨まれると負けるのかもしれませんわね、殺した相手の顔もその遺族の顔も正面から見れないのかしら?ワタクシなら見るし、かかって来たら撃退しますわ、鍛えてますのよ!
「陛下、新司法大臣ジョージアナ・スペンサー男爵令嬢です」
「新司法大臣ジョージアナ・スペンサーです、ノーベリー・スペンサー男爵家の子女です」
「ああ、推薦によって新司法……」
「陛下?いかがしましたか?まだ私の就任を認めてはくださいませんか?民衆も私の就任を見に来ています」
「なんだこれは……」
「イアン・モンタギュー子爵の追悼のためにきた王都の民衆です、亡くなってなお慕う方々が王宮までこうして足を運んで……」
「なぜ……いや、イアン・モンタギュー子爵の国……!」
「国葬ですか?葬儀はもう終わっております、陛下がお呼びになられたのでライヒベルク公爵令嬢、宰相閣下、ルーデンドルフ侯爵、前財務大臣グリンド侯爵、司法大臣室勤務官僚殺人事件遺族の方々がこうして棺桶を運んできていただいたのです。……二重に葬儀をあげるのですか?」
「…………新司法大臣ジョージアナ・スペンサーを任命する」
やっと外にいる民衆に気が付きましたのね?
国葬でいいとこ見せたかったけどもう葬儀は終わってるからただただタブーを犯し続けてるだけ。ほら、そこの棺桶見えまして?立派でしょう?
ああ、気がついた。さーて仕上げにかかりますわ!
「新司法大臣ジョージアナ・スペンサー万歳!」
ほらほら、早く皆さまも盛り上げて!
「「新司法大臣ジョージアナ・スペンサー万歳!」」
「新司法大臣ジョージアナ・スペンサー万歳!」
遅れてるけどちゃんといえてますわね、民衆も賢いですわ。
「国家に殉じたイアン・モンタギュー子爵万歳」
「「「国家に殉じたイアン・モンタギュー子爵万歳」」」
「新司法大臣ジョージアナ・スペンサー万歳!」
けして国王陛下万歳とは言わせませんわよ?ここで褒められるのは2人だけでしょう?
軍務大臣の心も離れかけですわね、ほらイアン・モンタギュー子爵万歳って言ってますわよ?成仏してくれって祈ってるんじゃないかしら?
「新司法大臣就任万歳!」
そう考えると棺桶の釘外して死体をへんな持ち方で移動させて椅子との隙間で三角形作った軍務大臣ってめちゃくちゃ罰当たりですわね。
大臣メンバー「(マジかよ……)」
軍務大臣「どうして……」
国王「????」




