使者を出すとしましょう
「彼はバンサ伯爵家の末子だ、そこからリッパー男爵家に婿入して御三家の協力を強めたのだが……アストレア様が危険視して地位を奪った。その後バンサ伯爵も亡くなり、協力関係にあったライエン侯爵の急死、あとを継いだ息子の急死と転がり落ちるように失墜した。私はこれはレズリーか公爵家の陰謀であると思っている。だからこそ今……」
「ジャック・リッパー男爵がバンサ伯爵の地位を手にして対抗するということですか?」
「復権させる他なかったということかも知れない、レズリーの権力が増したことで脅威を覚えたのかも知れない」
「では大使館職員を殺害したのはレズリーということですかな?」
「急死だ」
「失礼いたしました……」
カスリットは自国に圧倒的に非がある場合は弱いと思っておけば良さそうだな。
「大使館の人間がロバツ侵攻のことを掴んで何か下手を打った可能性も正直ある、それがサミュエル国王の逆鱗に触れてしまった。バンサ伯爵がジャックの場合はレズリー家の殺し方がまずかったか、王にも届きうるとの判断であろうな」
「逆もありうるかと思います」
「なるほど、リッパー男爵家を動かして見事にし始末したからというわけか。その場合、サミュエル国王はバンサ伯爵家をリッパ-男爵に継がせたくなかったのだろうな。冷遇のやり返しか、それとも……。そもそも先代サミュエル国王の時代からか、しかし親しいからやはり何か考えがあったのか」
「それこそレズリーでは?」
「ああ、そうだな。御三家と言ってもそういうものだろうしな」
バンサ伯爵家とリッパー伯爵家との関係性が深まるのでレズリーが強く警戒していたので継承させなかった。
そのため維持していたが今回の大使館の始末を見て頼りになるから、バンサ伯爵家の断絶して長く縁も切れているだろうからということだろうか。
どちらにせよレズリーとの関係はあるだろうが。
「問題はなぜ死んだかだ。誰が殺したかではないでしょう?」
「サミュエル王国の乱心であればいいのですがね」
「乱心であってもロバツとの戦争で大使が煽った結果であれば判断が難しいな、やはりここは宰相と交渉するしかないか。ブランケット外務大臣が不在なのもよろしくないが、帰っては来ないだろうし宰相も呼び戻さないだろうからな」
「確か王太子妃の死後のことで対立したとか」
「話では飛ばされたらしいな」
「サミュエル王国も外より中で争って気楽そうで羨ましいですな」
「…………そうだな」
外交における対立があるのにそれを言えるのは大したものだ。
「それよりもどう交渉するかです、まず情報収集のために関係ある貴族に連絡を入れましょう」
「そうだな、ロンドニで手紙を出そうと思っていたが強行軍で来たからな、今から手紙を送らねばならぬが……」
「まずここは大使館ではないのでいざとなれば我々は全員死ぬかも知れませんな」
ジマーマン外務大臣は平然とそんなことをいう。
さしものカスリットも唖然としているが、私も口を開けっ放しで大臣を見ていたと思う。
「大使館に案内できない理由がある、のならいいのですがね」
「例えば?」
「血まみれでとても入れたものではないとかですね。こちらを臨時大使館にしないのはバンサ伯爵の関係もあるのでしょうが。臨時大使館のまま大使館と合わせて運用するくらいはしそうだからでしょうね」
「ふん、そこまでせんわ」
カスリットでもしないのなら流石にと言ったところか。
正直やりそうだと思ってしまった。
大使館の土地を広くしろとかやって対立していたしな。そう考えると……やったか?
「それだけ信頼がないというわけでしょう。あるいは大使館の連中がそれに類似する言動をしていたか」
「奴らは国家の代表たる自覚がないのではないのか?所詮サミュエル王国に送られる程度の大使か。ガリシア帝国やヴェトオマー王国に送られる人間とは違う」
自画自賛か、ということはそこの連中は問題児ということか。
いいところがんじがらめに絡み取られているのだろう。ヴェトオマーは遠いからだろうが……。
「受け入れた割に扱いが悪いというのはこちらに非がある、もしくはそう思わせたいのでしょうが、まぁ受け入れざるをえなかったら仕方なしともいえますがね。それを調べるために関係貴族に連絡するとしましょうか。まず先触れを……招待のほうがいいでしょうかね?」
「招待のほうがいいかも知れませんね、敵対の可能性もありますから」
「ではスバリッツ子爵に連絡を取り旧交を温めるとしましょう。もっとも彼と友好関係だった記憶はないのですが。ロバツの関係だといえばさすがに会わざるをえないでしょう。随行員の誰かを向かわせましょう。関係ある貴族全員に連絡を取るのは後回しです。警戒されますからね」
「わかりました、スバリッツ子爵と面識のある人間に任せましょう」
「ではそのように。今の我々の仕事は連絡を待つことです。お茶でも入れましょう、おそらく1時間以上は待つでしょうからな、いやもっとかも知れませんよ」
ニコリと微笑んだジマーマン外務大臣はとても頼もしそうに見えた。
カスリットも天井を見上げた後パンと頬を張り気合を入れたように思える。
私はただただどうするべきかを考えながら手元のメモ書きをチラチラと見ていた。
レズリー「今回は無実ですねぇ」




