情報収集ができない
ひょっとしたサミュエル王国を裏切ったバツの悪さがその態度に出ていたのかも知れないが、その辺の裏切り、態度様々なものが重なりおそらくサミュエル王国内心で一番滅ぼしたい国家を上げればオーランデルクを上げる人間が最も多いだろう。
先代国王ハーバーいわく『ロバツのように始めから敵であるのなら致し方ないところはあるが、オーランデルクの如き裏切りは最も許せぬ醜悪さを醸し出している。ライヒベルク公爵などは格別であるが』とのことである。
おそらく先代ライヒベルク公爵も同じようなことを言ってそうなものであるが。
亡くなる前には偏心したとは思われる。
サミュエル王国としては緩衝国家もどきのクーゲンホルフを突破してオーランデルクを滅ぼそうとすればロバツの侵攻を招くので目下最大の敵をロバツにしていただけの話であり、ロバツが友好国に変わるようであれば容赦なくオーランデルクを潰しただろうし、クーゲンホルフに関してもロバツにくれてやってもいいと思うだろう。
ここで目下の敵を蛮族にしないところがサミュエル王国が崩壊する原因でもあるのだが。
だからこそミュヘル3世はサミュエル王国との融和を模索していたのであるが、悪いことばかりが重なる一方であった。
シャハトの失脚逃走、サミュエル王国から来たスバリッツ子爵はロバツ大使館と連絡を取りオーランデルクには見向きもしないどころか呼び出しても体調不良と合わない始末であった。ちなみにその前の大使も同じことをして多国の大使と会談を持つという有り様で最低限の仕事をした後は何もしない。
もっともサミュエル王国はオーランデルクに求めることなど滅亡くらいであり、サミュエル王国からしたらすでに大使館を畳んでいいだろうとすら思っているのだから別にオーランデルクの抗議も何もかもどうでもいいということだった。
さんざん支援をねだりロバツ寝返った挙げ句級に公国から王国になった、血族的にはこちらが偉いのだと上から目線でサミュエル王国大使に命令を出してサミュエル国王に履行させよと言われた当時の大使からしたらそうもなるだろうし、他の大使館も同じようにオーランデルクに接することはなくなった。
これを畏怖だととったミュヘル2世はロバツの影響力を過大評価しすぎていた。
そもそもサミュエル王国とロバツは敵対関係なのになぜロバツの威が通用すると思ったのかも謎である。
おそらく王国軍は負けてライヒベルク公爵家が勝ったから同じ敗戦国、得るものがあっただけオーランデルクは戦勝国という価値観だったのかも知れないがミュヘル2世が死んだ今となっては理由もわからない。
やはりバツが悪かったのではないかとしか言いようがない。
話を戻すとサミュエル王国に対して派遣された外交使節は中立派のボス、外務大臣のプラグドル・ジマーマン、いままさに王都入口の衛兵を罵るのは新大使であるオーランデルク至上主義者のカスリット・ベーネミュンデ、宰相が公使を任命する暇がなかったため副大使としてねじ込まれたサミュエル王国融和派閥のファース・ミュンツベル。
主要な3人とその他随行員である。
シュライヒャーが報告自体を握りつぶした以上は王都に情報が伝わっているわけもなく急に押しかけたオーランデルクの外交使節に困惑しているさまだった。
口汚く罵るカスリットの相手をする衛兵はうんざりしてるようにも思える。
繰り返すがサミュエル王国で一番滅ぼしたい国家を上げるならオーランデルクという人間が多いのである。そしてそれは田舎より都市部のほうが多い、そうなるとどうなるか?
衛兵ですら侮蔑を隠しきれなくなっていき、さらに悪化する。
「外交使節受け入れはそちらでしたことだ!我々はオーランデルク王国だぞ!この国の父でもある!」
「なぜ?」
「現国王はミュヘル2世陛下の孫である!それならば当然オーランデルクのほうが上だろう!」
かばう訳では無いが、彼はもとはガリシア帝国に派遣された公使であった。
つまり、大使より御しやすいとおだてられ、褒められ、傲慢さを帝国によって育んだ哀れな男である。
帝国がそれをした理由はロバツへの牽制やサミュエル王国や周辺国家への嫌がらせと言ったところであろうか。
そのため彼はこのようにどこでもオーランデルクの威が通じると勘違いしてこのように振る舞う。
衛兵はとうとう呆れたようにオーランデルクの使節を名乗る不審者が来ていると伝えるように報告をした。
心底侮蔑するように。
「後悔するぞ!」
吐き捨てたカスリットは使節団に戻り、愚痴をいい始めた。
愚痴を言い終わるとすっとしたようにプラグドルに向き合い話し始めた。
「なんたる不快か!この感じであればロバツがサミュエル王国と戦争になった一報は届いていないかもしれませんな」
ロンドニでロバツとサミュエル王国が戦争状態になった、あるいは決戦になったという話を聞いた彼らは情報収集をしようとしたもののオーランデルクの人間だということがバレると誰もが沈黙し、あるいは下に見る視線を向けた。
シュライヒャーの独断ではあるが訪れる街にオーランデルクの使者が来るのでエルーゼ王太女とロバツの戦闘は言わぬようにと箝口令を敷いていた。
なにせ歓待したのがシュライヒャーであり、使節団のルートも受け入れ要請の手紙から把握していた。この時点ですでにロバツは最終決戦に敗北する前日だったのだから。
彼らがロンドニについた時にはエセル捕縛の数日前にまでなっており、大急ぎで受け入れ案を出して返信が来たことを高速で場所を乗り継いだのだろうとすら思っていたのである。
仕事が終わったシュライヒャーは味方と合流してエセルを捕縛したので完全に手玉に取っていた。
シュライヒャー「これは使える」




