オーランデルク外交使節の訪問
「どうしたことか!サミュエル王国はここまで無礼を働くか!」
「新大使、ここは外務大臣の私の仕事だとも」
「いいえ、いけません!今のサミュエル王国には外務大臣は他国におります、ここでジマーマン大臣がでたらつけあがりますぞ!」
内心でそのようなことを聞こえるように言うからダメなのだと思って見ているのはオーランデルク外務大臣のプラグドル・ジマーマン。
サミュエル王国オーランデルク大使館職員殺害事件に対しての抗議と調査、あるいはそれ以上の何かをするために大急ぎで出立した。
外交使節の受け入れ要求をサミュエル王国は恐ろしいほど早い対応で了承したものの町中では特に歓迎のムードではなく、情報を仕入れようと思ってもまるで有意義な情報が入らない。
そのうえオーランデルクの外交使節と言うだけで殺意を持った目で見られ使節団は町中の買い物できない有り様で、情報を仕入れようにも何も得られず、ロンドニに置いてようやくロバツがサミュエル王国と戦争中であることを掴むという情報収集のまずさを露呈した。
これに関しては彼が無能なのではなく外交使節の受け入れ要求の使者がよりによってライヒベルク家の蛮族軍、シュライヒャー軍に補足されてしまったことであった。
シュライヒャーは元伯爵家当主にして次期宰相とも目された人間である。
さも当然というように出立をお聞きしてこちらに参りましたと王国旗を掲げて歓待し直ちに王都に送りますと言いそれを破棄。
その場で使者を歓待し、今は賊刈りの最中ですのでお気をつけください。と嘯き配下に偽造させた返書をわたして送り返した。
使者にとって不幸なのは相手がシュライヒャーだったことと、オーランデルク国王ミュヘル3世がとうとう大使達が暴走して殺されたか、あるいはサミュエル国王が乱心したのだと思いこんだため、会わずとも良いから外交使節受け入れ許可だけを取れ!と命じたのが運の尽きである。
前者であればオーランデルクは詰みである。後者であれば付け入る、あるいは融和に持っていく必要があるとの判断であったが。
先代国王ミュヘル2世は血族主義に凝り固まっており、先代サミュエル国王ハーバーに娘を嫁がせると義理の息子であるので血統は父である自分が上であり、その上ロバツからオーランデルクは公国ではなく友好国であり王国と認められたので対等ではなく上だろうと調子に乗り始めた。恐ろしいことに公国時代はこれでも自重はしていたのである。サミュエル王国に要請ではなく命令をしていたのに。
王国認定が自国の敗戦の結果であるというのにそれ自体はなかったことのように振る舞うさまはサミュエル王国からしたら呆れる他なく、そそのかしたロバツですら流石に煽りすぎて不安になるほどだった……。
ようするに負けたからには国民を納得させなくてはならなかっただけであり、それが『負けたが我々の強さにロバツが王国と認めた、外交上の勝利!』と喧伝し、なおかつサミュエル王国に父としてロバツと手を取り合うように指導してあげたというわけである。
もとより王妃の改革で一気に王宮のバランスが崩れ、急死により混沌とした宮中に王妃から引き上げられた人間が能力で地位を守り国王と政治劇を始めるさまはオーランデルクの陰謀としか言いようがなかった。
この次期はマシで地獄はハーバーの暗殺、ウィリアムの王位就任でさらに狂い始めた。
ミュヘル2世の孫ということで祖父のいうことは聞くべきだというオーランデルクの良くないものが出た。前でも命令であったのに今度は勅命である。正直周辺国にすら喧嘩を売っている。虎の威を借る狐なのに帝国にすら喧嘩を売っている愚策である。
もしも公国のままならもう少しマシだっただろうが、王国という同格扱いをされた以上は血統的に祖父である自分が上であり、すなわちオーランデルク王国が上であると公式に宣言した。
正直けしかけたロバツも引いた。そのせいかサミュエル王国とオーランデルクの緩衝国家クーゲンホルフを滅亡させオーランデルクに統治の代行を命じ、元王族の遠縁を置いてかろうじて国家の体裁を取りつつ独立国家として残して無関係を貫く始末である。そもそもオーランデルクの尻拭いで滅ぼされたクーゲンホルフはロバツとオーランデルクへの反発で統治すれば軍の維持、国境防衛線の広大化、と問題だけを抱えており元王族に統治方針を伝えるだけでオーランデルクにも責任だけとれと通達したためオーランデルクですらロバツに逆らえないので単なるメッセンジャー統治者に過ぎなくくなった。
そのため一応クーゲンホルフは独立国として扱われてはいるが完全に軽視されている。
さらに馬鹿らしいことにミュヘル2世の血族主義に追従する貴族が相次いだ。婚姻政策で支配する国もあるがとてもそれほどのことはしていないのにこれでは反応にも困るというもの。
そもそもロバツを蛮族扱いして婚姻政策すらまともにしていないのに王国であり国王であると殴られた後言われただけで尻尾をふるさまは他国からどう見られているのかわかっていないのだが。
残念なことにオーランデルク東方のパーデッツ王国は一時期オーランデルク公国の元宗主国であった過去があるため強くでられず、その上で王国宣言をしたので血統主義などを加味しても別段強くでなく、驚くべきことに謙虚さを発揮している始末である。そもそもオーランデルク公国も元を正せばサミュエル王国の伯爵だったはずなのだが……公国になったので過去の決別をしたのかも知れない。
なんにせよミュヘル2世の傲慢の結果、サミュエル王国は息子、よってオーランデルクを敬うべきという風潮が国家として当然のこととして残った。
ロバツ国王「は?まだ喧嘩売るんじゃねぇよ」
ミュヘル2世「何がですか?」




