追加の伝令にて
それはリストの処分をしているときだった。
大多数の処分は済み、巷には新王太女の大戦果を称賛する声が溢れていた。
ロバツ戦役の勝利は誤報ではなく、次々と第2、第3報告でも同じ報告がくればもはや確定したとも言えるでしょう。
だが流石にその報告は驚くしかなかった。
「…………本当ですか?」
「王太女殿下の軍がエセル・ロバツ、リルハジョサ・ハーン将軍を捕縛しました。敵は1万を切り完全に敗残兵となっております。また公爵家の兵がロバツへ侵攻中。オーランデルク攻撃も示唆しております」
完全勝利ではないですか……。
流石に飲み込むには時間がかかる。首脳部壊滅としか言いようがない。ロバツ国王もこの状況では降伏一択でしょうね。
15万の兵も良くもいたものだと思いますが……。
「そして前国王はエセルの手により葬られ、現国王はエセル。宰相はスカケルとなっており、ロバツは事実上降伏しました」
「…………は?」
「エセル女王の言うことにはあれが全力の兵力だから街の自警団もろくにいないということです。国境沿いはすでに陥落し、ロバツ首都アーバサダーへ進軍中であるとのこと」
「つまりロバツは軍を失い、国王が虜囚の身になり、抗うことはできないということですか?」
「はい、そうです」
流石にそれは想定外ですね。
ここまでの完勝は……。
「まずは公表すべきですね」
「ええ、そうすべきだと思いますが……」
とりあえずは宰相……父に報告をする必要があるでしょうね。
にしても何故こうも歯切れが悪いのでしょうね?
「まだ何か?」
「オーランデルク側を刺激する可能性があります。あちらは夢見がちですから」
「こちらの王太女も夢は見てますよ、夢を叶えることもできますが」
「いえ、動かした後公表した方が良いと思いまして。そうすれば叩く理由ができるかと」
「…………いえ、それは大使館の職員を殺害した際に……ああ、そうですね。そろそろ抗議の人間が来てもおかしくはないでしょう。ではすり合わせをするしかありませんね」
「ご随意に、臨時政務官殿」
クラウが送った伝令はそう言って戻っていった。
他にも行く場所があるのでしょうね。
宰相執務室には父とリューネブルク女侯爵が顔を突き合わせて書類を精査していた。
おそらく絶家になった家の公式記録の処分だろう。断絶なら復権にしろ功績を上げて適当な別の貴族に与えるなどすればいいが絶家は存在ごと消えるのだから慎重にせざるを得ないのですから。
今までに消えた公爵家も絶家扱いなので公的な記録は抹消済みだ。
「臨時政務官殿、悪いがこのとおりでな。大した用件ではないと思うが……外そうか?」
「いえ、リューネブルク典礼大臣のお力も借りるかも知れませんのでお気になさらず」
「私は仕事が増えるのか?おお、困ったな。それで?」
「まずは今日伝令から入った情報です」
そういうと2人は顔を見合わせて、その後こちらを見た。
「悪いか?」
「良いか?」
「良い情報でしょうね」
「ああよかった!絶家で管理書類が減るのは助かるがそこまでが忙しいのだ」
「エリーゼ王太女殿下がエセル・ロバツ女王を捕らえました。そしてリルハジョサ・ハーン将軍も同じく捕らえました」
二人は喜ぶより先に疑問を表情に浮かべていた。
どういうことだ?と言った表情でこちらを伺うように続きを促していた。
「またライヒベルク公爵家がロバツ王国へ侵攻中、首都アーバサダーへ向かっています。以上です」
「まずだな、エセル女王とは?」
「国王を弑逆しその地位についとのこと」
「…………なるほど?いや、ロバツ王家の父娘の関係は悪くなったはずだが?」
「そこまではわかりませんね、本人に聞いたほうがよろしいのではないでしょうか?」
「…………まぁ、虜囚の身だからな。聞いて答えていただけるかはわからないが」
「今のところ私が必要ではなさそうだな、それを友人たちに伝えてくれば良いのかな?」
「ええ、それもお願いします。それと大使館職員の殺害でオーランデルクが抗議に来ると思われます。おそらく使者も立てずにいきなり向かうでしょうね。国境はいきなりロバツが寝返らせたのでそちらから行くか、あるいは堂々と商隊のごとく向かってクリカでしょう。抗議ですし、途中でロバツ侵攻が順調であることや軍の話を聞いたら調子に乗ってくるのではないでしょうか?」
「当代はそこまで阿呆ではないぞ?」
「下は違うでしょう?外交関係は……むしろ大使館職員とは関係がよろしいのですか?」
「良くはないな、陛下もたいへん嫌っておられた。当代はともかく方針転換に大使館の人間の態度は悪いままだからな。過去のありもしない栄光と先代の態度を踏襲している。これこそ好機と大きな態度に出るだろうが……」
「新王太女殿下のことは?」
「仕入れていると思いたいがな。連中の血族主義的思考であれば新王太の部分でヴィルヘルム殿下だと思いこむだろう。王太女と聞く耳があればいいな」
「それはつまり?」
「新王太女がエリーゼ殿下であってもヴィルヘルムが新王太子として接して介入しようとするだろう。うまくやれよ?」
「じゃあ私はオーランデルクの艦隊の用意をしなければいけないのね?戦勝式典の流用でいいわね?別に先触れや外交打診でもないんだし」
「一応はそうですね、戦勝式典に来た敗北国家の愚か者というコンセプトでお願いします」
「悪辣ねぇ……。わかったわ、指示しておく」
マチルダ「前職だし暇でしょ、手伝って」
宰相「……わかった」




