会談にて
その言葉にバンサ伯爵は引っかかりを覚えたようであった。
どちらかと言えば私の話の切り出し方の問題でしょうね。
「ということはどうでもいい話しかしなかったということですか?」
「精神錯乱の域を越えていました、すでに正気ではありません、第2王子殿下相手に一度も正気にならなかったくらい」
「それは正しい、あいつ相手に正気でいたらそれこそ精神が錯乱してしまいますからね。そう考えると虚空陛下は適切な対応をしたのではないでしょうか?いやさすが国王陛下ですね、自分の息子のできの悪さをよくわかっている。いや、自分の子供じゃないかも知れないんでしたね。あんなのでも息子であってほしかったんですかね?私なら流石に恥じて縁を切りますけども」
哀れにも最後にすがった血縁ですら自分のものでもないかも知れないというのは流石に同情はしますね。まぁ……あの正確だから自業自得な出来事もあったのでしょうが。
最後の方はバンサ伯爵と言うよりピアでしたね。流石に貴族と素をころころ使い分けるのは私も困りますが……。
まぁ似たようなことをする人間が多いのでクセがある人間が増えただけだと思いましょう。
そのとき、コンコンとノック音がして先程のレズリー家の女性が紅茶を持ってきたと告げた。
タイミングを伺っていましたね?
「ええ、入ってください」
すでにバンサ伯爵の前には空のカップがあったのでそれなりにまたせたのかも知れない。
これが一杯目の保証もないですしね。
「失礼いたします、レズリー家に仕えております一人の人間にございます。この度は伝えておきたいことがありましてお時間を取らせていただいてもよろしいでしょうか?」
お茶を置いてでていくかと思われたレズリー家の女性は直立不動で私の後ろに立った。
「ええ、どうぞ」
ピアといえばバンサ伯爵の仮面すら捨てて続きを促すくらいだ。
多分聞いておこうという勘が働いたのだろう。
「良いのですか?」
どちらへの確認か曖昧な聞き方をした私にピアはお茶を飲みながらスルーする。
レズリー家の女性もニッコリと微笑むだけである。
どちらも良いらしい。
「先ほど国王私室の隠し部屋で第2王子と国王の面会を見たのですが」
レズリー家の人間が敬称も完全にないあたり個人的にも嫌っていそうだ。まぁすかれる要素はないと思いますが。
その言葉で察したのかピアはクスクスと笑っていた。
エリーと馬が合うと思いましたけどレズリーと馬が合いそうですね。
どっちも仲いいからそれは合うでしょうね……。
「国王は第2王子が自分の子供でないと確信を持っているようですね」
「錯乱では?」
「いいえ?リッパー男爵の表情と合わせてもそうでしょうね。もともとおそらくジキル・リッパー氏が王子の父親である可能性は先日のバンサ伯爵の絵画からも当たりをつけていましたが……国王が気がついていたのは想定外ですね。どちらかといえば国王はフリードリヒ第1王子がジョージ殿下の子どもだとは思っていたと思いましたが」
露骨に敬称をつけましたね。ジョージ殿下の評価は高く、フリードリヒ第1王子はそれなりと言ったところでしょうか。
「国王は未だに第1王子をジョージ殿下のお子だと思っておりましたね。ですが第2王子はジキルの子どもだと確信している。なぜでしょうね?」
「なぜと聞かれても……」
「確かに多少似てはいますが……どちらかと言えばグリゼルダ妃のほうが近いのでは?」
「間違いなく疑惑が確信に変わっていたからこそ錯乱していてもでてくるのですよ。いつ確信したのか、おそらくですが……リッパー男爵自体が寝返ったことで確信に変わったのでしょうね」
「しかし、意外と言えば意外ね。今更壊れたおっさんが何をしようと何を確信しようとどうでもいいでしょう?喧伝したところで……ああ、ジャックおじさん間に飛び火するからか……。いや飛び火どころか大本か」
言葉を取り繕うのに飽きたのかピアは気だるそうにそういうとクッキーをつまみ始めた。
「ええ、正直ってしまえば今更あれがどうなろうと押込てしまえばいいのです」
レズリーの人間も言葉を隠さずきっぱりと断言した。
「疑惑をそもそも持つには全くにていない等があるでしょうがそこまででもない。ではなぜ疑惑を持っていたのかという話ですね。それは簡単です、ここを抑えて記録を漁ったら王妃の部屋に国王がお渡りになった記録がありますが数分で終わっていますね。追い返されたことが大半、いても数分ですね。計算しましたが……出産と合いません。もちろん宿泊した日ありますが計算は合いません。それですら数ヶ月に1回」
「大問題では?」
「箝口令を敷いていたのでしょう、流石にこれを話せば死ぬから黙っていたのでしょうね。保身だけはできましたね」
ああ、だから第1王子に関しては……ジョージ殿下の子どもと確信を持っていたのか。
「まぁ、国王がお早い方という可能性もありますがね。宿泊した際は酒に薬でも入れられたのかも知れませんね。国王の血筋を残して貯まるかという思いがあります。もしかしたらまともな同衾すらしたことがなかったのかも知れませんね。いや、流石に初夜くらいは過ごしたかもしれませんが、それが原因でグリゼルダ妃が病んだとしたら結局自業自得ではありますね」
レズリー家の人間は何が面白いのか笑いながらそういった。
いい趣味してるなと思うとピアも鼻で笑っていた。国王に対するものだとはなんとなくわかった……。
ベス「!!!?」
エリー「ど、どうしたんですの急に」
ベス「王都にいたらいいネタが入ったかも知れない!」
エリー「そ、そうですの……そのうち聞けるのでは……?」
ベス「王家の記録も全部ひっくり返してるからおもしろい醜聞があったかも知れない!」
エリー「あなたの戦果考えたらいなかったらこっちが負けてたかも知れないんですけど!」
アン「諦めろ、発作だ」
シャーリー「発作持ちが言うならそうなんやろな」
アン「私は健康だぞ」
シャーリー「さよか」




