臨時政務官室にて
油をかけてまるで料理のように処刑される死刑囚Aを見ながらあくびを噛みしめる。
これが娯楽になるのは安上がりと見るか悪趣味と見るか。
数分ほど眺めていると係官が数人を従え戻ってきた。
樽や燃えやすいものを運んでいるのをみるにやはり意見は受け入れられたようだ。
死刑囚Aに藁や布などを乗せて上からワインをかけている。
もったいないような気もするが末期の酒と思えばいいだろう。それに質が悪くて売れ残っていたものかも知れない。
様子を見るに明らかに苦しみが増しているようではあるが、死後に動く現象かもしれず判別がつかない。
が、終わればあっという間だった。
「見届けました。謀反人にして、エリーゼ王太女殿下を貶めた罪人はかくのごとし。今後火刑の方法は名誉なくゴミとともに燃やすことにするようスペンサー司法大臣に提案いたします、火刑執行後ですがついでにゴミがあったら死体とともに燃やすといいでしょう、どうせ晒すのですから」
途端に上がるのは喜びの声。
我先にと捨てるものを取りに行ったらしい。王都で焼却処分できるものは限られるから処理しづらいゴミでも取りに行ったのだろう。
「では、戻りましょうか。王城へ」
護衛にそう告げ、馬車に乗り込むと私達を送る歓声が大きくなっていた。
これは処刑によるものではなくもしかして勝利したこととそれにケチを付けた死刑囚たちに対するものだったのでしょうか?
平民の心はわからない。
彼らだって私達の心をわからないでしょうが。エリーはどう判断するのでしょうね。
王城の一室に臨時で作り上げた政務官室。
そもそも政務官という役職が謎だ、エリーが言うにはワタクシが任じてそれっぽい名前なら実態不明で権限不明でも勝手に従うでしょうという話。
たしかに宰相である父が反発しない以上は誰が何を言っても問題はない。
たとえ国王陛下でも王太女の臨時政務官であると言えば具体的な説明を求められても臨時であるとでも言えば押し切れるかも知れないし、政務官という役職の職務は全域であると言い張れば宰相である父が頷けば通るだろう。
法的な観点で責められてもジーナに伝えて問題がないとでも送ってもらえばいい話だ。それを利用して陛下を追求するのもいいかも知れない。
いや、それをできる状態にあるのだろうか?
国王陛下はエリーが王太女になってから部屋から出てこないのですから。
隠し通路があって暗躍してる可能性もありますが……。出入りするのは侍従くらい。
流石に入れ替わっていたら近衛騎士が気づくでしょうし、引きこもっているか隠し通路から動いているか、意外ともぬけの殻かも知れません。
親子揃って部屋から出られない、出てこないでは……。
考えを遮るように扉がノックされる。
リッパー男爵の先触れだったため即座に会えるからすぐ来ても構わないとだけ伝えて待つことにする。
それから数分という短い時間でリッパー男爵はやってきた。
「キャスリーン臨時政務官殿、この度は時間を取っていただき誠に感謝いたします」
「いいえ、時期政権を支えるリッパー男爵の頼みとあれば喜んで時間を取りましょう。お掛けください」
「これはこれはありがとうございます。まずはエリーゼ王太女殿下の戦勝にお祝いを申し上げます。ぜひとも伝えていただきたく」
「ええ、エリーにはリッパー男爵がそう言っていたことを伝えておきましょう」
「おお、喜ばしいことです。来年には新王朝が誕生するのですから」
「ええ、私もどの地位につくのかはわかりませんが楽しみですね。お茶は?」
「では紅茶をいただきましょうか」
「ええ、王宮にはいい茶葉がありましたからね。権限で引っ張ってきたのですよ」
ベルを鳴らし入ってきたメイドに紅茶をいれるように頼むとりっぱー男爵の雰囲気が変わった。
「国王陛下は精神が極めて不安定な状況にあります」
「元からという話ではなくですね?」
「ええ、元からそのような日もありましたが今は常時不安定です。侍女をグリゼルダ王妃と間違えるほどに……」
「髪の色が一緒だったとかでしょうか?」
「いいえ、私をフリードリヒ第1王子だと思いこむほどに疲弊しております」
「それは……なんというべきか」
「いえ、この年で10代に間違えられるのは嬉しいものですよ。相手が精神の病気でなければですが」
御年60ほどのリッパー男爵を亡くなったフリードリヒ殿下と思って話すとは結構まずいかも知れませんね。
「公爵家を必ず潰せと言いながら誰もいない空間に向かってヘス伯爵と呼びかけていましたよ。亡くなった先代ヘス伯爵がいたのかも知れませんね」
「先代はそこまで王家に忠義が厚かったのですか?」
「いいえ?王国への忠義は厚かったと思いますよ」
「では幽霊が見えるわけでもないのですね、残念です」
「見えたから今まで追い詰めた人間に心を壊されたのかもしれませんが」
「我々ができなかったことを犠牲者がやっていただけたのなら喜ぶほかありませんね」
死んだ人間に怯えて心を壊す話は枚挙にいとまがないとはいえ、そこまで心が弱ければとっくに死んでいそうなものですが……。
「第2王子殿下が今日、国王陛下のお見舞いに行きます」
「ほう」
「おそらく近衛も弾かれて話されるでしょうが……聞く気はありますか?」
「おや、同席ですか?」
「まさか、勝手に聞かせていただくのですよ」
「それは国王陛下が知っている場所ですか?」
「いいえ、その場所は知りませんよ。陛下が知っている私室の隠し通路は塞いでおきましたがね」
「それは頼もしい、ぜひ聞きに行きましょうか」
ジャック「とうとう狂ったな」
ウィリアム「フリードリヒ、お前は国王になり公爵家を倒すのだ!ヘス伯爵補佐を頼むぞ!シャハト!シャハトは引き続き蛮族を支援せよ!」
ジャック「だめだなこれは」




