王都広場にて
吊るされる平民ビンの遺体は腐臭を放ち、石を投げられている。
今日ここに追加される人間達は皆震えており、とても貴族の立ち振舞いとは思えない。愚かなことですね。
覚悟もなく陰謀を起こすなど貴族としてはたいそう軟弱な連中だとは思いますね。
まぁ、第2王子の自称侍従などやってるくらいです。実際は従僕だったと言うには呆れましたが……。
まさか従僕程度が侍従を名乗り好き勝手してるとは思いませんでしたね。道理で皆が苦笑してるわけです。
父もそれはそれは……相手の地位が嘘であると見抜けなければ政治の世界はきついと言われて釘まで刺されました。
本来であればそのような虚偽を名乗るはずがありませんからね。
まぁ、愚かさも極まれば相手を倒す剣となるということでしょう。
まぁ、いい勉強になりましたよ、身分偽証する阿呆が出入りする王宮もあると。
「これより公開裁判を開始する!被告らは武器隠匿、及び謀反計画を立てた元メルケセル子爵、平民ビンと協力して……」
公開裁判と言っているがそもそもの裁判は公開されるものです。
ここは王都広場、憩いの場にして処刑場。
わざわざここで裁判をするということは結末は決まっているでしょう。
あの平民ビンの横に並ぶのことは避けられないでしょうね。
周りには多少の護衛がいる中、堂々とこちらに向かってくる女性がいた。
目を凝らすまでもなく服の意匠からしてレズリー家の人間のようだった。
「ご一報でございます」
なるほど、いい情報か悪い情報か……。
ええ、とだけ言ってレズリー家の人間が接触してきた為、席を外すことを護衛に合図する。
自然に、何事もなく急いでる姿を見せぬように。
王都の簡易裁判から距離を起き、騎士団詰め所に入ると騎士団の人間が何かを察したようで離れていく。
バルカレス騎士団長の教育が良いのでしょうね。
女性同士であれば扉は閉められる、気の利くことです。
男性と二人きりであれば開けておかねばなりませんから……。
人目につく場所ではそうせねばなりませんからね、騎士団とて誰かが通じてる可能性もゼロではない。
エリーあたりが疑惑をかけられたらこの体が清いか確かめてみるといいですわ!くらいは言うかも知れないが私はやりたくはない。
「それで?何かありましたか?」
「ベシャハンにてエリーゼ王太女殿下の軍がロバツ軍と衝突。3日間にわたる戦闘の末に勝利、クラーク将軍、ブース将軍、エルティア伯爵を敗死させました。またエセル親衛隊を壊滅させピジャ親衛隊長を討ち取りました。他に高名な人物として不死身のバルドレー、ハーン将軍の右腕であるベンジャラも同様に討ち取りました」
「なんと!」
思わず声を上げるほどの大戦果だ。
そもそも戦闘をすでに開始していたとは思わなかったが。
それほどまでに敵が揃っているとは!
「それで大戦果はわかりました。詳細は?」
声を戻すもののやはり醜態をさらしてしまった負い目がある。
エリーではあるまいし何とはしたないことか。
「敵15万を敗走させ、敵に残った兵は逃走した1万足らずであるとのことです」
「15万?」
「はい、初日はほぼ同数の対決でしたが、2日目に敵が攻勢を開始し、そこから押し返してクラーク将軍を討ち取りました。そこから勝利にあと一歩というところで敵の増援7万が到着して後退。最終日にキサルピナ騎士長の増援5万が到着し一気に押し返し、エセル軍、ハーン軍を敗走させブース将軍を敗死させました。そして以降の追撃で主要なメンバーを討ち取ることに成功しました」
「大戦果ですね……遭遇した報告は?私は聞いていませんが」
「戦地での人員不足もありましたので戦闘終了までは正式なものは送っておりません。簡易な連絡のみのものが宰相閣下の元に到着してないということは大きく安全を取って迂回してきた可能性が高いかと。王国軍の援軍を派遣されたくなかったので苦渋の決断かと思われます」
エリーらしいと言えばエリーらしい。
それで失敗して戦争に敗北したらどうするのだろうか、失敗する様子が浮かぶのに負ける姿が浮かばないのは今までの活躍のおかげか?」
「主要な人間は撮り逃しましたが、戦果十分としてエリーゼ王太女軍は再編と撤退の準備中です」
「なるほど、では次はどうする予定かお聞きしても?オーランデルクの占領?ロバツの接収?」
「不明です、伝令が送られたときはあくまで決戦の戦果報告でしたので」
「なるほど、わかっりました。この話はもう表に出していいと考えても?」
「はい、なるべく宰相閣下にお先にお伝え下さい。私はイデリー伯爵令嬢に伝えるように頼まれましたが、その後は宰相閣下にイデリー伯爵令嬢が伝えるように頼むよう命ぜられております」
「なるほど……わかりましたわ、では私は父の執務室へ向かうとしましょう」
私の功績とすることか。
なるほどな……。戦場での功績がないから気を使われてしまったわけだ。
「では私はこれで」
「……そうですか、ありがとうございます」
私一人に報告させることで省の役人にに存在をアピールしろとまでいうことでしょうね。
私を見る目は宰相の娘であって自らの実績に乏しいですから。
広場に戻ると裁判は予想通りの流れであった。
「第2王子の証言でも被告が関与していたことは明らかであり……」
売られたことに気がついた自称侍従の十僕達はなんとか藩老をひねり出そうとしていたが叶わぬようであった。
なにせどこまで第2王子が漏らしたのか、あるいは覚えのない罪を押し付けたのかがわからなければ迂闊に切り込めない。
ここで発言を邪魔すれば心象も悪くなる、これだけいるなら罪状次第では死罪を逃れられる可能性もあるのだから……。
残念だが全員絞首刑が決まっている。
エリー「キャスはワタクシを何だと思ってますの……?」




