王都にて
「木っ端共だな、どこぞに売ろうとしておる」
父の小馬鹿にする発言を聞きながら私は資料を見た。
第2王子付きで働く貴族のボンボン。問題を起こして行き場がないタイプですね。一蓮托生にしてもこうも……。
「わかるか?」
「糸を引くのは国王陛下ですか?」
「陛下にそのような判断力は残っておらんとも、今や失意の内に閉じこもっておられる」
「国政に問題はないのはいいことです」
「いうようになった、それで?次の回答は」
「では第1王子のですか?」
「だろうな」
この期に及んで出てきたのか。
今動くということはフリードリヒ殿下の傘下で反公爵家として向かい入れられた人材か。さて、どうするべきでしょうか。
アーデルハイドがうまく抑えるかフリードリヒ殿下がうまく立ち回るか、圧力をかけるためにどうにかする場合の人材でしたが……。
お二人が身罷れた今となってはすでに権力からも遠ざかっているというのにまだあがきますか。
なかなかやりますね。
「どちらを?」
「大本を先に叩く、わかるか?」
「メルケセル子爵、ストラトン子爵だと思われます」
「そうだ、よく学んでいるな。その調子だ……」
「メルケセル子爵は武器隠匿の疑いがあります、フリードリヒ殿下の命令だったたとは言え今はもうおられまっせん。それを保持しているのは違法と言えるでしょう。しかしストラトン子爵の方は……」
「お前は手落ちだな、女性だからか?」
「……」
ひどい侮辱を受けたような気もするが実際に手落ちではあるので何も言えない。
しかしそう言うということはどこか彼らを処分できる罪状があるのだろう。
ここは大人しく頭を下げるしかない。
「わかりません」
「金と女を追うのは基本だ。そして大抵の場合……特に独身の男がどちらにも興味を持たないというのは稀だ。もしくは男ということもあるが」
「しかし、王都の高級娼館の顧客に名前は……」
「そこに通えるほど宮廷貴族は金はない。ストラトン子爵は下級娼館に通っている」
「下級ですか?しかし……」
「貴族であっても中級くらいは使う人間が多い。それこそ若い時分のときとかもあるが顔が割れることもある。だが下級娼館は顔が割れないという理由で上の貴族も使うことがある。まぁ病気をもらうこともあるが……」
「その情報はどこから?」
「あの顔の水疱は性病だ。そのようなことになるのは場末で酒場の女でもくどいたか下級娼館だと相場が決まっている。少なくとも貴族間で女癖が悪いという話はない、つまり手を出している、発散しているのは耳に入らない場所」
「なるほど、水疱ができるほどの期間があれば、酒場の女が原因の性病ならばそれが拡大してる可能性があると言うことですか」
「そうだ、下級娼館は市民にも危険だと認識されているからまず妻がいる男はいかん。病気でももらってしまえばまず離婚して金を取られるからな、行っても中級だ。そして大事なことだが得てして治療費というものは中級娼館数回分よりも遥かに高く付く、貧乏でもなるべく避ける。わざわざ行くのは中級娼館すらいけない人間だ。これでまだ王太子傘下として残っていたのであれば娼館通いも中級に切り替えられたであろうがパッとしない上にフリードリヒ殿下夫妻の事故死、主要な人間が出ていった以上は娼館通い自体が状況もわからず遊んでいるという認識になる。なにせフリードリヒ殿下の死後連中は不甲斐なかったからな。貶める話であれば利益がなくてもするだろうさ」
「嫌われていたのですか?」
「お前たちが思ってるよりは嫌われてはいたさ。だか第1王子殿下はそれをも気にしていないようだった、アーデルハイド嬢もな」
見えないところではとてもきな臭いことが起こりつつあったのでしょうね。
あるいはエリーは知っていたのか。
「とにかくやつが下級娼館通いしていることは間違いがない」
「しかし、まだ判断が早いのでは?」
「ああ、そうだな。ではこう言おう。ストラトン子爵の顔にはまだ水疱がある、少なくとも1週間以上な」
「つまり病院に行く金が無いと?」
「そのようなことはないと思うがな、治療までの間隔を考えたら……。ギリギリまで下級娼館で遊んでる可能性もあるな。もしくは……」
「もしくは?」
「思った以上に下級娼館に通っていて本当に金が無いかだ。パン1つの金額だからな。相当散財してるかもしれん」
なんともまぁ……情けのないことですね……。
「馬鹿なのでは?」
「優秀であればもう少しなんとかなっていただろうさ……。元第1王子の派閥はどれほど公爵家に合流している?」
「主要な人間はすでに……」
「その報告は聞いていなかったな」
「いちばん大事な情報は伏せておくべき。でしょう?」
それが父であるあなたの教育です。
「そこまでできるのならいいだろう。まぁ娼館周りの話など貴族の令嬢が知っている知識ではないだろうしな。高級と中級を理解していただけいいだろう。だがアーデルハイド嬢やエリーゼ王太女殿下ならおそらく知っていたぞ。水疱のことを知れば即座に当たりをつけただろう。あとはマッセマーの娘もだろうな。いうまでもなくレズリー家も」
「アンやベスも知っていそうですが」
「何?ああ、そうか軍人貴族の家だからな。下級軍人が病気をもらってきたら大量感染の可能性もあるか。つまり今のお前に抜けてる視点は男の目線というわけだな」
いや、アンは多分小説の知識としてのほうが強いんじゃないでしょうか……?
でも軍事系貴族だからちゃんと知ってるかも知れないか。
アーデルハイド「自爆させたら処理が楽になるわ、せいぜいこき使うべきね」
フリードリヒ「使い潰すつもりは流石にないよ」




