エセル敗走記8
「事の起こりは百年ちょっとくらい前でしたかしら?貴方がたはサミュエル王国の藩屏であるどこぞの公爵家を突破して建国に成功した」
「いいや、圧政を働く公爵家を打倒し建国したのだ!」
エリーゼ・ライヒベルクは鷹揚に扇子で自身を仰ぎながらこちらをニヤニヤと見ていた。
「圧政ねぇ……。敵国に囲まれる中で圧政を働くバカが居るわけ無いでしょう?オーランデルクはあれで、デルスク共和国は政治的に相容れない、パーデッツ王国とは利権対立で揉めていた。そんな中で悪政を働く?ばっかじゃありませんの?」
「サミュエル王国だぞ?馬鹿に決まっているだろう」
「馬鹿はあなたですわ、サミュエル王国というものは部下に権限をと権力をもたせることを極度に恐れていますの。利用できる人間は利用して脅威を感じたら使い潰す、それがあの忌まわしい血族ですわ。悪政など働けばそれを理由に潰すに決まっているでしょう、ワタクシ達、ライヒベルク公爵家以外の公爵家はそうやって滅ぼされているのですわ」
「ほざけ!」
「なら言い方を変えましょうか、弾圧されて立ち上がったあなたたちの武器や食料はどこから来たのかしら?」
「さてな、産まれていないからわからないな」
「そうでしょうね、あなたの年齢に10倍、は多すぎますわね。9倍か8倍くらいの年数も昔ですもの。というより昔は隠していなかったじゃないですの。北部を抑えて南下して公爵家を自刃追い込み独立した。なんで蛮族に挟まれた北部の名もなき貴族でもない人間が蜂起して勝って食料の差配まで完ぺきにできるんですの?まぁ軍事と政務の天才だとしてもなんでサミュエル王国は援軍を出さなかったんですの?なんでライヒベルク公爵家は助けに行かなかったんですの?答えは簡単、あなた方は蛮族で遠交近攻をしていた、そして南下にあわせてライヒベルク公爵家北部の蛮族を動かした。貴方がた蛮族では弱い方だったんですって?そりゃあ必死ですわね、そこで自力で勝ち切れるかわからないから他の蛮族の協力も頼んだ、そうでしょう?」
「ガセだな、ロバツを貶めるためのその話を飲めば助命するとでもいう話か?」
「いいえ、ただのおしゃべりですわ。そしていざ独立を勝ち取った際にこの弱さならいいだろうとサミュエル王国の臣従を拒否した。建前の独立理由は何だったかしら?悪政を正すため?その理由だと臣従拒否はサミュエル王国そのものが悪政を働いていたことになりますわね?」
「違うのか?」
「まぁ違うとも言えませんけど……」
微妙に嫌そうな顔をしているエリーゼは話を辞める気はなさそうであった。
「まずかったのは協力した蛮族と手を切ったことですわね、本来なら協力の例として土地の一部を渡す予定だった。それをサミュエル王国との戦争が長引くと断って、元は援軍だったのに自分の臣下としてこき使った。そしていざ支払いの時になるとすり減った蛮族の協力者たちに小銭を与えて返した。まぁこき使いすぎて援軍の各蛮族部族主力が大量に死にましたからね。そして反対したものを数で押して殺害した。まぁそれなりに逃げられましたけどね、というより流石に国家の軍事力相手では大人しく泣き寝入りした未亡人が多かったから当然と言えば当然ですわね」
スラスラと話し始めるエリーゼには別に被虐趣味があるようには思えなかった。
ただ知ってる事実を垂れ流しているだけ、それだけのように思えるほど淡々としていた。
「次に蛮族であることを最初は隠さずに下手くそな外交をしたことですわね、面と向かって非礼を働いても迂遠な注意では伝わらなかったから直さなかった。だから国際的に孤立した。気がつけば全方位が敵になり蛮族で運用するのも限界になり、ようやく滅ぼした公爵傘下の人間を雇用し始めた。そこで建前だけは何とかなり国号も決まり……ロバツ王国を建国した。ロバツなんて貴族はサミュエル王国には存在しませんでしたわ」
「記録を抹消したのであろう、貴様らのやりそうなことだ!」
「個々の貴族としてはそういうこともあるでしょう。管理上滅亡すれば廃棄もありますわ、でもそれは現状のものであって過去の記録上のものは別ですわ。当時のあのなんとかかんとかいう公爵家の貴族の傘下の中にロバツと言う名の貴族はいない。それは真実。そしてその公爵家が戦っていた蛮族の族長はロバート。これが公文書の記録ですわね」
「だとしたらそもそもなぜ落ちたのだ、蛮族といえども……」
「寝返らせたからでしょう?エルティア伯爵を筆頭に。一部貴族はサミュエル王国から許可を取ったと言って、まぁ真実ではあったのでしょうけど。公爵家を減らしたがってるのは確かですし、臣従して税を払うのであれば公爵も蛮族も大差ない、王位を狙えないだけ蛮族のほうがいいかも知れないとでも思ったのでしょう。あの血筋ではそれくらい思っても不思議じゃないですもの。しかし、結果的にそれは破られた。建国時の騒動や今も潜在的な王家との敵対貴族はそれでしょう?まぁ、見て見ぬふりをして寄り親の滅亡を眺めて静観までした後で復帰してもボコボコにされるのが見えているので涙をのんで黙っていた貴族が多いでしょう、実際国境沿いなどではサミュエル王国への復帰を画策する貴族を色々処分してたみたいですしね。今は状況が逆なのは笑いどころかしら?ワタクシたちも戦場で綺麗さっぱり処理しましたけどね」
ロバート「サミュエル王国が公爵家を倒す支援をくれたぜ」
ライヒベルク公爵家北方蛮族「わけて」
ロバート「いいよ、そのかわりこの時期にライヒベルクを攻撃してね」




