エセル敗走記2
「この数では王国軍から補足されましょう」
「かといって食糧事情をなんとかせねば餓死だな。我々は森で狩りをしている」
「ああ、確かに疲労も限界ですからね」
「数日ここで食料を取りつつ休息を挟む。なるべく3日ほどで移動したいところだ。街道沿いの兵を吸収せねばならぬかもしれん」
「組織だった兵かどうかまでは我々もわかりません、増えていているのはわかりますが……それを確かめる術がありませんので」
「構わぬ、弓ができる兵と、矢が残っている兵に狩りをさせてくれ。この数では森の動物が逃げ出すかも知れぬが」
「地図では広いはずです、いっそここから南に抜けるのも手ですが……」
「ここは北に寄り過ぎだ、難しいかも知れぬが……それ自体は手法としては確かだな、問題は南部のほうが王国軍が入る確率が高いということだが」
「……オーランデルクですか」
「そうだ、もう負けたかもしれんがな」
「…………心底使えぬ国でしたね」
「言うな、操り人形はバカのほうが楽だったのさ」
そこからは臨時の打ち合わせは終わりであった。我々は今日休み、明日鹿を取ると向こうが決めただけのこと。
ブース軍の指揮官の一人であったこのマンキーウィッツという男は元は100人ほどの兵をまとめていたらしいが、現状500人をまとめているので才覚があるのだろう。
なんともまぁ頼もしいことだ。
500も合流したらもう秘密裏になどはどうにもならぬが、王国兵がうろつく中では数が多い方が良い。食料がない以上はどうにもならないからな。
とにかく動けるものを狩猟に駆り出し、鹿などを狩る。
私も動けるものだから狩りには行くのだが……。
2日目、同じく狩り続ける。
マンキーウィッツのことはあまり知らないことと、実際のすり合わせを行えばならないために今日も話し合いをする。
親衛隊も聞きたがっているため同席させるがおそらく口を挟むことはないだろう。
「保存食にしたいのですが……干し肉にするとしても道具もありませんし、撤退しつつ肉を持ちながらというのは難しいかと……」
「武器を捨てれば結局どうにもならぬし、食料を持たねば結局死ぬ、ままならぬな」
「略奪は……」
「王国軍を呼び寄せるだけだ、どこにいるかもわからぬし、誰一人逃さずと言うには兵が少ない。数十人の村でも誰か狩りにでていたら逃げられる。行きに徴発した部隊もあるだろう、今度来たら真っ先に逃げるか火でも掛けるかもしれんぞ」
「……でしょうね、回収した兵からの証言だと武装した村人集団が殺しに来たことがあったと、なんでも兵一人に銀貨1枚で交換すると、指揮官級であれば金貨1枚で買い取ると喧伝しているようです」
「我々の首は子どもの遠足で使う金と同じか……」
「我々なら金貨1枚でしょう。陛下なら何枚かわかりませんが」
「案外一律にしてるやもしれんぞ?差をつけると自称国王を大量に送りつけられるだろうからな。あるいは逆で自称国王がそこらじゅうで暴れる間に余が逃げるかもしれんからな」
「ああ、なるほど……。確かに国王陛下を捉えたものはとは聞いていませんでしたからね」
「連中は頭が回るな、率先して我々の首と引き換えでで臣民を潤わせたいらしい」
軽口を叩きつつ、もしかしたら私が無様に逃げることを想定していなかっただけやも知れぬと思いたい心がある。
くだらぬプライドだな。
昼をすぎるとそれなりの食料が取れた。
イノシシ相手に数人が犠牲になったものの致し方ないだろう。
うり坊含めて3匹、流石に焼け石に水ではある。500人賄えるとは思わないので捜索範囲を増やす。
野草に詳しい人間も引っ張り出してとにかく食えるものを探せと走り回る。
携帯食料の雑穀バーなどよりは肉のほうがよほどいい。
野草の方は大量で自生地があったらしい。これも保存用に回したいがどうだろうな?
自生地の野草を根こそぎ採集するのに後1日だろうか?
肉ももっとほしい、臨時徴兵自体は猟師などがいたためとりあえず肉の配給を多く割り当て頑張ってもらう。それなりには取れるがやはり数が数だからな。
「野草をすべて採集して、街道から逃げてくる兵を回収していますが……」
「どう進むかだな。明日にはもう出立するべきか?」
「地図上では街道沿いの村はしばらくありませんし、あったところで危険でしょうね。敗戦の一報は入っているでしょうし」
「その場合は山越えもせねばなる、国境貴族は全滅しているからそちらを通ればいいのだが……」
「グリンド侯爵領は避けねばなりません」
「少数とはいえ顕在か、あるいは逆手に取って突破をするのも……」
「戦闘能力が無きに等しい」
会議は進まず、踊らず。
いいところがない。にっちもさっちも行かないのは当然ではある。
「まずは食料。軍においていちばん大事なのは食料ですからな」
「もはや軍かどうかも……」
暗い空気の中で外が騒がしくなる。
「何だ?今度は熊か?」
「熊なら腹は満たせるやも……」
「矢はあるのか?」
飢えた軍隊は役に立たぬことがよく分かる。
報告を待ちたいが、それができる人材がいるかも危ういな。
「どうした!何があった!」
「敵襲!敵襲です!」
その言葉を聞いた途端に立ち上がり武器を手に取るあたりはまだ大丈夫そうだ。
真っ先にその可能性を浮かべるべきであったのに呆然としていたあたり我々は大分だめになっているのだな。
「どこからだ!」
「こちらです!」
方向も何もわからぬがそういうのだからそうなのだろう。
キサルピナ「問題はありません、少数騎兵で追撃を続行しております」
エリー「ほどほどでいいですわ」
キサルピナ「はい、ほどほどにしております」
エリー「あっさりですわね」
キサルピナ「必要でしたから」




