エセル敗走記1
我々は敗北した。
圧倒的に敗北した。
鎧もなく敗残兵に紛れた国王としてとぼとぼと敵地を歩く。
街道に出るのに後どれだけかかるのか?
「もう少しです、街道にさえでられれば……」
「もうダメだ……置いていってくれ」
「なぜこんなことに」
臨時徴兵以外の兵も逃げ出していたのは追い抜いていくときにわかる。
戦争とはそういうものだ、どれだけ鍛えていても負ければこうもなる。
我が国の兵士も前方に必死で逃げているのが見るし、地に伏しているものもいる。
寝ているのか、死んでいるのか、そもそも今日の戦で逃げたのか、昨日逃げ出したのかもわからない。
明確に死んでるであろうものもいる。
サミュエル街道に出るとまた死体がある。
ここまで来たことに安堵したのか、街道側の木に寄りかかりそのまま絶命してる負傷兵をみかけ、街道の真ん中で死んでる人間もいる。
敗残兵狩りがいないことだけが救いだが……。
「ここまでくれば後は道なりですな」
「…………ああ」
「もう少し兵力があるか馬があれば……」
「無理であろう……村を我々だけで襲って徴発するのは現実的ではない」
「馬がいるとも限りませんしね」
「多少の食料はあるが……携帯食料のみか」
「申し訳ありません……」
「いや、戦中食えないことはある。数日ほど食えないほど気にするな」
それから会話少なく数日、街道を進み続ける。
追っ手はまだ来ない。
死体は増える、味方は減る。
死体から弓矢を奪い、狩りもしつつ、逃げながら心が疲弊する。
追い抜かれることはないが、追い抜く相手は死んでいるか、疲弊している。
「置いていかないでくれ……俺も連れて行ってくれ……」
「助けてくれ……」
「家族に……あ……」
「どうして俺がこんな目に……」
「戦わないんじゃなかったのかよ……」
追い抜く人間の怨嗟の声を聞きながら前を向く。
ここで止まれば親衛隊を犠牲にした意味がない、戦場で死んでたほうがマシであった。
かといってそれは責任放棄でもあることはわかるが。
最後の最後までエリーゼ・ライヒベルクを討ち取ることに傾注したほうが良かった。
いや、振った犀は戻せない。
今更言っても仕方がない。後ろ向きで嫌になるな。
「流石に食料が尽きるのはまずいな」
「ウサギでも狩りましょうか……死んでいた兵士のお陰で矢が増えましたからね」
「数日かけたいところだな、ここを抜けると野生動物がいるか怪しい」
「そうですね、敗残兵として昼夜を問わず逃げ続けましたし……少しばかりを休ませないと」
森に入り数日の野営、もとい食料調達を実行する。
この時点で逃走時5人であった集団は30人を超え発見されやすい集団となり、食料消費も増えていった。
臨時徴兵らしき兵も交じるが正規兵も多い。
狩猟1日目が終わると森の入口で見張っていた親衛隊員がブース軍の兵、約500を発見。
「陛下、ご無事でしたか」
「お前たちも良く無事であった……」
「ブース将軍は丘の反対側まで防衛戦の指揮を取っていましたが武運拙く……戦死なさいました。敵軍はブース将軍戦死の方を聞き追撃を停止していましたが……」
「長くはないか、どれほど持ったのだ?」
「いえ、街道に直線上に移動せず多少の迂回をしたので時期的には同日中の敗退です。我々が敗北した際には陛下の軍が敗北したとは敵も喧伝しておりませんでした」
私はそれより前に脱出していたからな。
かといってそれを言う事はできない、500の兵が王が真っ先に逃げていたと知ればここで討ち取る可能性もあるだろう。
臨時徴兵らしき人間も見えるのはそこまで防衛で持っていたということだ。
「敗走後に兵を回収はしましたが何分……我々が来ると逃げる兵も多く……」
「余の不甲斐なさだ……」
「そのようなことはありません。ロバツへ撤退できれば再起も図れましょう……陛下、鎧は……」
「今までの忠勤の礼として持っていかれたよ、鎧と旗程度では今までの功績の10分の1の価値もないであろう……。親衛隊の根幹部隊を失ったことのほうが鎧なぞより遥かに大きい損失だ……」
鎧を捨ててまで逃げてきたのかと言われてるようだが、実際は野盗にでも身ぐるみ剥がされ犯されたされたのではあるまいな?という確認であろう。
誰かもわからぬ子を孕んだらロバツにとどめを刺すことになるからな。
その場合は忠誠としてここで殺されるだろう。
少なくとも子が生まれなくても盗賊に犯された国王など外聞が悪いどころではない。
頼むから戦死したことになってくれということだろう。
私の死体か、もしくは生きて縛った状態でサミュエル王国軍と一戦交えて殺害したあと討ち取られたと降るか、戦い抜き死ぬのであろう。
忠誠心あふれることだ。
彼らが私を王国軍に差し出し助命を乞うとは思えない、下っ端ならともかく部隊長レベルであればそれくらいはわかるだろう。
エリーゼ・ライヒベルクがそれを評価するわけがあるまい。
臨時徴兵がそれをしたのであれば高評価であろうがな……。
「陛下、ロバツに帰れば再起は図れましょう」
「そうだな……」
無理だとはいえなかった。親衛隊は察している。
この部隊長がそれを察しているのかまではわからないが、少なくとも泣き言は吐けないだろう。
「食料の不足が問題でな、そちらは?」
「こちらも不足しています、略奪しようにも村もありませんし、そこまで行くよりはまっすぐ逃げたほうがいいですしね、数が数だから補足されてる可能性が高いのです。少数の暴走兵ならともかく、部隊長の率いる500名が村を襲ったとなれば今後捕虜は取られないでしょう、ロバツという国は士官教育もできないのだと。帰国が叶えば捕虜の引き渡しも可能でしょう」
「ああ、そうだな」
そのための金すらもうないのだがな……。
そもそもどれだけ生き残ったかもわからぬ。
エリー「再編がんばりますわ」
ローズ「負傷兵含めてボロボロなんですけど」
マーグ「同じく」




