表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワタクシこそがトップに立つのですわー!  作者: MA
ロバツ王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

435/561

敗残の女王

「グスマン閣下がエリーゼ・ライヒベルクと決闘、一撃で討たれました」

「ばかな……一撃だと……」

「わずか一振りで……無念です。前衛は崩壊いたしました……」


 グスマンがたった一撃だと……?決闘で時間も稼げず……?


「ブース軍!崩壊しつつあり!」

「ハーン将軍突破はまだ叶いません!」

「中軍左翼、敵攻撃により消失の危機にあり!」

「支給を!至急来援を請う!」

「……散歩どころか家の外に出ることができなくなったようだ」


 どこもかしこも崩れかけ、これで終わりだ。


「エリーゼ・ライヒベルクが前進。最前線で鼓舞をしています」

「…………弓で狙えんか?」

「弓兵はほぼいませんがやってみます」


 無駄でもやっておけばなんとかなるかもしれない。


「突破のため……」

「グスマン戦死の一報を聞いてこちらに来ました。我らが必要ですな?」

「ピジャ親衛隊長か」

「旗をお借りしたい、陛下の旗を」

「なかなかに卑劣ではないかな?」

「向こうも昨日やっていたでしょう、旗より御身が大切でありますれば奪い取って行動を起こしても構いますまい」


 国王旗と私の旗を持って突撃するか。

 私だけ生き残ってももはやどうにもならぬのだがな……。


「スカケル宰相殿下とともに立て直してください、確かに痛手は大きいですがまだやれます。国土を盾にするもよし、蛮族と和平を結ぶも、援軍を借りるも……いっそ戻るのも手でしょう」

「いいや、最後はないだろう。我々はようやく国家として他国に認められたのだ。いまさら誰が戻ろうというのか」

「ならばご決断ください」

「…………」

「鎧一式、国王旗、エセル・ロバツ旗を親衛隊に下賜していただきたい。陛下には……安物の鎧でもきていてくだされば結構。我々の献身はそれを下賜される……それほどのものであると自負しておりますぞ」


 悪い言い方をしながら囮になると言い切るピジャを見ても決断が鈍っていた。

 逃げなければいけないことはわかるのに……親衛隊まで失い、すべての将軍を失ってしまいそうな今……本当に私だけが逃げ延びていいのかと今更思う。

 しかもこのような方法であるからこそ決断が鈍る。

 堂々と撤退できるのであればまだしも……親衛隊を囮にして、国旗も鎧も渡して影武者を立てるような……そのような方法で逃げ帰っても、もはや私は……。


「さぁ!ハーン将軍ですらあの状況では危ういですぞ!スカケル殿下だけにすべてを背負わせるつもりですか!」

「手持ちがなくば今後はないぞ?せめて親衛隊は残さねば……命惜しさに逃げ帰ったというのは他国から、特に蛮族からは今後舐められることになるぞ」

「無用!陛下さえ守られればまだ手はあります。陛下がここで討たれるか虜囚になられればそれこそおしまいなのです!モンセイユ!」

「御免!」


 羽交い締めにされた私はズルズルと引きずられ、親衛隊員に鎧を脱がされた。

 これでは負けて犯される女と変わらんではないか。

 鎧を脱がされギャンベゾンのみになった私は一般の兵士のように戦うには心もとない小さな槍を渡された。


「剣も拝領いたしますぞ!」

「モンセイユ!お前が着ておけ!」

「今から私がエセル・ロバツだ!全軍、エリーゼ・ライヒベルクの首を取りに突撃せよ!臨時徴兵の生き残りは撤退を許す!後衛部隊とともに落ち延びろ!」


 親衛隊兵士に追い出されるように本陣を出された私は、監視要員の親衛隊士に引っ張られるように後衛の部隊や、生き残った補給担当官や輜重兵のもとに連れて行かれた。


「以降親衛隊以外の軍は自由行動とする!撤退すべし!この戦争は負けだ!」


 途端、狼狽する輜重兵や戦闘兵であるが察してはいたようで脱出の算段を即座に立て始めた。


「左翼は蓋。右翼もまた危険。正面は無理……。バラバラに逃げるしかないな」

「敗残兵を追うどころではあるまい」

「前衛も崩れたそうだが逃げるものは追わないらしい」

「よし、では逃げるとしよう!」

「物資は?」

「食料だけ持っていけ!」


 精鋭でなければこんなものか。

 ……ダメだな。


「では我々も逃げるとしようか」


 私をひっぱってきた親衛隊員がそういうと、思い切り手を引きながら逃げ出した。


「ブース軍が粘っていてくれるからこそ逃げられますね、これでこの方面に本体で突破しようとしたら逆落しで壊滅していましたよ」

「…………不甲斐ないことだ……どうしてこうもうまくいかないのか」

「相手に読まれていたのでは勝てるものも勝てませんよ、再起を……帝国を抱き込むことすら考えざるをえませんが……」

「あの女は一応継承権を持っている。動いたとしても我々は使い潰されるだけだろう」

「継承権?それは……」


 後方から大きなが上がると会話が中断された。

 親衛隊がエリーゼ・ライヒベルクに向かって突撃を開始したようだった。

 最前線にいるらしいが……これで討ち取れたらしめたものなのだがな。


「ああ、ブース将軍の突破はやはりなりませんか……。少数であってももはや……せめて将軍さえ無事であれば」


 無様な敗残兵、恥も外聞を捨てて親衛隊を囮にして旗も鎧も……誇りさえも捨てた逃走。

 これ以上は何も得られない、。

 国王虜囚よりはマシだが、無様であればどちらにせよ……。

 どちらにせよ、強きロバツは失われた。私が戻ったところでもはや立て直せない。

 なにせ軍隊も、高等教育民すら失ったのだ。


 ああ、博打に負けるということは……引き際を誤るということは……なんとも物悲しいものだ。

エリー「ふんっ!」(カァン)

エリー「そんなへなちょこな矢なぞはたき落とせますわ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ