エセルの諦観
「前方への脱出、か」
ハーンの第4陣が当然の如く失敗に終わり、第5陣が即座に逆落としに入る。
いや、第4陣崩壊は第5陣が追いついたことかも知れない。
皮肉なことに第4陣は逃走できずに前に押されるほかなくなった。
それがキサルピナ軍医打撃を与えているかと言われれば……披露は与えているかも知れない。敵は再編も出来ないので下がれない。
かと言って大軍だ。緩やかに囲ってきている。
アルべマー軍もそちらに向かうものは攻撃して処分しているわけで、結局のところ逃走経路は我が軍左翼側に集約される。
あのまま逃げればどこぞの街道に到着してロバツへ帰れるだろう。王国軍に鉢合わせなければだが。
それにしても兵役経験がないものはこうもダメか。
使う予定がなかったとはいえここまで来ると見せ兵としても役に立てたか怪しいな。
いきなり平野に布陣したら突撃されてハリボテだとバレたかも知れない。
今成り立っているのはハーンの名声と陣地的な有利にほかならん。ブースも徐々に押されている。
5000を切るのも時間の問題だろうか?
今や10000程度のハーンが警戒されるのは名声にほかならない。
2万を逆落としして相手は1万削れていないだろう。
そろそろメッキがバレる。いくらキサルピナ軍相手でもだ。
キサルピナ軍を疲弊はさせているがそれだけ、後一撃何かがあればというわけでもない。
昨日の一押しと違う、親衛隊がいればというものもない。
昨日の万全な軍であっても状況は最悪だ。
ハーンが精鋭を持ってして同数で互角の相手が4万以上の時点で割と心が折れそうなものだ。
エリーゼ・ライヒベルクが奇策を使って私を狙ったのはある種の余裕か、王太女としての勝ち方にこだわったからだろう。
現状は攻める側に転じた時点で、もはやこの数を打倒した時点で……あれが使えん兵だったとかそういうことは意味がないのだ。
精鋭1000でも1万はそう敗れるものではない、それがほぼ同数で万全の部隊だ。こうもなるか。
せめてキサルピナ軍がいなければ数で押しつぶすこともあり得たが……。
エリーゼ。ライヒベルクに大きな打撃を与えることさえできればサミュエル王国が割れるか反対派がでてきて手間取ると思うのだがな。王国軍も多少は乱れるはず。
もう少しだけ打撃を与えることができれば新王太女の盤石さをなくせるはずなのだがな。
もはや勝利自体に後ろ向きになっている。
ハーンのあの逆落しの波状攻撃を受ければいくらあの雑兵であっても……私の親衛隊でも崩れているだろう。親衛隊とキサルピナ軍の規模に合わせて1000の波状攻撃でも第3陣くらいで崩壊してるのではないか?
敵は硬い、そして強い。
キサルピナ軍のまとめた軍は蛮族の強さに軍組織の強さも加わり手に負えんな。
これで野心もあって警戒されるようならも吸込しての回し用があるんだが全面的に信頼されそれに答えてるようでは付け入る隙もありゃしない。
どこをどうしたらあんな騎士が公爵領で拾えるんだ?あんな平民が転がっているなら貴族制度なんてとうに終わっているだろう。
馬鹿げている。
アルべマー軍の弓はずっとこちらを狙っている。
あれをくぐり抜けて突破するのは難しい。
前方への脱出の最関門だな、横から矢をぶち込まれたらそれこそたまらん。
ということはだ……。
ブース軍を見ると時たま陣地を取り返しそして削れて引いている。
あれはいいようにおびき出されているな。かといって乗らずに下がればジリ貧。乗るしかないとわかって乗ってはいるのものの、そこから一気に押すことも出来すただただ数を減らしていく。
スペンサー軍は時に投入されてチャンスを奪っていく、ブースもあれでは厳しかろう。
こちらも臨時徴兵を委ねたいが、この状況で増援い送ったらそのまま丘を降りて逃走経路を塞がれる可能性もある。
ハーンはそろそろだろうか?
第5陣と第4陣のおしくらまんじゅうのせいか、第6陣の丘を降りる速度は緩やかになっている。
臨時徴兵された連中にとっても逃げるチャンスのほうが大きいのは先生から脱出してる連中を見ても確かだ、あるいは見せつけるためにやっていたのかも知れないが。
「陛下、伝令です。第6陣を持って前方へ」
「わかった」
つまりはあれはアルベマーに行くのであろう。
弓で射殺され、数を減らしつつも我々を狙い続ける。
だが全軍で斉射されるよりはマシなはずだ。
我々はアルベマーを突破するわけではない、その横からサミュエル街道に逃走して逃げるだけのことよ。
「エリーゼ・ライヒベルク本陣が移動しています」
「本陣が?」
「我が軍の前進予定経路に……移動しております」
「…………まったく手の内がバレていたか。ブースにも謝罪せねばならん」
「いかが致しますか?幸福という手段もございますが」
「降伏は性に合わん、それにここにいるのがロバツ全軍だぞ?降伏したところで……ハーンも軍もいないロバツが交渉できるとは思えないな。スカケルも投げ出すだろう。どこに泣きつくにせよろくなことにならない」
「それでは……」
「相手の首がわざわざ届くところにでてきたのだ、狙うほうがいいだろう。逆落しのように見せつつただ丘を駆け下りる準備をせよ。前への撤退だ、ついでに首を取れば勝ちだ。簡単だろう?」
昨日失敗したばかりだな。
スカケル「やることが、やることが多すぎる」
死にかけの国庫「」




