キサルピナと逆落し
ブランケット・スペンサー連合軍がブース軍に対して再度の攻撃を続行していた頃、キサルピナは逆落としに来る兵を感情なく見ていた。
あの程度でで何をするのか?備えにしても速度が早い当たり逆落としはするのであろう、かといってどうするのか?
ハーン将軍は何を考えてるのかわからんな。
これが変な相手であればただの暴走か何かと思うものだが……。
まるで統制なく転がり落ちるように迫りくる兵は何がしたいのかもわからない。
よく見ると逆落としの後にまたハーン軍がゆっくりと下っている。
なるほど、逆落としをしつつ下ることでもう少し攻めやすい位置に来るつもりか?
次が抑えか?
「迎撃をしておくといい」
そういうとキサルピナはエセルの布陣を眺める。
射程外に下がったが後方に動揺はないな。
ふーむ……ブース軍はどうだろうか?なかなかしぶとそうだ。
ブランケット領軍主体とはいえ単純な数でも勝てるだろうが、早くあの陣地を抑えられればエセルを攻撃射程内に抑えることができる。
エセルを討てれば勝ちなんだがな。
決闘ですめばいいのに……。
視線を戻せばハーン軍の5000ほどの兵が逆落としのために降りた直後のようであった。
こちらに向かわず逃げようとしてるようにも思えるが……。
新兵か?
キサルピナがそう思った瞬間、ハーン軍から弓攻撃を受け逃げようとしていた部隊は多少犠牲になっていた。
それでも逃げようとする兵は置いて置かれ、敵の先陣は槍の餌食となっていった。
「手応えはなさそうだな、戦死は300程度で抑えられたな。負傷はなかなかいそうだが……弱いな」
「はい、ハーン将軍の部隊とは思えません」
「便宜上の指令官で指揮官が無能なだけかもしれんな」
ハーン軍を撤退、と言う割にはあちらこちらに逃げていくさまを見て溜飲を下げる。
なんでああもばらばらに逃げるのだろうな?
まぁ丘を上るのではな……あれなら逆落とし後に仕事が減るだろう。
「追いますか?」
「放っておけ、あの逃げ方は違う。作戦ではない。領地を荒らす集団になれば狩ればいいことだ」
「それでは掃討は終わりで再び……」
「ハーン軍、再度5000近くを逆落とし開始!」
なるほど慢心を突くわけだ、だが警戒は解いていない。
「再度迎撃すれば良し、穴は?」
「兵は潤沢です、すぐに塞げます」
逆落としをまた始めた兵を眺めながら私はハーン将軍の意図を探る。
2回目?
見ればやはり逆落としをしない後方の兵は緩やかに下ってきていた、エセルの右上に布陣していたハーンは長蛇のようになり、逆落としをしていない部隊の位置はエセルの陣に並んでいる。
時間稼ぎか疲弊を招くか、どちらで来るつもりだ?
「兵を配置いたしました」
「うむ、ご苦労」
「敵はこの遅さで一体何をするのでしょうか?」
「ハーン将軍の考えることはわからん、大抵こちらの裏を読むからな」
裏を読むことも裏の裏を読むことも相手の思考誘導もなんでもござれだ。
戦場ではそれができないと勝てないからだろうが……。
第2陣が到達した際、今度は先程よりはだいぶまともそうであった。
先程より戦死してそうだなと思いながらハーン軍を見ると逆落としとまではいえぬ足でゆったりと丘を降りていた。
「敵軍壮健、騎馬隊で横を突きますか?」
「さすれば第3陣が駆け足で降りてくるだろう。わざわざ各個撃破させてくれるのだ。感謝せねばな」
第2陣の逆落としは先程の無様さと比べるとまともな逆落としといえた。
場撃もあり、槍兵を少しは突破されながらも弓兵たちの餌食となり気がつけば逃げ始め散っていった。
「あのまま合流してハーン軍後方で新しく再編されてまた突撃してくるのではないかと思いましたよ」
「流石にそこまで無駄なことはしないだろう。そもそも逃げる兵を見ていると最初っから誰かを逃がすためにあの中に重要人物を混ぜたのではないかとすら思うがな」
「重要人物?」
「毒物の専門家でも読んで井戸に毒を流す予定だったのかもしれないぞ?」
「それは厄介ですね」
「第3陣!逆落とし開始!」
第3陣逆落としを聞いた我々は戦場へ向き直るとまたもやハーン軍自体が南下している姿を見た。第3陣が今の逆落とし開始であるから……あれはエセルの陣地と並んでいるのは5陣くらいだろうな。
「兵は足りているか?」
「46000はいますよ」
「減ったな、蛮族同士以外でここまで減るとはさすがはハーン将軍と言うべきか?」
「むしろ少ないほうかも知れませんね」
「前とはこちらの数が違う、迎撃を開始せよ」
そう言いながら敵の第4陣を見ると、やはり少しづつ下がっているのが見える。
「エセルが呼応するのか?」
エセル軍を見ても特に殺意のようなものは感じない。逆落としはしないようにも思える。
我が軍は犠牲を出しながら敵第3陣を撃破せりとでも言う場面だな。
第3陣が到着するとそれなりにしのぎはしたがやはり犠牲は出た。
どんどん強くなっている?
「敵軍撃破、相変わらず慌てて逃げていきます。あっアルベマー軍の方に向かう集団がいますね」
と報告された途端、アルベマーは即座にこの敗残兵を斉射して討ち滅ぼした。
「まぁそうなるわね、でも問題ないわ。次も逆落としが来るわよ」
「またですか?」
第3陣撃破をしたことにより再編をしようとするが敵第4陣が迫っていたため断念。
キサルピナはなんとなく敵の意図が見えてきた。
ベス「今こちらに向かう……数百人規模の人間?……邪魔だから処分しておいて」




